地方公務員のおっさん、異世界へ出張する?

白眉

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第七章

7-18 馬車での移動

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 翌朝、ジョスさんに一週間ほど留守をするので、工事も休んで良いと伝えると、あとは工房だけなのでゆっくりとやるよ、と言われた。
取り敢えず2階のアイナの部屋だけは入っちゃダメということで、お風呂も使っていいことを伝えると、弟子さんたちも喜んでた。
 パンもどきは少ないだろうけど5個渡しておいた。
勿論ワインの熟成もかけて10本ほど渡したら、泣いて喜ばれたよ。

「それじゃ、アイナ頼むよ。」
「あいあーい。ハイよーシルバー!」

「なぁ、アイナさん…。馬にもう名前つけたのか。」
「はい。こっちがシルバーで、こっちがロシナンテです。」

 アイナは転生者か?
何故に昔の事を知っているんだ…。
それにうちの馬じゃないのに、他人の馬の名前を勝手に決めるんじゃないよ…。

俺たちは2頭立ての馬車で街を出て行く。
守衛さんには予め俺が伯爵家の奥方ズの馬車を利用することを伝えておいたので、何事もなく街を出た。

「カズ様、流石に2頭立ては早いですね。」
「そうだな…。でも伯爵家が使っている馬車の割には振動が凄いな。」
「はい。ガタガタいってますね。」

 まぁ、そうだろうな。
車輪が直接荷台にくっついてるから、振動も直接感じる構造だ。
これを無くすために“板ばね”を使用したり、スプリングを作ってサスペンションやショックアブゾーバーを入れたりするんだが、ショックアブゾーバーはガスが無いから、その部分は作れない…。となれば直接“板バネ”かスプリングを車軸にくっつける方法くらいしか思い浮かばない。
これくらいなら、車輪の部分と荷台の部分を分離して工事できるので、楽と言えば楽な方法になる。
あとは、内装と御者席だ。
御者席は囲いもないため、雨だとびしょびしょになってしまう。
であれば、幌をつければ良いのだが、前方からの泥が跳ねる…。
これを避けるためにも泥除けもつける必要がある。
そうすると御者席部分も分離して作る必要があるな…。

「カズ様、そろそろ戻ってきてください。」
「あ、ごめん。考え事してた。」
「いえ、それは良いのですが、いささか5人で座るには狭いですね。」
「そうだな。んじゃ、俺は一回御者席に行って、アイナに御者のやり方を教えてもらってくるよ。」
「いえ、カズ様はここで良いです。私達の中で誰かが御者席に行くようにいたします。」
「あ、そんな事はどうでもいいんだが、一つ教えて欲しい。
 今、俺たちは対面で座っているよな。
これって、顔を進行方向に向かって座るヒトは楽だが、進行方向に背を向けて座っているヒトはどう感じるんだ。」
「それは、違和感を感じますね。」
「長時間乗っていると?」
「気持ち悪くなります。」
「乗り物酔いするよな…。では、前に借りた馬車のように、横向きで乗ったらどうなんだ。」
「違和感はありませんね。」
「という事は、後ろにある御者席は不要だよな。」
「今回のような旅では必要ありませんね。しかし、貴族の集まりなどでは御者も複数名つけることが常識となっているようですので…。」
「じゃ、後ろの御者席を可動式にすれば良いんだな。」
「可動式と言いますと…?」
「ドアと一緒だ。蝶番を使って御者席ごと移動できるようにする。そしてその場所から乗り降りするって構造にすれば、箔が付いたままになるよな。まぁ、乗り降りする時間がかかるが…。」
「あまり、良い案ではないと思います。そうしますと、馬車の後ろ側から降りるという庶民の馬車と一緒になってしまいますので。」
「そうか…。では対面式ではなく2列にするとか…。」
「カズ様、そもそも馬車は乗り物ではありますが、貴族の馬車は、男性と女性が馬車の中で愛を育むための閉鎖的な空間として作られているとも聞いた事があります。」
「え、そうなんだ。」
「真相は分かりませんが…。」
「でも、それは一理あるな。ディートリヒありがとう。んじゃ、今は対面になっているけど、座席をくるっと回すことができればいいんじゃないか?」
「そんな事が可能なのでしょうか。」
「あぁ。例えばだな。」

 俺は一本の串を出し、そこに石鹸を突きさす。

「こっちが前とするだろ。この串を中心にくるっと回すと、対面から2列になるんだ。」
「お館様、そうすると前の座席の方が少し狭くなりますね。」
「そうだな。それをカバーするのがクッションと箱だ。」

 俺は石鹸の両側を少し切る。

「切った部分が箱として、この箱を着脱式にしておけば座席が回るよな。
この箱に、そうだな、収納魔法でもかけておけば、少し荷物が入るってことになる。
 それにな、この動く座席をこうやって背もたれの部分を可動式にすれば、あら不思議~、
 ベッドにもなるんです。どう?この案」
「カズ様、是非そのシートをお作りください。そして、私達も同じ馬車を持ちましょう!」
「お館様、そして馬車の中で…。」
「むふ~!(うへへ…。)」

