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第四章

4-19 奴隷買っちゃいました…Again

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 棟梁と打ち合わせをした後、カルムさんの店に行く。

 おぅ、相変わらずのボディガードさん。いつもご苦労様です。
ディートリヒは物おじせず、カルムさんへの取次をお願いする。
もう慣れたもので、すぐに奥の部屋に案内されるとカルムさんが待っていた。

「ニノマエ様、お待ちしておりました。」
「お待たせして申し訳ありません。では、代金を支払いますね。」

 もう慣れたもの(と言っても一回だけである)ですぐに税金を含めた金貨2枚を渡す。

「ありがとうございます。では紋様をもって部屋に行きましょう。」

 カルムさんはニコニコとしている。
この人が怒るところは見たことは無いが、こういった温厚そうなヒトこそ怒らせると怖いんだよな…。

「こちらの部屋です。」

 俺たちは中に入った。
既に彼女の皮膚は修復している。やはり欠損部位よりは回復が早いのだろうか…。

「昨日治療したニノマエ様だ。この方が今日からナズナさ…、ナズナのご主人だ。」
「この度は、私を購入していただき、ありがとうございます。精一杯ご主人様のお力になるよう努力いたします。」

 この娘はちゃんと喋れるね。
なんとなく、ソフィー・マルソーに似ている。うん可愛い。
ディートリヒはそれほどまでに酷かったんだと今更ながら思う。

「よろしくお願いするね。自分はニノマエ ハジメと言う。街の皆は“薬草おっさん”って言われてるから安易にしてね。あ、それとこれから奴隷紋を入れるんだけど、見えない箇所が良いと思うから、自分で場所を選んで。」
「では、脇腹の左下にお願いします。」

 サクサクと進んでいく。そして契約事項を入れて紋様が完成した。

「ニノマエ様、ではこの娘をよろしくお願いします。本日もありがとうございました。」
「こちらこそ、ありがとう。」

一応挨拶をして、ナズナの体力を確認し、まだ本調子ではないとの事でもう一度スーパーヒールをかけておく。
今回はマナをごそっと持って行かれることは無かったので、大分回復しているのだろう。
では、先ずはナズナの歓迎会をするため、シュクラットに行くことにした。
あ、ディートリヒさん…目が輝いている…。

「ナズナはお肉は好きかい?」
「はい。好きです。」
「じゃぁ、そこで食事をとって買い物した後、宿屋に戻って休もう。」

シュクラットに着くと個室をお願いし、料理長にまだお肉は残っているか確認すると、まだまだあるという事だったので5人前のステーキをお願いした。
そう、バジリスク・ジャイアントの肉だ。
料理が出来上がる間、俺は単刀直入に疑問に思ったことをナズナに聞く。

「ナズナ、昨日自分が君を鑑定したことは知っているよね。」
「はい。」
「そこで、君の種族を見たら狐族の前に何か隠されているものが見えたんだ。
それとスキルも一部消えているものがあった。
消える、というより消せるというスキルでもあるのかい。」

 ナズナは少し考えてからゆっくりと話す。

「はい。私は隠蔽のスキルを持っております。隠蔽は経験が上がれば名前までも消せるのですが、まだ私にはスキルが上がっていないためだと思います。」
「ということは、スキルで隠れていたものは隠蔽で消したということなんだね。」
「はい。その通りです。」
「では、もう一つの消えている種族の部分は何?」
「…。私は妖狐族です…。」

 ん?なんだそれ?

