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第四章
4-11伯爵家パーティー②
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ようやく曲が終了した。
俺は見よう見真似で挨拶をし、赤面しながらアメリカザリガニのように後ろズリズリと会場を出る。
俺の姿を見て、多くのお貴族様がひそひそ話をする。
「あの田舎者は何?」
「メリアドール様も酔狂よね。」
「不相応ですわ。」
全部聞こえてますよ…。
完全に公開処刑だった…。イジメにあった気分だ。
何かメリアドールさんだっけ?彼女の悪意さえも感じてきた。
俺は先程座っていた隅っこの席、定位置に移動し、少し食事をとる。
早々に立ち去りたいからディートリヒを探すも居ない…。
ホント、泣きそうだった…。
見知らぬ場所がこれほど怖いと感じたことは無かった。
これまで何とかなると思ってはいたが、考えが甘かった…。
冷ややかな目が怖い。これがお貴族様の世界なのか…。
俺はため息を一つ吐くと、お暇しようと席を立つ。
ディートリヒなら一人で帰って来るだろう…。
本来なら伯爵に挨拶をして帰るのが筋だと思うが、ここは“負け犬”で良い。
大人しく帰って明日から踏ん張ろう!
そう思い門の方へと歩く。
「カズよ。もう帰るのかえ?」
ふと見ると、先ほどのメリアドール様が立っておられる。
「はい。私が居る場所はここにはございません…。」
「そうとは言えんぞ。見てみぃ。カズの同行者はあれほどチヤホヤされておるではないか。」
指さす方を見るとディートリヒとティエラ様を中心に女性陣が取り巻いている。
「あれはこの街で取り扱っている宝石をPRしていると思います。」
「そうであろうの。しかし、その宝石を持ってきたのはカズであろう?」
「確かにそうですが、自分としてはトーレス商会の広告塔として動いているだけですよ。」
「カズは謙虚だの。しかし、謙虚も度が過ぎると嫌味に聞こえるぞ。」
「よく皆に言われますが、自分がそれほど大きな者だとは思ってはおりません。」
「カズは、どうやら自分の力が分かっていないようじゃの。」
「自分はしがない“薬草おっさん”ですよ。」
「そうかの?ギルドでは“雷親父”とか“Late Bloomer”と呼ばれているようじゃが。」
は?何その横文字?
“Late Bloomer”って、遅咲きの花って意味じゃん。俺って花なの?
「薬草採った回数なら自慢できますがね。そのおかげでしがないCランクです。」
「わずか1か月でCランクになるような冒険者など居らんぞ。」
そうなのか…。でも依頼回数さえクリアすればいいんだもの、これは裏技だぞ。
「メリアドール様、一つご無礼を承知でお聞きしたいことがありますがよろしいでしょうか。」
「ん、構わん。」
しかし、来貴族様ってのは何でこんなに上から目線で話すのだろう…。
「何故、自分のような“しがないおっさん”にお声をかけていただけるのでしょうか?
