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第九章

9-7 ヒトは決してモノではない!

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 ギルドを後にし、彼女たちの衣類を購入し街に出る。
大勢のヒトが街を歩いている…。
ある者は笑い、ある者は時間が無いのか焦って走っている。
スタンピードは発生したが、ヒトは強く生きている。
その中でも悪い事をする奴もいるし、善行を積んでいるヒトもいる。
どの世界でも一緒だ。

「俺はこの世界に何を求めているんだろうか…。」

 何故か独り言ちしていた。
その言葉を聞いて、ディートリヒが寂しい表情をする。
彼女自身も納得している。この社会の不条理を。
それでも前に進まなければいけない…。
 
 3人の彼女に衣類を数着購入し、先ずは彼女たちのこれまで滞在していた場所を聞く。
聞けば、死んだ2人の宿屋にある馬車小屋で過ごしていたらしく、滞在する場所も荷物も無くなっていた。
ただ、俺の店で寝起きさせることは情報が漏洩する恐れがあり、それだけは避けなければいけない。
どうしようも無いので、琥珀亭に頼みトイレ付の部屋を1か月間、朝・夜食付きで借りることとし、前金で支払う。
 俺に関係する奴隷は皆びっくりするのだが、衣服を買ったり、奴隷の部屋を用意するようなヒトはなかなか居ないようで、3人も驚いている。

 流石に腹が減っているだろうと思い、琥珀亭でみんなで飯を食う事にした。
ナズナを家に行かせ、スピネルらを呼びに行かせる。

「まぁ、多人数になるけど、びっくりするなよ。」

 すでに3人は委縮してしまい、首をコクコク縦に振っているだけだった。

 ナズナたちが戻り、皆で夕食を食べる。

「言うの忘れていたが、うちは奴隷だろうと雇用主だろうと、皆が一緒のテーブルで飯を食うのがルールだ。これは揺るぎない事だから守るように。」
「はい((はい))。」

 それぞれ自己紹介をし始める。
「この度、訳あってニノマエさんの奴隷となりましたエレメンツィアです。」
「私、ミリーと言います。よろしくお願いします。」
「ニコルと言います。どうかよろしくお願いいたします。」

 皆、ちゃんと挨拶してるね。

「なんか事情があって今は奴隷だけど、そのうち解消するからそんなに縮こまらなくてもいいよ。」
「そう言えば、カズ様あと2日ダンジョンに籠る予定となっていますので、彼女たちをダンジョンに同行させますか。」
「それは彼女たち次第じゃないのか。
 もう入りたくないという思いもあると思う。」

 ミリーさんが意を決して話す。

「いえ、是非ダンジョンに行かせてください。」
「分かったよ。だけど、君たちの実力がどこまでかも分からないからな…。
 少し効率が悪くなるかもしれない。」
「そんな事はありません。私たちも腐ってもCランクの冒険者でした。」
「それは死んだあいつのランクだろ?実際の強さが分からないんだ。」
「では、明朝ダンジョンに連れて行ってください。そこで証明します。」

 お!いい返事だ。まだ心が折れてない。

「分かった。じゃ、明日ダンジョンに潜ろう。
 ナズナ、申し訳ないが明日カルムさんの所に行って、このバッグに入っている2体を渡して欲しい。
 それと、出来ればその後の情報収集もお願いしたい。」
「分かりました。」
「カズ様、では明日からは私とベリルが御供いたします。」
「うん。そうしよう。
 アイナ達は進んでいるかい?」
「はいな。それはもう…、あ、後ほどご報告しますね。」

 お、アイナが初めて空気を読んだ。
成長しているね。

「そう言えば、ダンジョンに入る際の武具はどうしようか。」
「カズ様、そう言えば買っていないですね。」
「いえ、私たちは奴隷ですので、武具などは必要ございません。
 むしろ、ニノマエさんの盾として動きます…。」
「あ、俺、そういうの嫌いだから。
すまん。飯の途中だが、ディートリヒ、エレメンツィア、ミリーそしてニコル、今から買いに行くぞ。
 他の人はそのまま飯を食っててくれ。」

 俺と四人は琥珀亭を出る。
レルネさんの店で良いか。あそこなら遅くまでやっているだろう。
ローブとワンドか杖くらいの装備かな…。
良いモノがあると良いけど。

 レルネさんの店に到着する。

「すまん、ルカさん。いつもの掛け合いは省いて、この3人にローブとマナが向上する武具をお願いしたい。」
「仕方ないですね~。
店主はまだ帰って来てませんが、先ずは取り合えずというもので良いんですか?」
「いや、長く使えるものがいいな。」
「それですと、ローブ類はこれですかね。」

