地方公務員のおっさん、異世界へ出張する?

白眉

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第八章

8-1 ビーイ到着

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「社長、見えましたよ。ビーイです。」
「あぁ、分かってるよ…。
 それと余り馬車を揺らさないでくれ…。身体中痛いんだ…。」
「そりゃ、そうですよ社長。伯爵様の馬車の中であんな事やこんな事もされたんですからね。
 でも、ディートリヒ様のほか皆さんは満足そうで良かったじゃないですか。」
「お前は誰の味方なんだ。」
「そりゃ、ディートリヒ様です。」
「よし、お前の給料はディートリヒからもらえ。
因みにディートリヒもお前と同じ給料だから必然的に減る事は覚悟しとけ。」
「あー、嘘嘘。社長っすよ~。社長が一番ですから。」
「お前、本気で言っていないだろ。」
「ちっ、バレタカ。」
「オマエ、シバク!オレ、オマエ、ハイジョスル。」

 そんな掛け合いをしながら、ビーイの門を目指す。
もうすぐ日暮れだ。日没までには街に入れるだろう。

 門に到着した。
流石に大きな町だ。壁の高さだけでもシェルフールの倍はある。
どれだけ大きな街なんだろう。入るのが楽しみだ。

 街に入る前には通行証や身分証を見せ、チェックされるようだ。
特に日没時は街に戻る人が多く、何十人も並んでいる。

「社長、どうしますか?」
「どうしますかって、このまま並んでいればいいだろ。」
「いえ、この馬車ですよ。
 貴族の馬車が一般人と一緒の所に並んでていいのかと思いまして。」
「そこは問題ない。俺たちは一般人だからな。
 一般人であれば一般人のルールに従う。馬車は単に借りただけ。それだけの事だ。」
「はいな~。ではこのまま並んでいますね。」

 俺とアイナはそのまま御者席に座り、長い列を見る。
結構なヒトだ。この人たちが街でいろんな仕事をしているんだろうと思うとワクワクする。
どんな仕事をしているのか、メリアドール様がどんな暮らしをしているのか…。
まぁ、どうせ王族の方だからすっごい豪邸に住んでいるんだろうとは思うが…。

 ようやく、俺達の番になった。
「おい!その馬車、見たところどこかの貴族の馬車とお見受けするが、何故、貴族専用の門に並ばぬのだ?」

 最初からフラグを立ててくる門番さん。
如何にも面倒くさい。

「はい。これブレイトン伯爵の奥方様からお借りしたもので、我々は一般市民です。
 それ故、こちらに並んでおります。」
「なに?ブレイトン伯爵の馬車だと…、では、馬車の中にはニノマエ様が御乗りになっておられるのでしょうか。」

 あれ?何かテンプレと違う方向に行きそうだぞ。
ここは、やはり伯爵家の馬車を盗んだ盗賊だ、であえ!であえ!とひと悶着あるところだろ。

「あぁ、自分がニノマエですが。」
「これは失礼いたしました。では、このままお進みください。」
「ん?通行証とかは見せなくて良いのか?」
「それは…、メリアドール様からそのような無粋な事はせずとも良いと…。」
「まぁ、そんな事言ってても、他のヒトも見せてるんだから、同じ事をしようよ。
その方が後ろに並んでいるヒトも、貴族の馬車に乗っているヒトも一般人も一緒に身分をチェックされるんだって安心するよ。」
「は!ではそうさせていただきます。
 では、全員分の身分証か通行証をお見せください。」
「はい。お願いします。」



「ご協力感謝いたします。では改めて、ビーイの街へようこそおいで下さいました。」
「お仕事お疲れ様です。無理せずにね。」
「痛み入ります。」

 俺たちを乗せた馬車は街の中に入って行く。
その馬車を見ていた守衛さんは独り言ちする。

「ふぅ、何もかもメリアドール様の書簡どおりだな…。しかし、いつも通りにしていたらどうなっていたんだろうな…。」

 馬車をパカパカと進ませ、ザックさんの店を目指す。
 ノーオの色街ほどの規模ではないが、この街にも色街があった。
色街は日没から仕事が始まる。
朱色で塗られた遊郭の中には、女性が座りながら客を呼び込む。
その掛け合いや遊女との会話を楽しむ人もいる。
いろんな思いや物語があるのだろう…。その一角にザックさんの店があった。

