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第七章

7-20 ザックさんとの再会

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「社長、ようやくノーオの街が見えてきました。」
「そうだな。ここまで約7時間か…。結構かかるもんだな…。」

 途中、『万国びっくりショー』の開催と休息とランチをいれて7時間、実質は6時間くらいか。
もう少し早ければ楽になるよな…。などと思いながら、街を目指す。
護衛の皆さんも最後の力とばかりに背筋を伸ばして隊列を乱さず行進している。

 3回目のノーオの街だ。
まぁ最初の2回は中継地としての滞在と魔道具の交換だったから、長くは滞在しなかった…。
今回は、ゆっくりと街並みを見たいよね。

 門には懸垂幕がかかっている。

「ディートリヒ、何て書いてあるんだ?」
「はい、カズ様、『ニノマエ様歓迎!ようこそノーオの街へ』と。」

 うわ、こっ恥ずかしい…。そんな思いをするも、御者のアイナさんは何故かふんすかしている。

「社長~、すごい歓迎ぶりですね。なんか嬉しくなってきますよ。」

門をくぐると、大勢の人が集まっている。
皆、口々に「ようこそ~」とか「いらっしゃ~い」なんて言ってるが、俺は客なのか?
お金をいっぱい落としてくれる社長さんだろうか…。なんて思う。

 馬車は大通りを抜け、色街へと入って行く。
色街でも遊郭の女性や従業員がこぞって沿道に出て挨拶をしてくれるが、全く意味が分からない。
何故、こんなに歓待を受けるのだろうか…。

遊郭の奥、ザックさんのお店を越えた先に豪邸が建っていた。
門の前で手を振っているヒトがいる。ザックさんだ!
 
「兄貴――――! お待ち申し上げておりましたーーー!」

 ワンコで言えば、尻尾をぶんぶんと振っている感じだ。

 馬車を停めた後、馬車から下りてザックさんとがっしり握手をする。

「すみません。急におしかけてしまい…。」
「なんの、なんの。兄貴の願いであれば、すべて止めてでも歓待するのが道理です。」
「あの、自分、ザックさんの来訪の時はそんな事できませんよ。」
「そんなの“ちまい”事ですわ。それに俺っちは弟ですから。」
「お、おう…。すまないね。」
「そんな事よりも、お疲れでしょう。ささ、散らかっていますが、どうぞ中でお休みください。」

 嘘つき…。
全然散らかっていないし、塵一つないくらい磨かれているよ…。
それに、メイドさんもいらっしゃるんだ…。すごいお金持ちなんだ…。

 アイナだけは馬車を置き、馬を休めるという理由で部屋には居ないが、残念ギャルズとともに応接間に通される。
 そこには、なんだこれ?本当に人なのか?と思うくらいの美女が2名並んでいる。
ザックさん、やるね…。

 そこでお互いの挨拶が始まった。

「俺っちの第1妻でルーシア、こっちが第2妻でアリウムです。
それともう一人後で紹介させてもらうけど、遊郭を運営しているのがブランディーヌの3名です。」
「こちらは、右からディートリヒ、ナズナ、ベリル、スピネルです。すべて伴侶です。
あ、あと御者をしてもらっているのがアイナといって雇用者です。みなさんよろしくお願いしたします。」
「よろしくお願い申し上げまする。」

 ん?何か言葉遣いが変だが、まぁいいか。

「まぁ、積もる話は後にして、兄貴、俺っちのかみさんが欲しい欲しいと言ってたものを…。」
「あ、そうだね。んじゃ、ここに出すけどいいのかい?
それとも3人だから、ルーシアさんにはベリル、アリウムさんにはスピネルを付けて、使い方を教えるね。それじゃ、先ずルーシアさんはこれで、アリウムさんはこれだ…と。」

 俺はそれぞれ20セットの下着を出し、ベリルとスピネルに渡す。

「ありがてぇ。あれ以来、毎晩下着はまだ来ないのかってせっつかれてて…。
 本当にありがとうございます。一生兄貴についてきます!」
「ははは、そんなのはどうでも良いって。俺たちもいろいろとやらなきゃいけないこともあって、ここに来てるんだからね。
 それはそうと、あと1セットは誰…、って聞くのも野暮だね。」
「あ、もう1セットですか…、あれはちとここでは言えないので、後ほど。」
「了解。んじゃ、あとはお土産各種だけど、奥様がいらっしゃった方がいいよね。あ、遊郭の方でお土産渡した方が筋が通るね。」
「くっ!そこまでお気遣いいただけるとは…。
 では、ブランディーヌの所に行きましょう。
 あ、兄貴の奥方はどうされますか?
 ここでお休みになられても良いですし、散策もできると思いますが。」