「ディートリヒ、妖狐族とは?」
「妖狐族は幻術や魔法を得意とし、ヒトを惑わせる術を使うという種族だと聞いております。
 それに呪いを得意とする種族であることから、忌み嫌われる種族だと…。」
「ナズナ、そうなの?」
「皆がそう言うのであればそうなのでしょう…。」
 
 彼女は何かを隠している…俺の直感がそう感じる。そして、何かが噛み合っていない気がする。

「えと、自分が言うのもなんだけど、種族がどうとか肌の色がどうとかって言う奴は言わしておけばいいんだよ。要は自分自身をどう持つのか、という事じゃないかな?」
「…。」
「難しいことは考えなくていいよ。自分はナズナの事を必要としている。勿論、ディートリヒもね。
 であれば、やることはひとつだけ。みんなで助け合って生きていくって事だけだよ。」

 ナズナはきょとんとしている。

「ははは、こんなおっさんに言われるのはおかしいかな。実は自分は遠いところから来て、この辺りの事情は何も知らないんだ。だから、噂がどうとか言われてもピンと来なくてね。
 あ、料理が来たから、先ずは食べようか。」

 今日のステーキには、料理長が開発したステーキソースがかかっている。
食欲をそそる良い匂いだ。

「さぁ、食べよう。いただきます。」
 
一口食べる。…うん。美味しい!流石シュクラットの料理人。
二人を見るとがつがつといってるよ。それでいいんだ。良く食べる。これが一番だ。
二人の食べっぷりは凄かった。追加でもう2人前頼んだけど、それもペロリと平らげた。
俺は微笑ましく二人を見ている。

 お腹もいっぱいになったのだろう…。二人は満足そうな顔をしている。

「あの、ご主人様、今更言うのも何ですが、奴隷の私がこのような席で同じものを食べてもよろしいのでしょうか。」

 ナズナがおずおずと聞いてくる。

「あ、奴隷がどうのこうのって話だね。自分はそんな事気にしないよ。例え奴隷であってもヒトはヒト。
あ、ヒト族って意味ではないから。
そんな同じヒトが地面に座れだの、奴隷食を食わせろなどと言わせるような奴らとは自分は違うから安心して。
だから、毎日一緒に同じものを食べる。それが決まりだから。
うーん、あとはディートリヒに聞いてもらえると嬉しいな。彼女も元奴隷だからね。」
「え、奥様ではないのですか?」
 
 あ、ナズナさん地雷踏んだよ…。
ディーさん、奥様にはなりたくないって自分から言ってたから、これは怒りマークが出るかな?
 俺は恐る恐るディートリヒの顔を見ると、にへら~とした表情のディーさんがいる。
変な意味で地雷を踏んでいた。

「私がカズ様の奥様…、いえ、伴侶…、でも一般的に見ると奥様に見えるのかしら…。」

だめだ。クネクネし始めている。完全にお花畑にトリップした。

「奥様に見える?」
「はい。」
「でも、実は違うんだ。俺とディートリヒは伴侶なんだ。」
「なんですか?その伴侶って。」
「うん…何というか…、結婚はしないけどお互いが好きで信頼し合い、助け合って生きていくパートナーって感じかな。」
「パートナー?」
「あ、パートナーが伴侶と同じ感覚だった…。ごめん撤回する。えと、愛し合っている、信頼している、助け合う、そして一緒に生きていくって意味かな。」
「そうなんですか。もしかしたら私もその伴侶という者にもなれるんでしょうか。」

おうふ!いきなりそこから入りますか?

「それは追々考えていけば良いと思うよ。
でも、自分はナズナを必要としている。助け合いたいと思っているよ。」

それを聞き、ディートリヒが怒りだすのではないかと思うが、いつの間にかお花畑から帰って来た彼女はうんうんと頷いている。

「僭越ながら、私ディートリヒがナズナさんにカズ様の素晴らしさをお教えいたします。」
「あ、それは俺の居ない時にお願いします。」
「そうですか…。では、ナズナさんの問いに答えますと、ナズナさんの心の中にある引っ掛かったものをすべてカズ様にお伝えし、それをカズ様が受け入れるのであれば伴侶になれると思います。」

 ん?何か難しいこと言ってません?
心の中の引っ掛かっているものって?ナズナの中にあるの?

 俺がぽかんとしているとナズナがため息を吐きながら吐露し始めた。
 
「流石、カルム様がお認めになられたお二人です。
 では、私の心の中にある引っ掛かりをお二人にお話しいたします。」

 ナンナンダ…。この展開…。完全にボッチ状態?
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