俺たちは店に入る。
いかつい兄ちゃんではなく、物腰が柔らかい男性が対応してくれ、ザックさんの名前を出し、俺の名前を告げると、最上階に案内してくれた。

「ふわぁ~、カズ様、眺めが良いですね。」
「そうだな。」
「お館様、あそこが公爵邸でしょうか。」
「うん。分からん。」
「主殿、美味しいモノはありますかね。」
「知らんし、分からんぞ…。あぁ、もう!俺もこの街は初めてだよ。
 だ・か・ら・これから散策する!」
「え、主様、こんな遅い時間からですか?お店はやっていないかもしれませんよ。」
「先ずは腹ごしらえだよ。その後、大通りを歩いてみよう。
 ディートリヒ、メリアドール様との面会は明日だっけ?」
「はい。明後日の朝10時です。」
「んじゃ、それまでは自由時間だな。
 よし、みんなにお小遣いを渡すから、いっぱい楽しんできて欲しい。
ただ、どんな服を着ているのか、どんな店があるのか、どんな食生活なのかなど、みんなが思うところを明日の夜に教えて欲しい。」
「お館様、それは良いのですが、お館様は明日何をされておられる予定ですか。」
「俺?俺は荷物の整理を今後の戦略を練る時間が欲しいんだ。」
「主殿、それは違う世界へ行かれるという事ですか?」
「あ、意識だけな。考え事していると他事が分からなくなるから…。
 そう言えば、アイナはどうした?」
「アイナさんでしたら、馬車と馬の世話をしてから、宿を取ると言っておりましたが。」
「んじゃ、あいつにもお小遣いをやるか。」

 俺たちは下に行き、アイナが馬の世話を終えたのを見計らい拉致る。
アイナはジタバタしていたが、観念したようについてくる。

「アイナ、宿屋は取らなくていいから、遊郭で泊まれ。」
「へ、でも何されるか分かりませんので…。」
 アイナが珍しく小刻みに震えている。

「おま…、一体なにされたんだ…。まぁいい。ディートリヒらにはイジメるなと言っておくから。」
「いじめられてなんかいませんよ。むしろ、気持ちのいい事ばかり…ゲフゲフ。」

 あ、小刻みに震えていたのは、単なる武者震いか…。

「お、おぅ、そうか…。でも自重するように言っておく。」
「ありがとうございます。これで熟睡できそうです。」

 俺たちはヒトが多そうな食事処を見つけ入る。
皆楽しそうに食事している。うん平和だ。

 メニューが読めない俺は、すべてディートリヒに任せた。

「好きなモノを食べて飲んでくれ。明日は休みとはいえ、いろいろと動いてもらわなければならないからね。それと俺がメリアドール様に合っている間、ナズナ、ベリル、スピネルをどうしようか。」
「社長、私は?」
「お前は好きにしていいよ。万が一メリアドール様がアイナの対応で心証を潰されたとしても補償しかねんから。“氷の魔導師”には逆らわんほうがいいぞ。」
「り、了解です。」

 珍しく納得してくれた。

 料理は可もなく不可も無く…。
皆が言うには、俺の料理の方が格段に上だとの事。
そんなに煽てられると、また作ってしまうぞ~と冗談交じりに言うと、皆それを期待していたようだ。
これまでに作ったトンカツ、唐揚げ、ハンバーグ…いろんな料理名が出てきた。
俺そんなに作った? おっさんだから記憶にないんだ…。
それにインスピレーションで、今日はこれ作ろうなんて思いながら作るだけだから…。

 夕食を終え、大通りを少し歩く。
やはり、流石にこの時間に開いている店は酒や食事だけだ。
明日からの皆の活躍に期待しつつ、宿に戻る。

店に入るな否や先ほどの店員さんから、

「ニノマエ様、こちらを公爵家より預かっております。」
と蜜蝋で封印された書簡を渡された。
 
「この書簡のあて先は…。」
「蜜蝋の紋章からアドフォード家ですね。」
「メリアドール様か…。」
「おそらく。」
「で、何で俺たちが宿泊する場所を知っているんだ?」
「それはアドフォード家ですから。」

 部屋に戻り、書簡を開けて読んでもらう。

「ディートリヒ、何て書いてあるんだ。」
「はい。カズ様。
 『明日の夕刻、当家にて夕食会を開きたい。
  ついてはそちの得意とする料理を披露し、ご提供ねがいたし。
  勿論、素材は言い値で購入する。  メリアドール・アドフォード』
  だそうです…。」
「面倒くさそうだ…。バックレる事は…、出来んよな…。
 はいはい。では行きますよ。そこにいらっしゃるんでしょ。店員さん。
 それと、正式な招待でもないから、彼女たちは自由にさせても良いのかね。」

「さすがニノマエ様ですね。」

 部屋の隅からさっきの店員さんが現れた。
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