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第九章

9-1 シェルフールでのひと時

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 翌日、みんなそれぞれの役割を得て行動を開始する。

 俺はジョスさんのところに行き、風呂桶の予備が残っているのかを聞く。
まだそのまま2つ残っているという事だったので、2つとももらい受ける。
焼いたパンもどきをお土産にし、もしかすると、また店の改修をお願いするかもしれないことを伝えると、快く了解してもらった。

 後は、レルネさんが戻っているかだ。
魔道具屋の通りを歩く。
懐かしい感覚だ。
お、店が開いている。俺はドアを開ける。

「邪魔するで~」
「邪魔するなら帰ってんか~」
「ほな、帰るわ…。って、いつもの掛け合いだね。ルカさん。」
「あ、ニノマエさんじゃないですか!お久しぶりですね。あ、店主呼んできますね。」
「お願いします。」

 程なくして、いつもの顔が奥から出てきた。

「イチよ、久しいの。」
「レルネさん、お久しぶりです。いつ戻られたのですか?」
「5日くらい前かの。一度主の店まで行ったのじゃが、留守での。」
「ええ、ビーイの街まで行ってました。」
「そうか。」
「あ、そう言えば、ビーイの街でアデリンさんに会いました。彼女に俺の仕事の話をしたら乗り気で、俺の仕事を手伝ってくれるようになりました。それとこの街に引っ越してくるそうです。」
「そうか…、あやつも苦労人での。数百年前にの、郷が地龍の暴走に遭っての。
ほとんどの者が死んでしもうたんじゃよ。」
「しかし、“渡り人”に出会って、衣服を作り始めた、と。」
「そうじゃ。」
「その衣服も併せて、女性を美しくする店を出します。」
「ほう。何を売るんじゃ?」
「サボーに似た石鹸と髪を洗う石鹸、そして下着です。」
「そのようなモノをイチは作っておったんじゃな。」
「これから作りますよ。それに下着はノーオの街で生産します。
 その工場も建設中です。」
「なにやら、儂がおらぬ間にどんどんと話が進んでいくの。」
「そうですね。決まるときはホントに早いです。」
「それは良い事じゃ。
 お、そうそう、イチに頼まれておったものを持ってくるから、ちょっと待っておれ。」

 レルネさんは奥に行き、布に巻いた塊を持ってきた。

「牙が何本もあったので、大きな牙は4本剣にしたぞ。あとの牙は短剣にしておいた。」
「え、俺1本だけお願いしたんですけど…。」
「これも何かのついでじゃ。すべて持って行け。」

 剣は牙の反りを利用した2対のショーテルとダガーが8本…。
レルネさん、どれだけ作ってくれたんだ…。

「レルネさん、すみません。」
「何、問題ない。
 あ、長いやつ4本はマナを通すと青く光り、切れ味が増すからの。」
「それじゃ、お言葉に甘えて。
 あ、郷への交易についてですが、ノーオの街を拠点に馬車を走らせることになりました。」
「ほう、そうか。ならあの郷も活気づくの。」
「ええ、それと糸を作ることってできますか?」
「それなら今でもやっておる。それに布も織っておるの。」
「それでしたら、今度ノーオの工場に行き、どのような布が必要なのかを調整しましょうか。」
「そうじゃの。
 郷は絹が織れるぞ。」
「そりゃ良い。絹は上等品になりますからね。」

 いろいろな地の特産品が集まり下着を作ることができる。
点と点が繋がり線になった感じだ。

「おぉ、忘れておったわ。
 郷からイチの店に行って仕事をする奴じゃがの…。」
「あ、そうでしたね。」
「儂がいく事になった。」
「へ?」
「儂が行くんじゃ。文句はなかろう。それに隣にアデリンもおるのじゃろ?」
「店はどうするんですか?」
「そんなもの、片手間にやるぞ。どうせ閑古鳥だからの。」

 けらけら笑っているが、それで良いのか?

