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第十二章

12-14 メリアの思い ~視点変更メリアドール~

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カズさんは一体どうなさったのでしょうか…。
いきなり思いつめた顔をされて、その後、石化魔法を唱えて…貴族の顔を見たディートリヒと話をして、それから表情が無くなりました…。
ベリルに対しても、あんなに怒らなくても良いのに…。
どこか変です。

「じゃ、みんな宿屋に戻ってて。」

 今はみんなで宿屋で待っていた方が良いようですね。

 宿屋に到着する。

「奥様、お帰りなさいませ。
 あ、旦那様は?」
「主人はまだあの場所におります。終わられたら戻って来られますので、それまで休憩しましょう。」

 ソファに腰を落ち着かせる。
昨晩からいろいろとありましたね…。
しかし、今までのカズさんと違います。思いつめた顔をされていました。
眉間に指を当てる…。

「奥方様、少しよろしいでしょうか。」
「どうしましたか。ディートリヒ。」

そう言えば、カズさんは私たちを宿屋に戻す前にディートリヒと話をしておりましたね。

「カズ様が、あのような対応をなされたのは私のせいなんです…。」
「何かあったのですか?」

それから、ディートリヒは自身があの貴族に何をされてきたのかを話してくれました。
聞けば聞くほど、腸(はらわた)が煮えくり返ってきます。

「それで、カズさんは貴族というものが嫌いになられたのでしょうか。」
「そうかもしれません…、しかし、ユーリ様やティエラ様のような方もお見えになられるという事もご存じです。それに、メリアドール様のような方も…。」

そうでした…。私も貴族だったんでした…。
でも、カズさんは貴族が嫌いというのではなく、何か思いがあるはずです。
それに気づかなければ、私達はカズさんの傍に居ても何も変わらないという事ですか…。
何か見つけなければ、カズさんがどこかに行ってしまう…、そんな気がします。

「ディートリヒ、苦しい過去を話してくれてありがとう。」
「カズ様は、あの帝国の貴族を私の代わりに殺します…。
 本来であれば私が殺すべき相手ですが、その…伴侶がすべきことだから、助けるのは当たり前だとも仰りました。」
「ディートリヒは、カズさんに愛されているのですね。」

羨ましいです。私もこれほどまでに愛されたい…。
カズさんとディートリヒの関係は、私とは全然違います…。
敵いませんね…涙が溢れてきました。

おそらく、カズさんのディートリヒへの愛が深いほど、あの貴族がディートリヒに与えた苦痛と同じ事を与える…。
ヒトを殺すという事をディートリヒの身代わりに…。

 あ!いけない!

ヒトを殺めるという事は、闇に心が染まってしまう。
ヒトを殺めることに耐性を持っていないと、どんどんヒトでなくなっていく…。

「サーシャ、ネーナ、少し話を聞かせて。」
「何でしょうか、奥様。」
「ヒトを殺める時に注意すべき事は。」
「心を強く持つことです。そして、ひと思いに殺さなければいけません。」
「それは何故?」
「恨みなどがあっても相手にそれを向けてはいけません。そうしないと暗殺ではなく殺人になってしまいます。」
「という事は…
 カズさんが今やろうとしている事…、闇に葬る事…、殺人…。
 しまった…、“闇に葬る”ことを違う意味でカズさんに教えてしまった…。」

思いを言葉で届けることは難しい…。
よく、カズさんが言ってる“言の葉”の意味が、今ようやく分かりました。
愛しているという意味…、カズさんが伝えてくれた事をはき違えてました。

「分かりました…。
 では、私達にできることは、カズさんが笑顔で戻って来られるようにすることだけですね。
 では、クラリッセ、皆さんを集めてください。」





「…という事で、カズさんはご自身の心の闇をご自身で取り払わない限り、私達のもとには戻って来ないと思います…。」

ディートリヒが、ワナワナと震え、涙を流している。

「ディートリヒ、それはあなたのせいではありません。
 すべては、カズさんの優しさです。
皆、カズさんと助け合って生きていくことを望んだ結果ですから、これから同じ経験を何度もするでしょう。
でも、私たちにはカズさんしかいません。
カズさんと一緒に助け合いながら笑顔で生きていく事を選びました。
ですから、カズさんが戻ってくるまで、今までカズさんがやってこられたことをやりましょう。
そして、戻ってこられた時、皆で笑顔で迎えましょう!」