 何とも言えないローブが出てくる…。
黒と白の俺好みのゴシックドレスだ。

「もしかして、これも“迷い人“のリクエストだな…。劣化防止もかけてあるくらいだから…。」

独り言ちするが、全員スルーしてくれた。量産品として売っているようだが、俺以外はこんな服を買う奴は居ないだろう…。
コートも買い、武具はさしあたりのモノとしてマナ増幅の付与が付いたワンドを購入。しめて金貨3枚と大銀貨60枚。
金額を支払い、店を後にし宿屋を目指す。

「あの…、ニノマエさん…、このようなモノを買っていただくことはいけません。」
「ダンジョンでは誰もが死と隣り合わせとなる。
 少しでも助かる道があるなら、そこに糸目をつけるのはおかしな事だ。」
「そうですよ。装備をそれなりにしっかりしておかないとカズ様をお守りすることはできません。
 それに死ぬこともできなくなりますね。」
「え((え))。」

ディートリヒが、静かに3人に語りかける。

「エレメンツィアさん、ミリーさん、そしてニコルさん…。
今回ダンジョンに行くことは皆さんがカズ様の盾となって死ぬという思いを持っていらっしゃるのではないかと推察します。」
「そ、それは…。」
「私も奴隷を1年以上やっていましたから、その思いは分かりますよ。
 姉上の敵を討つことができた。運良く親切なヒトに助けられた。
 もう心残りはない。そうであれば所有者の盾となって死ねれば、それで良し。
 だから、装備など興味がなかったのですね。」
「…そうですね…。それに私たちがこのまま居ますと、どんどんお金がかかり、ニノマエさんに迷惑をかけてしまいますから、早めに手を切ってもらうのが良いと思っています。」

 ディートリヒが少し考えるふりをする。

「どうも皆さん勘違いしているようですね。
 カズ様を守って死ぬ事なんてできませんよ。寧ろあなた方がカズ様に守られるのですよ。」
「それはどういった意味ですか。」
「あなたたちは、この街のヒトではありませんね。」
「そうです。ホールワーズ伯爵領から来ました。」
「カズ様、良かったですね。まだあそこまでは知られていないって事ですね。」
「お、おぅ…。」

 あいまいな返事をする。
ディートリヒは何が言いたいんだろう…。さっぱり分からない。

「奴隷というものは、既に自分がこの世に存在していないと自分自身に言い聞かせます…。
 そうしないと精神が崩壊しますから…。
 カズ様は気を遣って“所有者”を“雇用者”と呼んではいますが、所詮、奴隷は所有者のモノです…。
 モノに飽きたら捨てるというのが所有者の思いだと感じます。」

 そうか、ディートリヒは自身のあの辛い経験を話すのだろう…。

「ディートリヒ、もうやめな。」
「いいえ、もう少しだけ。
 私はカズ様に会って、とてもよかったです。そしてこれからもずっと一緒に居たいです。
 そう思う奴隷も居るということです。」

 彼女はおもむろにスカートをたくし上げ、太もものTatooを3人に見せる。
道行くヒトがびっくりして足早にその場を去っていく。

「これが、私の思いです。
 ナズナもベリルもスピネルも、皆紋様を持っています。
 でも、これは奴隷の紋様ではありません。
身体を治してもらい、奴隷を解放してくださったカズ様への思い、そして、奴隷のときの辛さを絶対忘れないために付けているのです。」

 3人が立ち止まり、じっと考えている。
死と隣り合わせのこの世界では、自分が死ねばすぐに終わるという考えはあるかもしれない。
でも、生きている証とは何だ。自分がこの世界に生きた意味とは何だろうか…。
その意味を見出してほしい。

「エレメンツィア、ミリーそしてニコル、俺は君たちがどのように生きてきたのかは知らない。
 勿論お姉さんの事も私怨のことも。
 ただな、今この出会いはどんな意味があったのかという事をもう一度考えてほしいんだ。
 俺も訳あっていろんな事に首を突っ込んでいるが、俺が生きている意味を探し続けている。
 その中に君たちが居るのかどうかは、君たちの考え方次第だ。」

 なんか、こんな話を何度もしてきた。
ディートリヒ、ナズナ、ベリル、スピネル…どうしてこういった女性が集まって来るんだろうか…。

これも神様が言っていたヒトを助けるという事なのか…。
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