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第七章

7-13 契約成立

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 翌朝、皆の行動は早かったです。
朝食を済ませた後、ディートリヒは昨晩確認し清書した契約書2通を持ちマルゴーさんの店に行くための準備をしている。
ナズナとベリルは、ディートリヒが書いた手紙を商業ギルドに持っていき、早急に送る手筈と整えた後、伯爵邸に赴く。
スピネルは既に研究室に籠り、錬成魔法を駆使し始めている。

「さてディートリヒ、マルゴーさんの店に行こうか。」
「はいカズ様。」

 俺たちはマルゴーさんの店に向かう道すがら、契約した後に契約紋を入れるため、カルムさんの店に行くので、予約を入れて欲しい事を伝えると、契約書にサインしたことを見届けた後、マルゴーさんの店に予約を入れると説明があった。
流石、秘書さんだ。

「おはようございます。」
「あ、ダーリン!おはようございます。」

 途端、ディートリヒの顔が引きつる…。

「こりゃ、自分はアイナさんを娶りませんからね。」
「ちっ!」

 舌打ちしてるわ…。アイナさんも懲りないね…。

「お!ニノマエさん、とうとう観念してアイナを娶ってくれるんだな。」

 ディートリヒの形相が鬼に変わった…。

「違います。そこは雇う側と雇われる側との契約です。労働契約ですからね。」
「あぁ、分かっているよ。冗談だよ、冗談…。でも、既成事実さえできてしまえば…ゴニョゴニョ…。」

 マルゴーさん家族も残念なヒトたちだったよ…。

「さて、契約書をお持ちしましたので、確認してください。」
「そんなもの、読まなくてもサインすりゃいいだけじゃないか。」
「あの…、もしこの契約書の中にアイナさんが失敗した時、自分の奴隷になるとか、パワハラとかセクハラとかしても文句は言わないとか書いてあったら、アイナさんが可哀そうじゃないですか。」
「その時は、ニノマエさんが娶ってくれれば…」
「それは無いです。」
「ちっ…。」
「マルゴーさん、何考えているんですか。
 お嫁さんというよりも、自分はアイナさんの能力を見込んでお願いしているですよ。」
「え…、私のスキル?能力?」

 あれ?アイナさん、クネクネし始めた。

「あ、ただ、鍛冶師としての能力はまだ見ていませんので…。」
「で、工房はここを使うって事でいいのか?」
「いいえ、自分の店の奥に作っています。」
「あ、ジョスの野郎が毎朝浮かれて弟子たちを連れて行ってる先はニノマエさんのところだったのか。」
「はい。今倉庫を改修し、そこに工房も作ってもらっています。それに部屋もお風呂も作っています。」
「何?風呂だと?風呂って貴族様しか入れないってやつか?」
「貴族しか入れないお風呂ってのは知りませんが、風呂なんて施設さえ作ればだれでも入れるじゃないですか。」
「湯を作るのが難しいんだよ。」
「あ、そういう事ですか。」
「なぁ…、ニノマエさん…。俺たちも、その風呂ってやつに入ることはできないか…。」
「できますよ。ただ、事務所の中の資料や工房で作っている内容を漏らすことの無いようにしないといけませんね。」
「そりゃ簡単だ。今弟子に付けている契約紋に追加するだけだし、俺たちも契約紋入れれば問題はないんだろ。」
「そうなりますが、マルゴーさんはそれで良いのですか?」
「あたぼうよ!」
「では、そういう事にしましょう。そうですね…『内容は自分の敷地内で見たもの聞いたものは、口外してはならない。口外した者は酒を飲めなくなってしまう。』というのは。」
「そりゃ、“呪い”だ…。でも風呂のためだ。マーハ、良いか?」
「あいよー。」
「で、アイナさん。契約書に目を通して…、、、、」

 アイナさん、違う世界に行ってます…。

「私の工房…、私だけの工房…、マイ・コーボー…、うふふ…。」

 ダメだ…聞いていない。
マルゴーさんの一撃でアイナさんはこの世界に戻り、契約書を読み始める。

「ダーリン。あたし難しいことは分かんないんだけど、手っ取り早く言ってどうすればいいの?」
「アイナ、おめぇ、おつむが弱いのがばれるぞ。」

 ばれてますが…。

「いいか、契約ってのはだな…、つまり、その…、死ぬまで働け!って事だ。」

 マルゴーさん…、あなたもです…。

「では、マーハさんに説明しておきます。ディートリヒ、要約してあげて。」
「はいカズ様、ではこの契約は…、、、」

 と、かいつまんで説明し、マーハさんは納得してくれた。
そして、無事署名を行うとディートリヒはカルムさんの店に向かう。
その間、マルゴーさんから発注していた防具を受け取る。