「はい((((はい))))。」

皆、泣いている…。
でも、立ち止まっていては何もできない。

「今まで、カズさんがおやりになっておられた事を分担しましょう。
 じゃぁ、書き出していきましょうか。」





「はぁ…、これほど多くのことをおやりになっていたのですか…。」

シェルフールでの食事、風呂の準備、伯爵家、トーレス商会との調整、商売に関して商業ギルドとの調整、孤児院への気配り、武器屋、大工、ご近所さんとのお付き合い…。
クローヌでの屋敷建設、街路、上下水道、公共浴場の整備、街の復興、街役・夫人会との調整、ピアスの製作、そして石鹸、しゃんぷりん、下着、服、化粧品、アクセの素材集めと販売戦略・展開…。

これほどまでの事をお一人で…。
仕事が山ほどあるのに、カズさんはいつも私達の話を聞いてくださっていた…。

私たちは甘えていた…。

助け合って生きていきたいと声をかけていただいた…。でも、私たちはその言葉に甘えていた。
カズさんにすべて任せて、カズさんから依頼されたことだけをしていた、ただの指示待ちだったんだ。
だから、カズさんに全部の負担をかけさせていた…。

「皆さん、すみませんでした…。
 私もカズさんの正妻という言葉だけに満足していて、何も助けてあげられなかった…。
 許してください…。」

皆、神妙な顔をしている。

「でも、皆で動きましょう!
 そうしないと、カズさんを闇から救うことはできません!
 皆で出来る事を分担してやりましょう。」

「奥様、では私とサーシャ、ネーナは、食事、風呂、商品などの販売戦略と展開をレイケシアとアデリンと一緒にやっていきます。」
「クラリッセ、お願いね。」

「では、私とニコルとで素材を集めてまいります。」
「ベリル、お願いします。」

「それでは、各調整役は私がやります。」
「ディートリヒ、一人では無理です。そこは私も入ります。」
「しかし、奥様は今回の件で王宮との調整がございます。」
「では、王宮の調整が終わり次第、そちらに向かいます。
 これで、何とか回せますか?」

「奥様、化粧品の商品化については、旦那様がいらっしゃらないと…。」
「では、試作品まで作り、それを皆で使用してみて感想を出し合いながら、改良していきましょう。」

委ねてはいけない…、依存してはいけない…。
愛していることは決して甘える事ではない…。
カズさんがそうして欲しいと言っても、少しでも負担を軽減してあげないと…。

「では、みなさん…、カズさんの“言の葉”のとおり、“踏ん張りましょう!”」
「はい((((はい))))。」

ホールワーズ家は全員捕縛している。
先ずは王宮に行き、今回の顛末を伝え、カズさんに影響が無いようにしなければ…。
私が最初にしなければいけない事がこれだ…。

皆と打ち合わせをしていると、カズさんから念話が入った。

「カズさんから連絡が入りました!」

皆が一斉にこちらを向く。




「終わりました。
 カズさんは、これから馬車で街の外で出会った子供たちとシェルフールまで旅をされるそうです。」
「カズ様は無事なのですね。」
「無事です。ですが、心に深い闇を持たれています…。
 その闇を私たちのようなカズさんに甘えていた者が拭う事はできません。
 時間をかけ、ゆっくりと闇が消えていくのを待ちましょう。
 あ、サーシャ、あなたをカズさん達の護衛兼連絡係とします。
 でも、カズさんからのお願いで、サーシャは何もしないで欲しいという事です。」
「魔獣が出てきても、盗賊が出てきても、何もしてはいけないのですか?」
「そうです。それがカズさんの思いです。
 大丈夫ですよ。カズさんであれば、子供たちを守ってくださいますわ。」

大丈夫…。
私たちができる事をやり、時を待とう。
今まで甘えてきた分、今度はカズさんに甘えてもらおう。

努めて笑顔で皆に伝え、安心させる…。
こんなつらい時でもカズさんは平然と笑顔を見せ、すべてご自身で行われていたんですね…。

流石、私の旦那様です。
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