「お館様、では私はお屋敷の警備を確認してまいります。それと水場の位置も確認しておきます。」
「ナズナ頼む。では、ディートリヒを連れて遊郭に行きましょう。
今は営業時間ですか?」
「まだ営業時間外ですね。であれば、俺っちの店で働く従業員にも挨拶させます。」
「ははは。それはブランディーヌさんの思い次第だよ。準備で忙しいかもしれないからね。」

 ザックさんを先頭に、俺とディートリヒが歩く。
その横を護衛が歩いている。

「なぁ、ザックさん、なんで護衛が必要なんだ。」
「そりゃ、俺っちが、ちと有名だからです。結構タマ取られかけた事もありましたからね。」
「そりゃ、尋常じゃないが、日中の街中ですよ。」
「それでも、色街ってところは違うんですよ。」

 確かに索敵をかけてみると、赤い点が結構あるが、全員が動いていない。
様子見というところだろうか。

「ザックさん、敵さんは動かないみたいですね。」
「へ、兄貴、何で分かるんですか?」
「あ、俺、索敵魔法できるから。」
「えぇーーーー。そんな高度な魔法ができるんすか?」
「と言っても、感覚だけですけどね。」
「兄貴、もしその魔法を教えて欲しいって言うと教えてくれるもんですか?」
「悪用しなければ教えることはできると思うけど、ザックさんはマナの動きは分かるのかい?」
「マナですか…、なかなか難しいですね。」
「先ずはそこから進めなくちゃいけませんね。」
「是非、手ほどきをお願いします。
っと、さぁ着きましたぜ。この店が俺っちの女がいる店です。」

 なんてゴージャスな店なんだ…。
こりゃ、一晩いくらくらいかかるんだろうかね…。
ま、俺には必要のない場所ではあるが、ディートリヒでさえ声が出ないくらいのゴージャスさだ。
王宮のような煌びやかさ、白い大理石かどうかは分からんがピカピカの床、魔道具のシャンデリア…。
これがブルジョワというものなのか…。

「兄貴、ここには現実には無い世界を味わってもらえるよう、5代前の店主が改築したんですよ。」
「なぁ、それって前言ってた曾じいちゃんの曾じいちゃんか?」
「そうです。なによりも“渡り人”から知識を得て作ったとか…。」

 “迷い人”さん…、ここに全力を注ぎこんだのか…。
いや、分かる。分かるよ。男のロマンだもんな。

 俺たちは事務室の奥にある応接室に通される。
なんかこの応接室も凄いし、待っていた女性…、あ、この方前回俺たちが出ていく際に見送りに来ていた方だ。

「初めましてニノマエ様、私が色街を運営しているブランディーヌと申します。」
「二度目ですね。ブランディーヌさん、ニノマエと申します。」
「ふふふ。やはり気づかれていらっしゃったのですね。」
「その節は見送りに来ていただき、ありがとうございました。」
「かないませんね。一応隠蔽はかけていたんですが…。」
「え、全部見えましたよ。」
「ふふふ、冗談です。」

「そうか、ブランは見送りにいってくれてたのか。」
「はい旦那様。旦那様がお認めになられた方です。どのような方か興味がない訳ないですから。」
「兄貴、こいつはこんなすげー奴なんです。
 俺っちには勿体ないくらいですわ。」

 ザックさん、女性を上げるのが上手だ。俺も見習おう。

「ブランディーヌさん…、」
「ブランと呼んでくださいまし。」
「で、では、ブランさん、これがブランさんのお土産です。ディートリヒ、付け方を教えてあげてね。」
「はい、カズ様。」

 2人が試着しに行ったのを見計らい、俺はあと1着の行方を聞く。

「ここなら音声遮断の魔法がかかってるから大丈夫ですかね?」
「兄貴?そのような魔法までご存じなんですか?」
「あぁ。何ならかけなおしておこうか。ほい!っと。これで大丈夫だと思うよ。」
「あ、あ…、あ…。」

 顔〇しですか?

「で、あと一つは?」
「あ、すみません。ここを身請けする子が居て、その子に渡そうと思っていました。」
「それは、まだ早いと思う。」
「え、それは何故ですか。」
「俺も“渡り人”だからね。この下着はここで作られたものじゃないんだ。だから、今回ザックさんにこの世界で下着を作ることができるような相談をしたくてノーオに来たってのが理由だ。」
「そうですか…。分かりました。
 では、この20セットは俺っちが使います。」

 は?使うって?

「あ、俺が使うってことじゃないですよ。もう一人いい子がいて…。」
「そこは任せます…。」
「で、その話は夜にしましょうか。勿論ブランも呼んで。」
「ザックさん、ザックさんのところも奥方様とブランさんは仲が良いのですか?」
「あ、一応ルーシアもアリウムも、俺っちが身請けしてますから、みんな知り合いですわ。」

ザックさん、大金持ちでした。
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