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第四章

4-27 甘えからの惨劇

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 モンスターボックスに入る。

 うん。前回と同じような魔物のメンツだ。
アラクネさんもいらっしゃる。まさに昆虫ワールドだ。

「では、行きますよ。」

ディートリヒの掛け声で始まった。
俺は魔銃をさっきの半分、つまり12.5%だが目盛りもないから半分程度かな?と思うところにスライダードを移動し放つ。
“パシュ”
音を立て前方から衝撃波が伝わる。
うん。さっきよりは弱いが、どれくらいの魔物が生き残っているのか…

うん。ディートリヒの予想どおり外円部分の魔物は消滅しているが、内縁部分にいる魔物は健在だ。
残っているのはイモムシ?、クモ、アラクネくらいか。
それじゃ先ずはと、外側にいるイモムシを光輪で駆逐していく。
10体に当たり、真っ二つになった。
ディートリヒも剣撃を打ち込み内部へと移動していく。

 ナズナは?と見るともう隠蔽しているのか姿が見えない。
まぁ、大丈夫なんだろうなと思いつつ、俺もクモへと攻撃を加えていった。

 そこらじゅう魔物の糸がまかれる。ディートリヒはそれを搔い潜りながら自慢のレイピアで一刀両断にしていく。
うん。ディートリヒも強くなってるな。
そろそろアラクネさんの首を切る頃だろうと思っているとアラクネさんが急に暴れ出した。
アラクネさんが首から体液をまき散らしながら苦しんでいる。
あれ?切れなかったのか?
ナズナは?と見れば、一撃で仕留められなかったショックなのか、その場で立ち尽くしている…。
その場にとどまるなんて、危険極まりない。
魔物の攻撃が一つでも当たれば、それは死に直結する可能性がある。

「エアカッター」

 俺はアラクネさんに向けて空刃を放つと、ようやく首と胴体が分かれた。

 周りを見渡すとディートリヒも戦闘を終え、はぁはぁ言いながら生き残った魔物がいないか確認している。

「ナズナ、大丈夫か。」

 俺はナズナに近寄り確認する。
彼女は茫然自失状態だ。何が起きたのかも理解できていないのではないか。
ディートリヒにドロップ品の収集をお願いし、ナズナを正気に戻す。

「ナズナ、正気に戻ったか?」
「あ、はい…、私は一体どうしたのでしょうか?」
「アラクネの首を切れなかった。」
「そう言えば、隠密で後ろに行き首を切り損なったんでした…。」
「そうだ。君が言うところの“任務”に失敗したんだ。」

このまま彼女を放置しても仕方ないので、少しお灸をすえなければいけない。

「ナズナが言う“任務”は失敗してもいいのか?」
「いえ、失敗はあり得ません。」
「しかし、今失敗した。違うか。」
「はい…。」
「ナズナは何か勘違いしているようだから、もう一度言っておく。よく聞いてくれ。
 斥候は一人で行動するものだと思う。そして失敗すれば自分で尻を拭く。つまり自分で責任を取る。
 だから、君は帝国で捕まった。違うか。」
「はい。そうです。」
「では、今はどうだ?
 俺たち3人で行動している。これをパーティーという。
 その一人が失敗すれば次に何が起きるか考えみてくれ。」
「失敗した者が死にます。」
「違うな。」
「え?」
「パーティー全員が死ぬんだ。」

ナズナは声を出せない。

「し、しかし…、ご主人様が助けてくださいました。」
「今回はな。でも次回は?その次の回は?
ナズナ、君は大きな勘違いをしている。
誰かに『助けてもらえる』という考えは君の甘えから来ている。だから君は失敗した。
任務に失敗しても誰かが何とかしてくれる、そんな甘えが俺やディートリヒまで死に追いやる事になるんだ。」

 ナズナは何を言われているのか分からない顔をしているが、俺が怖いのかガクガクしている。

「すまないナズナ。君自身を否定することを一度だけ言わせてもらう。
 君は自分のプライドだけ高くて中身が伴っていない。そう…実力がないんだ。
任務で失敗する。失敗したら理由を探す。その理由を口実にして自分は悪くないと主張し、プライドだけは守ろうとする…。負のスパイラルだ。
 そしてそれを追求されると“だんまり”を続ける。
 そのせいで周りのヒトが影響を受ける。影響を与えた本人だけは気付かない。
 でも、周りから言われていないから自分は正しいと勘違いする。
 いいか、俺たちは生き残るために前に進むんだ。
 “助けてもらう”ことと“助け合うこと”は違う。
 さらに“助けてもらう”ことはいつもあるとは限らない。
それを想定できないヒトは必ず死ぬ。」