 何かよからぬ方向へ進み始め、皆が違う世界へ旅行しに行ったので、俺は窓から御者席に移る。

「あ、ダーリン。来てくださったのですね。」
「ダーリンじゃない。」
「ちっ、そうでした。社長です。」
「アイナさん、そろそろ舌打ちを止めた方が良いよ。それ、すごく感じ悪いよ。」
「そうですか?これがないと、私が私でないような気がするんです。」
「まぁ、いいや、アイナさんはアイナさんだからね。」
「むふ~、そう言われると嬉しいです。社長さん!」
 
 相変わらずのノー天気&残念娘だ。

「なんか、どこかの店の呼び込みみたいな口調だけど…。
 そうそう、馬車の改良だが、御者席はやっぱり尻が痛いよな。」
「そうですね。この馬車はそうではありませんが、長距離乗る場合はさすがにキツイです。」
「それは、やっぱり振動か?」
「はい。それともたれかかる部分がないので、座っているだけで腰と背中が痛くなります。」
「ふむ。そうなれば御者席にも背もたれが必要だな。
 それと雨が降った場合の幌も必要だし、馬からの泥はねも防がないといけないよな。」
「そうですね。あとは、横風もキツイです。」
「そうなれば、御者席も覆っておいた方が良いってことになるな。」
「そうですね。」
「あとは、何かあるか?」
「そうですね。シルバーとロシナンテですが、この馬車の両横から出ている棒が腰に当たっているようで、少し痛がっていますね。」
「ほう。それを改良すると馬も気持ちよく歩いてくれるという訳だな。」
「そうですね。例えば、馬車の真ん中に棒を一本入れ、その先を二股に分けるだけで済むと思います。
 そうすればシルバーもロシナンテも気持ちよく歩いてくれると思いますよ。」
「なかなか見てるね。」
「はい。私は社長のダーリンですから。」

 社長のダーリンってなんだ?新語か?

「何か言葉がおかしいけど…。あとは馬車への振動を無くす方法だな。」
「何か案はあるのですか?」
「あぁ。一応な。それにはアイナさんの鍛冶師としての手腕の見せ所だ。」
「むふ~!そう言われると俄然頑張っちゃいますよ。」
「あ、俺、頑張るって言葉、余り好きじゃないんだ。」
「え、どうしてですか?」
「それはな…」

 前に話したことをかいつまんで説明した。

「そうですね…。100のところを120出すことなんて、そうそうできませんからね。
 であれば、80で踏ん張って100まで持って行った方が良いという事になりますね。」
「そうだ。80しかやっていないなら、残り20はまだ余裕があるんだよ。それをやったとしても、それは自分を出しただけ。なら、通常80で出来る事なら80出せばいいんだ。後の20は余裕を持っているだけで、仕事の幅も出てくると思う。
 だから、俺は踏ん張るって言葉の方が好きなんだ。」
「面白い発想ですね。
 80本の剣を作るのに、わざわざ100本作るバカはいませんものね。」
「ははは、言い得て妙だな。
んで、今言ったことと、みんなが座っている座席の部分を改良するとなると、どれくらいの日数がかかると踏んでる?」
「そうですね。先ずはこのハネムーン中に設計図を書きますので、それを見てください。
それがOKであれば、戻ってから工房で部品を作り組み立て、この馬車に組み入れるとなると、街に戻ってから7日は必要ですね。」
「そうか、分かった。んじゃ、おおよその予算も出してくれ。
伯爵家の奥方ズには、もうしばらく馬車を預かることを言っておくよ。
多分、これが完成すると、アイナさんは馬車の部品を作り続ける可能性もあるから、工房に仲間を入れるってのも考えておいて欲しい。」
「私以外を娶るという事ですか?」
「いや、誰も娶ってはいないから…。それにアイナさんは娶らないよ。このまま社長と社員の関係ね。」
「社長と社員の関係ですか…、むふ~。そこに禁断の愛が生まれる訳ですね。」
「もう、どうとでもしてくれ…。ただし、後ろの4人を説得してからな。」
「…無理…です…。」

 まぁ、そうなるね。
これで安心だ。ただ、この馬車をこれだけのスペックの馬車に仕上げると、確実に世界に影響を及ぼすことになるな…。
そうすれば、危なくなるのは俺だけでなく、伯爵家も標的になる。

「なぁ、アイナさん、その馬車3台作ることになるかもな…。」
「へ?何故3台も?」
「そりゃ、これを作ることで問題がたくさんあるからだ。んで、その設計図だが、きちんと全容図も構造も分けて描いてくれ。
 もしかしたら、王族にも見せることになる可能性もあるから。」
「え、社長は王族にも知り合いがいるんですか?」
「今はいない。でも、なんとなくだ。」

 こういうのは言霊になる…、フラグが立つような気がする。

「社長、そう言えば、前方から10騎ほど来ますね。盗賊でしょうか?」

 ほらな、変なフラグが立ってしまうんだよ…。
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