「では、5日ほどダンジョンに籠りますが、家にはスピネルという竜人族が地下の研究室で髪を洗う液体の石鹸を作っていますので、是非指導してやってください。」
「ほう、竜人族とな。
 して、そ奴はどんな魔法が使えるのじゃ。」
「えぇと、熟成、錬成、撹拌、分離…、」
「な、なんじゃと…、儂よりすごいじゃないかえ…。わざわざ儂がいく事もなかろう…。」
「それが大有りなんです。
俺たちが使っている魔法で出来たとしても、道具を使って錬成する技術がないんですよ。
なので、レルネさんには道具でできる錬成方法を確立してもらいたいんです。」
「なんじゃ、とてつもない話じゃの。
 まぁ良い、一度そ奴の魔法を見て考えるとするかの。」
「では、いつでも来てもらっても問題ありませんので。
 あ、それとスピネルには使い方を教えますので、風呂は使ってもらって結構です。
 それに、遅くなるなら客室を使ってもらっても構いませんので。」
「なんじゃ、至れり尽くせりじゃの。」

 レルネさんの店を出て、ベリルが居る冒険者ギルドを訪れる。
ドアを開けると、ベリルがシーラさんと何やら話している。

「ベリル、どうした。」
「あ、主殿、ちょうど良い時に来られました。
 実はシーラさんが、主殿に折り入って頼みたいことがあると言うのですが…。」
「娶ってとか言う話はイヤです。」

「ちっ。」

 残念娘が舌打ちしてるよ…。
そう言えば、ここにもう一人残念娘が居たことを忘れていた。

「ニノマエ様、今回はちょっと込み入った話でして…。」
「断る。では。」
「ちょ、ちょっと待ってください。
 Bランクが全員出払っており、Cランクも“繚乱”のニノマエさんだけなんですよ。」
「Bランクが受けるに相応しい依頼を、何故Cランクが受けなきゃいかんのだ?」
「ニノマエ様、あーもう名前呼ぶの面倒くさいんで、ダーリンと…、」
「何故、君のダーリンなんだ!?あんたアイナの姉妹か?」
「え、アイナさんまで…、ちっ、先を越されたか…。」
「全部聞こえてるぞ、残念シーラさん。それにアイナはまだだ。」
「では、私にもチャンスがあるかと…、」
「それは無い(無いです。)。」

「で、話を戻すぞ。その込み入った話って、一応聞くだけは聞いとく。」
「さすが、ダーリ…、すみません。ニノマエ様…。
 最近Cクラスに上がったばかりのルーキーさんが、ダンジョンから戻って来ないんです。」
「それは、何時からなんだ。」
「4日前です。予定では2日前に戻る予定だったのですが…。」
「あいつらは第何階層まで行くと言ってたんだ?」
「はい。何やら欲しいものがあるそうで、第20階層まで行くと…。」
「第20階層のボスはバジリスクだぞ。Cランクのルーキーじゃまだ早いんじゃないか。
 自分の実力を過大評価しているって事か…。それともバカなのか…。
 まぁ、あの辺りの階層に用事があるから…。」
「では、受けてくださるという事で。」
「助ける条件は?」
「ダンジョンの外までの護送です。」
「ダメの場合は、装備か遺品か…。ただ、ダンジョンに食われなければ…だ。」
「そうなります…。」

 午後から行ってくることを告げ、ギルドを出た。
助けることができればダンジョンの外で別れて、俺たちはもう一度潜る。俺たちは5日潜るんだ。

「分かりました…。お気をつけて。」

 なんでこうなるかな…。
トラブルというか、ゆっくりできる時間が無い…。
いつもトップギアで走っているような気がする。
ホント、そろそろ休もう…。
そうだ、ダンジョンの探索が終われば、一度火山帯の街まで行きがてら休みにしよう。

 家に到着する。
ディートリヒ、ナズナも家で既に準備していた。
俺は事情を話し、このままダンジョン直行する。

 徒歩で3時間半。久しぶりに歩いたせいか、足がだるい。
ダンジョンの守衛さんに、ギルドの依頼でCランクパーティーの捜索に入る事を告げる。

「あぁ、あいつらだよな…。なんか鼻に着く野郎だったよ。」
「そうですか?何人パーティーなんですか?」
「男1人に女性4人だ。」
「すみません…、それ、自分たちと同じような…。」
「あぁ、あんたに憧れているんだろ?“Late Bloomer”さん。」
「棺桶担いだおっさんなんですがね…。」

 そう苦笑いしながら、ダンジョンの中に入っていく。

「ナズナ、索敵で敵を探り最短コースで行ってくれ。多分10階層くらいはクリアしていると思うけど、念のために6階層から調査していこう。」
「お館様、分かりました。」
「主殿、会敵したら、私とディートリヒさん、ナズナさんの3人で掃討していきますので、力を温存しておいてください。」
「ありがとう。俺はその分索敵に集中するよ。」

 さて、久しぶりのダンジョン。どうか無事で居て欲しい。
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