上 下
99 / 318
第四章

4-22 ガールズ・トーク①~パラレル:視点変更ディートリヒ~

しおりを挟む
時は少し遡り、琥珀亭での出来事…





困ったことになりました…。

 カズ様はナズナさんと私を二人きりにして何処かに行かれてしまいました。
多分、カルム様の店であるとは思いますが、もしかするとこのヒトを返そうとしているのではないでしょうか…。

 心配になりますが、カズ様の事ですから万事うまくいくことでしょう。
あとはナズナさんをどう変えることができるか、でしょうか。
恐らくそれをカズ様が望んでいるのでは…。

「ねぇ、ナズナさん。先ほど言ってた事は本当の事ですか?」
「何の話でしょうか。」
「カズ様をお守りするという事です。」
「はい。カルム様がそうお命じされました。」
「では、カズ様の力を知っておられますか?」
「いえ、私は帝国に居たので、何も存じておりません…。」
「そうですか…。あの方は誰よりもお強いです。Aランクの冒険者であっても、暗殺者であっても、例え何十人、何百人襲ってきても、恐らくはカズ様の方がお強いです。
なので、守るという事は必要無いと思います。」
「では、何故カルム様はそのような命令をされたのでしょうか。」
「皆さん、勘違いされておられるんだと思います。
よくカズ様は私に、守るのではなく、お互いを助け合うと仰ります。
私もカズ様をお助けするという事はほとんどありませんが、あの方と一緒に居ると今までの自分がなんであったのか、今までの自分がいかにちっぽけで考えが浅はかだったのかを実感します。
恐らく、そんな事まで知らない方々が自分の力でカズ様を助けてあげているという自意識を持たれないのではないかと思います。
カズ様はよく他人が他人のために行う考えを忖度と仰っておりますが、良かれと思ったことが当人にとって迷惑な場合もございます。
 それをカズ様は嫌うのです。」
「どうしてでしょうか。ヒトから親切にされることは嬉しいことではありませんか。」
「では、ナズナさん、今あなたはお腹がいっぱいで、もう動けないといった状況でも、誰かから食べ物を差し出されたら、それを受けて食べますか?」
「上司からの命令であれば食べます。しかし、部下から者であれば断ります。」
「そこなのです。
カズ様は両方とも断る方です。お腹がいっぱいなのに食べる必要がない、それなのに食べる必要があるのか、を考える方なのです。
 食べる必要が無いのに食べなければいけない…、そんな理不尽な事を嫌うのです。
部下からのものであれば、部下に食べてもらいます。そして上司からの命令であれば本気で怒ります。それはカズ様自身の考えに基づいて動かれておられるからです。」

 ナズナさん、すごく考え事しています。
そうなんです。今のナズナさんは昔の私と一緒なのです。
私も悩みました。でも、私のすべてをカズ様にぶつけた結果、今は凄く幸せなのです。
なんとか理論とか、ツリバシキョーカとか言う人の名前はどうでも良いのです。

 そこで、私は自分の過去を話すことにしました。
戦争に負け捕虜になった事、捕虜から奴隷落ちした事、そして凌辱の日々、ボロボロとなったある日カズ様とお会いできた事、それからの日々の事…。
過去の事を話すとナズナさんもそうであったと思いますので、さらっと流しました。
そして今、私はどれだけ幸せかを伝えました。

「ディートリヒ様、私は奴隷です。
奴隷の私がこんな事を考えてはいけないと思いますが、奴隷とは一体何でしょうか。」
「私には分かりません。でも、カズ様であればそれを解決してくださいます。
 私は元奴隷です。でもカズ様が思う奴隷は私たちが思う奴隷ではないと思います。」
「私は奴隷という身分に落ちる事にショックを受けました。
 そこまで成り下がる必要があるのかとも…。
今の私であれば少しくらいご主人様のお役に立てると思います。それなのに、何故そこまでして命令を受けなくてはいけないのか…。」

 あ、ナズナさんの根幹はそこだったんですね。

「つまり、あなたは奴隷でなくてもご主人様を守ることができると自負されている。
 そして、奴隷に落ちてまで命令を受けなければいけないご自分を嘆いておられるのですね。」
「そのような仕事は、奴隷でなくてもできると思います。」

 パシッ!
 私はナズナの頬を叩いていました。

「自惚れないでください。
先ほどカズ様が仰られた言葉が全く耳に入っておられませんね。
 カズ様は、あなたにこれから生きていく中で2つの大切な言葉を言われました。
一つ目は、主人から命令された事だけをして、それで満足なのかという事。
そして二つ目は、あなたの意志を尊重する事。
カズ様は、あなたの葛藤を見抜き、このままで良ければお金を稼いでくれたら解放すると伝えた上で、真に信頼を勝ち取ることができれば、お互い助け合って生きていきたい。とまで仰っております。
これは主人と奴隷という関係で物事を言っているのでは無い事に気づきなさい。
カズ様は、あなたを対等の立場として扱っているという事なのです。
さっきも言いましたが、あなたよりもカズ様の方が断然強いです。
それにつけてあなたは何ですか!
自分が惨めな身分に落ち、命令で守れと言われただけです。
他人から『可哀そうだね』と同情してもらおうとしているだけじゃないですか。
それにあなたが奴隷になったのはつい最近の事…、私は1年間奴隷として四肢を切られ獣のようにあられもない姿を見せ、したくも無い行為を大勢の貴族の前で見られていたのです…。」

