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第六章

6-14 ベリルの失態

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 今回はオーク三昧だった。
安堵した…。昆虫であれば一、二百は超えていただろう。
オークであっても百はいるのか…、数は不明だが割と居る。

 ベリルが先導した。ヘイトをかけたようだ。
一気に視線がベリルに行く。その間、俺たちは魔銃と剣撃、弓で周囲の敵を掃討していく。
ベリルまでの距離が縮まっていく。さて、ベリルはどう動くだろう。
そのまま耐えてくれることが一番良い結果ではあるが…。
接近戦になる!と思った瞬間、べリルから光が発生られた。

「やはり、発動させちゃいましたね。」

 ナズナが後ろから話しかけてきた。

「仕方がないな。これだけの敵に恐怖したんだろう…。少し痛い思いをしないといけないか…。」

 俺たちは前進を止める。スピネルはまだ弓を射っているが、そろそろ矢も尽きる頃だろう。
矢が尽きたスピネルはベリルに集まってきているオークを見て、俺に何かを告げたそうな顔をする。
しかし、俺は何もしない。

 スピネルは厳しい表情に変え、ベリルの周りにいるオークに突っ込もうとダガーを持ち、走りだそうとする瞬間に背後からナズナに羽交い絞めされ行動が出来なくなった。

 俺は、魔銃を30%の出力でベリル目掛けて撃ち込んだ。
パシュ!
 刹那、波動が俺たちを襲う。

「ディートリヒ、まだ敵はいるか?」
「いえ、全滅です。これより、ドロップ素材の回収を行います。スピネルさん一緒に来て。」
「ベリルはどう?」
「はい。気絶しているだけです。」

 鉄壁はある一定のマナや体力を消耗し、その分を防御に特化すると聞いたことがある。
つまり、鉄壁の効果がある時間帯であれば、少しは耐えれるという事になる。
俺が魔銃を撃ったとしても、生き残る確率はあるはずだ。
俺はそれにかけていた。


 ドロップ素材を回収し、隣の部屋で結界を張り、休憩する。
ディートリヒとナズナはいつものように魔導コンロに湯を沸かし、お茶の準備をする。
ベリルはまだ気を失っている。スピネルは茫然としていたが、ようやく正気に戻ったようだ。

「あ、あの…、ニノマエ様…、私たちは…、いったい…、」
「あぁ、指示を守らなかったという事で、君たちは2回目の死を迎えたという事だ。」
「へ…、でも、今は生きていますが…。」
「結果的にはな…。まぁ、そこに寝ているベリルが目を覚ましたら、話をしようか。」

 俺はディートリヒが入れてくれたお茶を飲む。
半分くらい飲んだ頃だろうか…、ベリルが目を覚ました。

「あ、ニノマエ様…。ここは?」
「あぁ、地獄だ。ベリルが指示を守らなかったから全員が死んだ。」
「え、あ…、本当ですか…。」
「嘘だ。でも、あんたは俺の指示を守らなかったというのは本当だ。」
「え…、そ、そうです。」

 俺は残りのお茶を飲んでもう一杯頼んだ。
ディートリヒが、ベリルにもお茶を渡し、隣にスピネルを座らせた。

「あんたたちは、冒険者にも向いていないようだな…。」
「え、それは何故ですか。」
「これから君たちに失礼な事を言うけど許してほしい。
 先ずは戦闘を指揮する者への信頼がない。
 命令を無視するって事は、指揮する俺よりも強いのか、それとも無知なのかって事だ。」
「ニノマエ様は近接は弱いって仰っていたではないですか。」
「そうだな…。紙だって言ってたよ。
ナズナ、そうだな、ここに土魔法で1mくらいの壁を作ってもらっていいか。」

「はい。では、・・・ゴニョゴニョ・・・出でよ、土の壁!」

 ナズナは土の壁をだしてくれた。

「じゃぁ、ベリル、この壁を壊してくれ。」
「壊せることなんてできませんよ。」
「それが近接の強さか?」
「いいえ。普通です。」
「ほう、では、これでは?『波〇拳』!」