 俺はナズナを叱っていた。
これまでの世界で叱ったりするとパワハラだとか言われて訴訟になるなど、世知辛い社会になったと思うが、失敗した奴を守るために俺たちは生きている訳ではないんだ。
それに、言うべきタイミングで言わないと、失敗したヒトも成長しない。
だから、社会はおかしな方向に進んでいる…。

 俺はナズナを叱った後、ナズナを抱きしめた。
彼女はガクガク震えている。地面も濡れている。それほどまでショックを受けたのだろう。

「ナズナ、これが君の弱さだ。
 君は君自身を過大評価しているんだ。でもな、正直弱いんだよ。
 なら、全部をやらなくてもいいんだ。できるところまでやれ。ここまでできるという事を示せ。
そして後は任せろ。
 それをちゃんと口に出して言え。
これが言えなきゃ、ナズナは変われない。
 そうやってみんなで助け合って生きていくんだ。」

 いつしか、ディートリヒが傍に来て、ドロップの回収を終えたことの報告があった。
彼女も寂しそうな眼をしているが、本当の事だ。
覚悟していたのだろう…。
 
「カズ様、申し訳ありませんでした。私が戦況を過少に分析しておりました。」
「いや、そんな事はないはずだ。ナズナならできると踏んだんだろう。
 でも失敗した。それはナズナの甘えがあったからだ。
 できると思った事なのに、できなかったから立ち尽くした…。これが現実だ。」
「カズ様は何もかも見通しているんですね。」

 俺たちは、モンスターハウスの次の部屋で野営をする。
誰かが来ないよう、念のため土魔法で四方を壁にする。

 野営に入り夕食は霜降り牛肉をステーキにした。
お通夜のような食事だ。そりゃそうだろう。俺が叱ったからだ。
叱れば場の雰囲気が悪くなる。それを打開するものは食事だと思ったからだ。
でも、あれからナズナは一言も話さない…。

 結果は失敗だったと思った。

 テントを張り、寝る準備をする中で俺はナズナに一言だけ告げた。

「いいか、ナズナ。
 あれから数刻経つが、君は一言も発しようとはしない。
それは何故か?多分、君は話す言葉を選んで発言しようと考えているようだが、実のところ何も考えていないんだよ。早く時が過ぎないかと思っている、つまりこの場から逃げようとしているんだ。
 でもな、既に言葉は見つかっているんだよ。
 一言『ごめんなさい』なんだ。
 でもこの言葉が言えないのは、自分のプライドがあるからなんだ。
 自分がしたことをしっかりと見直した結果を言わなければ何も始まらないよ。」

「・・・なさい。  ごめ・・・さい。  ごめんなさい…。うわーん!ごめんなさい。」

 ようやくナズナが声を上げて泣き出した。
うん。一歩前進だ。

「ようやくしゃべってくれるな…。」
「はい。ご主人様が仰るように、私は甘かったです。
それに皆さんよりも武力においても弱いと分かりました。
それなのに、私はまだ皆さんのお役に立ちたいと思いながらも、何もお手伝い出来ていないことに腹が立っていたのです。
首を切れと言われた時、そんな簡単な事なら、という思いでした。
しかし、いざ切ろうとしたら切れないんです。今まで魔物を切ったこともありません。今回のブルを2匹倒した時の感覚が戻ってきて、恐怖を覚えました…。
 ごめんなさい…。」
「それが本心だ。誰でも生きているモノを切る、即ち命を絶つことは躊躇する。
それを自分の中で消化しないと前に進まないんだ。
例え、それが1匹であろうと百匹であろうと数万匹であろうと、生あるものを絶つという心構えがなければ、何も変わらないんだよ。消化できないヒトがPTSDになるんだ…。」

 あ、PTSDについてまた説明しなくちゃいけないか…、と思ったが、追々教えていくことにした。
まぁ、覚えているかは分からないがディートリヒには話をしているから…。
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