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第十章

10-13 クローヌ1日目

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 どことなく、ペルーのクスコに似ている。
高い建物は教会のようなものしかなく、2階建くらいの赤レンガでできた家が多い。
赤土の山肌がどことなく荒廃したように見え、寂しく感じる。

「やはり、この街は鉱山で賑わってきた街のようだね。」
「ええ。鉱山からの鉄の出が悪くなると途端にヒトが居なくなって、今では鍛冶屋と宿屋と冒険者ギルドがあるくらいかと…。」
「えと、冒険者ギルドがあるってことは、何か目的があって来るのか?」
「はい。ダンジョンがありますね。」 
「ほう、ここにもあるんだ。」
「でも、ここのダンジョンはシェルフールのダンジョンよりもランクが上で、上級者レベルのダンジョンです。」
「踏破はされたの?」
「いえ、まだだと聞いております。」
「んじゃ、今は何階層までいってるんだろうね。」
「ギルドに聞いてきましょう。」

 俺たち一行はギルドに到着し、受付にて話を聞く。
ここの冒険者ギルドの受付は、シーラさんほどはしっかりはしていないが、受け答えはしっかりとしている。
聞けばダンジョンは39階層までは攻略しているが、40階層のボスが倒せないという状況のようで、その奥の層がどれくらいあるのかも分からないようだ。
で、40階層のボスがレッサードラゴン…って、あいつですよね…。

「お館様、ここのレッサードラゴンは火属性のようです。」
「え?んじゃ、この間のレッサードラゴンは?」
「なんでしょうか?瞬殺でしたので…。」

だって、トカゲですよ…。レッサードラゴンじゃなくて…。
そうは思いながらも、とにかく街の情報を入手すべく宿を取り、酒場に行く。

 夕方近くの酒場では、冒険者も鍛冶屋も一緒になって飲んでいる。
皆、仲良く飲んでいる。
俺たちが入っていくと、少しびっくりしたが、愛想よく話かけられた。

「おっちゃん、見かけない顔だが、シェルフールから来たのか?」
「ええ。少しダンジョンも見てみたいので。」
「おぉ!そうか。ここの35階層からは結構強いから気を付けなよ。」
「どんな魔物が出るんですかね。」
「そりゃ、ドラゴン系とゴーレム系が多いが、火属性が厄介でな。耐火装備していかないとなかなか難しいんだよな。」

 耐火装備、耐熱装備が無いとキツいということか。
うん。俺とディートリヒとナズナはマントがあるから大丈夫だけど、他の子がキツいな。

「ここの防具屋とかはそういったモノを作ってないの?」
「そりゃ、腕のいい職人はいるけど、素材が足りねえんだよ。」
「鉄ですか?」
「いや、ミスリルとかだな。」
 
 話しているヒトに酒を驕ると、何でも話してくれた。
結構いいヒトで、ここに常駐している冒険者でCランクだそうだ。

「おっさん、酒ありがとな。また来いよ~。」
「ありがとね。また来ますね。」

 冒険者特有のテンプレは無かった。
 宿屋に戻り、各部屋に分かれて寝る事にした。
ベッドに寝転がり、少し頭を整理する。
ここを収めていたヒトはスタンピード後に他の街へ異動となった。今は代理官という者がここを収めている。
ただし、前例踏襲という事で何も変化もない、可もなく不可もない。何も変化も無い。
まぁ、普通の街…、寂れた街だ。

 コンコンとノックの音がする。

「どうぞ。」
「イチ様、ミリーです。」

 ミリーがおずおずと入ってくる。

「どうした?」
「はい。少しお話しがしたくて。」
「うん、良いよ。多分、魔法の事だね。」
「そうです。私、マナが皆さんより少ないだけでなく、魔力も弱いと感じています。」
「マナの量は人それぞれだからね。でも魔力という基準は俺には良く分からないな。」
「魔力というのは魔法の威力だと思います。」
「威力が凄ければ魔力があると…。」
「そう思っていました。」
「で、今は?」
「魔力というものが分からなくなってきたんです…。」
「俺が言うのもなんだけど、魔力って何だろうね。
 マナが多いヒトなのか、それとも威力があるヒトなのか…。
 でも、魔法ってそんなもので決められるものではないと思うよ。」
「それは何故ですか?」
「魔法はヒトそれぞれだからね。それにミリーは錬成とか集合とか細かいものができるようになっているんだろ。細かい事ができる魔法も必要だと俺は思うよ。
例えば、この金属とこの金属を錬成して一つの金属にできるってことは、金属と金属が均等に交じり合わないと合成した金属にならないよね。それができるのは凄く繊細な魔法であると思うよ。」