「もういい!ディートリヒやめるんだ。自分を虐げるな…。」

 カズ様が戻って来たことすら知らず、いつの間にか私は泣き崩れていました。
カズ様は私をそっと抱きしめてくれます…。

「ディートリヒ、過去は変えられないけど、君と俺はもう一緒だ、誰にも渡さない。
だから泣くな。これからの事を一緒に考え笑おう…。」

 カズ様はそう言って優しく頭にキスをしてくださいます。
私にはこの胸の温もりが必要なのです…。

 カズ様が、カルム様の店での出来事をナズナさんに説明していました。
その間、私はカズ様の胸の中でスンスン泣いていました。
少し落ち着いたので、ナズナさんの方を見ると、ナズナさんは口に手を当て泣いています。
どこで泣いたのかは知りませんが、彼女の中で何かが変わったのでしょうか。

「ナズナさん、私は奴隷として生活し悲観した日は毎日で、いっその事殺してほしいと思ったことは毎日です。
でも、それでも今が一番幸せなんですよ。この幸せを壊す者がいれば全身全霊で倒します。」
「ディートリヒ様、苦しい思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。
 私も捕縛されてからの毎日は苦痛でした…。
毎夜毎夜守衛の男におもちゃのように犯され続け、もう子供も産めないほど下腹部をズタズタにされました
それでも、任務だと思い我慢し、漸く助けに来てもらった結果が奴隷落ちでした。
 もう自分自身がイヤになっていたんです。
 そんな中、新しい主人に仕え主人を守れと言われても、もうどうでも良くなったのです。
 命令に従うことが一番だと思っていた結果が女としての役目も果たせず奴隷として暮らす…。
 私が今まで生きてきた200年は何だったのでしょう…。
 そんな状態で何をすべきなのでしょうか?」

 私は胸を張って答えます!

「カズ様と一緒に生き、笑顔になればいいんです。
 それにねナズナさん、カズ様が治療してくださった魔法ですけど、あれはヒーレスなんですよ。」
「え!?ヒーレス!?」
「そう。だから、あなたは私と同じで子供を産めない状況から回復しています。これからも子供を産める身体になったという事です。一か月もしないうちに月のモノが来ますよ。」
 
 私は笑顔で答えました。
勿論、カズ様に抱きしめられながら…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)

幻田恋人
恋愛
 夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。  でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。  親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。  童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。  許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…  僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

チョロイン2人がオイルマッサージ店でNTR快楽堕ちするまで【完結】

白金犬
ファンタジー
幼馴染同士パーティーを組んで冒険者として生計を立てている2人、シルフィとアステリアは王都でのクエストに一区切りをつけたところだった。 故郷の村へ馬車が出るまで王都に滞在する彼女らは、今流行りのオイルマッサージ店の無料チケットを偶然手に入れる。 好奇心旺盛なシルフィは物珍しさから、故郷に恋人が待っているアステリアは彼のためにも綺麗になりたいという乙女心からそのマッサージ店へ向かうことに。 しかしそこで待っていたのは、真面目な冒険者2人を快楽を貪る雌へと変貌させる、甘くてドロドロとした淫猥な施術だった。 シルフィとアステリアは故郷に戻ることも忘れてーー ★登場人物紹介★ ・シルフィ ファイターとして前衛を支える元気っ子。 元気活発で天真爛漫なその性格で相棒のアステリアを引っ張っていく。 特定の相手がいたことはないが、人知れず恋に恋い焦がれている。 ・アステリア(アスティ) ヒーラーとして前衛で戦うシルフィを支える少女。 真面目で誠実。優しい性格で、誰に対しても物腰が柔らかい。 シルフィと他にもう1人いる幼馴染が恋人で、故郷の村で待っている。 ・イケメン施術師 大人気オイルマッサージ店の受付兼施術師。 腕の良さとその甘いマスクから女性客のリピート必至である。 アステリアの最初の施術を担当。 ・肥満施術師 大人気オイルマッサージ店の知らざれる裏の施術師。 見た目が醜悪で女性には生理的に受け付けられないような容姿のためか表に出てくることはないが、彼の施術を受けたことがある女性客のリピート指名率は90%を超えるという。 シルフィの最初の施術を担当。 ・アルバード シルフィ、アステリアの幼馴染。 アステリアの恋人で、故郷の村で彼女らを待っている。

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

処理中です...