 俺は空気を圧縮し、その壁にぶつけると、壁に大きな穴が開いた。
あ、やりすぎたか?全員が唖然としている。まぁ、いいか。あとでディーさんとナズナには謝っておこう。

「これが俺が近接戦闘が紙だと言っている所以だ。」
「はぁ、ニノマエ様、あなたは近接でも、これほどまでにお強いのですか?」
「強いのか弱いのか知らんが、俺は自分が弱いからこの魔法を使うんだと思っている。
 では、強いって何だ?」
「それは…、魔物を討伐して…、相手を倒して…。」
「ベリル、お前は間違っているよ。」
「え!?何でですか? 敵を倒すことではないんですか?」
「だから、お前はスピネルを2度も殺したんだ。」
「何を言ってるんですか。殺してなんかいません!」
「本当にそうだろうか? では聞くが、“ヘイト”は敵の注意をベリルに向かせるものだよな。」
「その通りです。」
「では、注意を向かせた敵をどうするんだ。」
「その敵を倒していきます。」
「今回のように大勢来たら?」
「その時は…」
「“鉄壁”を発動するんだな。」
「はい…。」
「ではもう一度聞くが、“鉄壁”を発動したら、ベリルは動けるのか?」

ベリルがハッとした顔をした。

「て、“鉄壁”を発動しますと、あの…、その…、」
「何だ?もしかして動けなくなるとかじゃないよな。」
「そ…、その通りです。」
「動けなくなった後、残りのパーティーはどうなるんだ?」
「わ、分かりません…。」
「だよな。ベリルは動けない替わり生き残れるが、後のメンバーの事は知らないって事になってしまう。
 これが“鉄壁”が諸刃の剣だって言われているスキルなんだよ。」
「でも、これがあれば生き残る確率が高くなります。」
「ベリルだけはな。
何度も言うぞ。俺たちはソロでダンジョンに来ている訳じゃない。
パーティーで来ているんだよ。その一人が“鉄壁”使って自分を守ったとしても、他の奴らが死ぬんだよ。逆に他のパーティーがすべて敵を倒した場合、“鉄壁”使ったそいつの効果が消えるまで残っている必要があるんだぞ。
すまんが、これは推測の域だが、闘技場でも同じことをしたんじゃないのか?
 ヘイトをかけたが、相手が強すぎた。だから“鉄壁”をかけた。
 その間、スピネルがどうなったか…。思い出したくもないんだろうな…。」
「そ、そのような事は…。」
「本当に違うと言い切れるのか?
 俺たちは、お前が“鉄壁”を使ったのを見ている。
そして、その後魔物を掃討して、お前をここにつれてきた。
それがスピネルを守っていると言い切れるのか?」

 ベリルが黙り込んだ。
スピネルも何がどうなったのか理解できていない。

「なぁ、ベリルさん。あんたはスピネルさんが戦闘に特化していないスキルだと言ってたよな…。
 それがダメで村から姉妹ごと追い出されたって。」
「・・・。」
「俺たちから言わせると、それはベリルさん、あんたのスキルも戦闘に特化していないって思うぞ。」
「そ、そんな事は…。」
「そうじゃないか?
ヘイトは盾役には必要だ。だが一見使い勝手の良い“鉄壁”であっても、使い方を間違えれば、見方を窮地に追い込むものだ。それを見越して村はあんた達二人を追い出したって事も考え得るんだよ。」
「わ、わたしも…。」
「あぁ、今まで気づいていなかったのか、薄々は感じてはいたが考えないようにしていたのかは知らないが、戦闘の経験が少ない俺が言うのもなんだが、二人ともダメダメだ。
それにな…、俺は今回のダンジョン経験で、スピネルさんが戦闘に特化していない事は分かったが、彼女は自分のスキルでこれまでの生活を変えることができる。そう思っている。
 だが、ベリルさん、あんたは自分を変えないと生きていけないぜ。」
「あ、あ…。」

 ベリルさんが泣き出した。

「私だって、そう思っていました。でも、なんとかやってこれた。
 妹を守りながら、これまで生きてきましたが、それが間違いだったというんですか。」
「あぁ。間違いだ。」
「何故です。何故そう言い切れるのです!」
「今日の戦闘で理解できた。
 ベリルさん、あんたは自分にすべての責任をかぶり過ぎてしまい、身動きができていないんだよ。」
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