 俺は鋼のインゴットをくるくると回しながら話す。

「イチ様は、魔物を倒す魔法も錬成に使える魔法も同じだとお考えなのですか?」
「そうだよ。魔法に優劣なんてないんじゃないかな。」
「ふふ。さすがイチ様ですね。
 私の迷いをすぐにふき取ってくださいますね。凄い方です。」
「はは、尊敬されても何も出ないよ。」
「では、何も出ない代わりに、私にマナの流れを教えてくださいませんか。」
「ははは。良いよ。」
 
 そこからマナの流れを再度教えていく。
ミリーのマナは何となくだが、流動が悪く見える。

「ミリー、すまないがベッドに横になってもらえないか?」
「え、ようやく愛していただけるのですか?」
「いえ、違います。マナの流れを見たいだけです…。」

ミリーを仰向けに寝させ、マナの流れを見る。
何故かところどころ流動が乱れている。
特にマナをお腹に集めるところが弱い…。
これは種族特有のものか、それとも何か不具合でもあるのか?

「なぁミリー、少し失礼な事を聞くかもしれないけど良いか?」
「ええ。」
「左側のマナがどこかで滞留しているような気がするんだが。」
「左側ですか?」

 石化した時、“スーパーヒール”で取り敢えず命だけは助けた。
という事は石化がまだ残っているという事か?
いや、石化は解除できた。それ以前に病にかかっていた可能性もある。

「もしかして、冒険者になる時とか、なった後でケガとか病気をしたことはあるかい?」
「はい。その部分はここです。」

 ミリーは左の脇腹を見せてくれた。

 合点がいった。
ケガや病気は俺が魔法をかける前に理解したり認識していないと治らないようだ。
という事は、俺の“スーパーヒール”は一度患者を鑑定してからでないと完全治癒しないという事か。

「ミリー、すまなかった。石化を直した際はこれまでの傷の事を知らずに先ずは生き返ることだけを念じて魔法をかけていたようだ…。」
「あの時は、私の命を助けてくださっただけでも凄い事なので、イチ様が謝ることではありません。」
「それじゃ、その傷も治そう。」

 ミリーに鑑定をかける。
そうすると、彼女の左わき腹に何か違和感を感じる。
もっと良く鑑定してみると、石のようなものが残っている。
それが内蔵の近くにこびり付いている感じがする。

「ミリー、もしかして武器のようなもので刺されたってことあるか?」
「え?そのような事まで分かるんですか?
 はい。以前にゴブリンアーチャーの矢が刺さりました。」
「それじゃ矢じりか。それが腹の中に残っている。それがマナの流れに干渉しているんだと思う。
 だから、それを取り出すけど良いか?」
「は、はい。でも、それは痛いのでしょうか。」
「違和感はあると思うが、痛いと感じたら右手を上げて。その段階でヒールを止めるから。」
「はい…。」
「ミリー…。いいか。治せるのであれば治した方が良い。
 でも、俺は医師ではない。だから信じられないかもしれないが、俺を信じて欲しい。」
「…。はい。イチ様を信じます。
私の命の恩人です。信じないことはありません。何なら、弓でも剣でも私のお腹の中から出してください。」
「いや…、そんなすごいモノは入っていないからね。それじゃ、身体を楽にして。」

 彼女の脇腹に集中する。違和感、異物を確認できた。
その異物がお腹の中を傷つけないようにゆっくりと傷口から出てくるイメージを持ち、お腹の傷も綺麗になるようにイメージする。
ゆっくりと慎重にそして傷つけても再生できるように祈り魔法をかけた。

「治れよ!“スーパーヒール!”」

 ゆっくりと持続的にスーパーヒールをかけていく。
傷口から、石というか白いドロドロした塊が出てきた。
それをタオルで包み、傷口を再生させていく。

 長い時間のように感じたが、3分ほどで終了した。

「ミリー、終わったよ。」
「え、イチ様。もう終わったんですか?」
「あぁ。お腹から出てきたものはこれだ。」

 ドロドロした白いものの中に矢じりのような石が見えた。

「うわ!キモ。」
「でもな、この白いモノ、脂肪って言うんだけど、それがミリーの内臓を傷つけるのを守っていたんだ。だからその脂肪に感謝しないとな。」

「そうなんですね。ありがとう脂肪さん。
 そして、イチ様、二度も助けていただきありがとうございます。
すみません。少し頭がフラフラするのですが…。」
「え、ホントか。熱が出てきたのか?」

 俺はミリーの顔に手を当てようとすると、彼女は俺の腕を取り、上半身を起こし抱き着いてきた。
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