「まぁ、孫の顔がまだ見れないのは残念だが、これでアイナも独り立ちか…。
 ニノマエさん、娘の事をよろしく頼みます。
 あぁ見えても苦労人でな…、器用なんだが、思い切りが足りねーんだ。
 そこが分かれば、あいつも良い鍛冶師になれると思うんだが…。」
「そうなんですね。でも、武器や防具を作ってもらうのはまだまだ先の事になりますよ。
 それよりも、手先の器用な人でしかできない仕事ばかりなので…。
 それと、マルゴーさんの店の看板娘を取ってしまってすみません。」
「あ、そりゃ大丈夫だ。アイナの下にも娘がいるからな。」
「おい、アイネ、出てきていいぞ。」
「あーい、ぱぱ。」

 ちょこちょこと可愛い女の子が出てきた。

「アイネと言います。よろしくでしゅ。」

 あ、噛んだ…、。

「おい、マルゴーさん…、幼児虐待で捕まるぞ…。」
「何言ってんだ。アイネももう100歳だ。そろそろ店番もしてくれないとな。がっはっは。」

 ドワ族の100歳は幼児なのか…。
成長期は?成人は? いかん…頭痛が…。
ここに長居すると何かしらのフラグが立つような気がする…、”居てはいけない病”だ。

「で、早速契約紋を入れに行きましょうか。」
「おう!それじゃ、弟子もつれてくるわ。
 あ、防具の説明は…、まぁ良いか。使ってるうちに分かるから。」
「あ、忘れてました。
 もう1名分、このサイズよりも一回り大きいサイズで作ってもらうことはできませんか。」
「あ、それなら試作で作った奴を調整すれば良いから、明日には完成するな。」
「じゃぁ、その分の代金を支払います。」
「それは不要だ。試作品を調整するだけだから、前もらった代金の中に入っている。ま、それも渡そうと思ってたんだがな。
 おーい、おめーら、火止めてこっちに来い。」

 マルゴーさん、弟子が4人いました…。

マルゴーさん一家と弟子4人…ぞろぞろとカルムさんの店に向かう姿は、あたかも小学校低学年の遠足のような風景だった。これで、黄色の帽子でも被れば…ゲフゲフ。
まぁ、マルゴーさんの店からカルムさんの店までは歩いて5分もかからないので、あまり目を引くような光景ではなかったと思う…。個人的には…。

 カルムさんの店の前では、ボディガードさんとディートリヒが親し気に会話している。
傍から見ると“美女と野獣”じゃないかと思う…。

「あ、カズ様!こちらです。」
「ようこそ。既に奥の部屋でカルム様がお待ちです。」

 うわ、久しぶりだけど怖いわ。
でも、ようこそって言ってくれたよ。少しずつ雪解けしているのかな…。

「急遽大人数で来てしまい申し訳ありません。」

 それはそう言って、店の奥の部屋に通される。

「お久しぶりです。ニノマエ様。
 この度は多くの奴隷契約をされると聞き、さすがニノマエ様だと…」
「ちょと待ったぁー。奴隷契約じゃないから。あくまでも契約紋をいれるだけだから。」
「あ、そうなんですね。」
「はい。」
「では、先日の2人の女性のような紋という事になるのでしょうか?」
「は?あの二人は契約紋入れたんですか。」
「はい。ニノマエ様との契約という事でしたが…。」
「俺、何も聞いてないぞ。」
「あ、そういう事なら大丈夫ですよ。
 ニノマエ様が了承されなくても契約紋というものができますので。
 うーん…、しいて言うなら『今の思いを忘れさせないようにする』って感じですかね。」

 はぁ…、なんだか竜さんズの想いも分からないでもないけど…。

「それに、ディートリヒさんもナズナさんも今のTatooに同じ内容の事を入れてますからね。」

 おい!ディーさん、ナズナ、アンタ達休息日に何やってんだよ…。

「あ…、そうなんですね…。」
「で、今日は契約紋という事で、契約内容はどうしますか。」

 カルムさんが一つ一つ確認してくれる。
俺はそれに答えて内容を確認し、マルゴーさんたちも納得の上、契約紋を入れた。
何故、アイネちゃんにも入れるのかは不明だが、幼児虐待になるんじゃないか?

 契約紋は大銀貨5枚の8人分、計40枚を支払いカルムさんの店を出た。
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