ここに居る“お貴族様”は、メリアドール様の所作を“酔狂”だのと仰っているようですが。」
「ははは、“酔狂”とな。確かに他の者は初見の者を見る目は冷たいからの。
彼らはそういう生き物じゃ。自分たちの庭の中だけで生きておるから外の世界は知らぬというのが本意なのじゃろうて。
しかしの、カズは違うぞ。妾は一目主を見た時、何かヒトとは違うものを感じたのじゃ。そうさのう、怖い者見たさと言うか興味というか…。」
「はは。怖い者見たさですか…。確かに従者からは“規格外”と言われたことはありますがね。」
「“規格外”か、言い得て妙だの。」
「まぁ、このような機会は自分の中にはもう無いと思いますので、今回の経験は今後何かのために役立てるとはいたします。」
「本当に主は面白いヒトじゃの。普通なら貴族と仲良くなるという事は自身を守る加護のようなものを持つものだと、こぞって貴族と関係を持ちたいと思う輩が多いものなのに、主は何故そう貴族というものを嫌うのかの?」
「自分は、お貴族様を嫌っている訳ではございません。
お貴族様の中でも良い方がお見えになると思います。そういった方とお知り合いになり、お付き合いできれば良いと考えているだけです。
それは、貴族という肩書ではなく、ヒトとして信じることができる方とお付き合いしたいという意味になると思います。」
「そうか…。そういう風に考える主は稀有な存在なのかもしれぬな。」
「稀有ではないと思います。ヒトとして真剣に付き合えるヒトとなら、例えこの命を投げ出してでも役に立ちたいと思うのが道理であると考えます。」
「ふふふ、それで主が提案したのが“これ”という訳じゃな。」
メリアドール様は、後ろに隠していたシルバーのバッグを見せる。
これは、トーレスさんのところで限定販売しているバジリスク・ジャイアントの素材で作ったものだ。
「あ、これは?」
「何も言わんでよい。これを見せればどういった対応となるのかは必然だからの。」
「そういう意味で、自分に近づいてきたという事ですか。」
俺は少し嫌味を言う。
「別にそういった意味ではない。カズという存在がバリー、否ティエラにとってどのような影響を与えておるのかを確認したくての。
まぁ、怖いもの見たさは確かであったがの。」
屈託のない笑みを浮かべながら話を続ける。
「それとな、ティエラを治療してもらい感謝する。
あやつは子どもの頃から病弱での。少し気を揉んでおったのじゃが、あの姿を見ると元気になったようじゃ。」
「あれは、治療ではございません。あくまでも良く食べ、良く寝、良く運動すると申し上げたまでの事です。」
「カズよ、謙虚も度が過ぎると嫌味じゃぞ。」
「そうは申しても、本当の事でございますからね。」
メリアドール様はティエラ様と何か関係があるようだ。貴族内の血縁関係者かもしれないな…。
そう思いながらも、俺は俺だからと開き直る。
それからは定位置に移動し、他愛の無い会話を楽しんだ。
「皆さま、宴もたけわなではございますが、ここらでお開きにしたいと存じます。
なお、明日はオークションが開催されます。
今回の目玉は、なんと“オーク・キングの睾丸”です。
紳士淑女の皆さま、お子を授かる良い機会です。
是非、ご参加いただきますようお願い申し上げます。」
お、これで終了だ。
メリアドール様のおかげで少し気が紛れた。この女性に感謝しなくてはいけないな。
「お、カズの従者もようやく解放されたな。それでは妾も退散することとしようかの。」
「メリアドール様、今回は自分のようなしがないおっさんにお付き合いいただき感謝申し上げます。」
「構わんよ。所詮、主が言うところの“酔狂”じゃしの。
それにな、カズよ。
今回は妾がおった事で主を守ることができたが、次からはこうはいかんぞ。
先ずは自身に力をつけよ。
そして身に着けた力を存分に発揮せよ。
さすれば、この有象無象なるバカ者どもは尻尾をまいて逃げていくであろうよ。」
微笑しながら話を続けるも、彼女は意を決したかのように真顔になる。
「そして、このバカ者どもが蔓延る社会を、兄者が守るこの国を変えて欲しい。」
俺は頭が真っ白になった。
「え、兄者? お兄様? 国? 何て???」
「そうじゃ、妾の兄者はこの国の王じゃ。名前は何と言ったかの。そうそう、エドワルド。
エドワルド・ブレイズフォード。
ブレイズフォード王国の王じゃ。ではまたの。」
手をひらひら振りながら、メリアドール様は去っていった。
去っていく途中の繁みから護衛の者が回りを囲んだ。
あのヒトたち、ずっと繁みに隠れていた?
そして、俺を睨んでたの?
俺…、完全に不敬罪で死亡確定だな…。
会場を去り宿屋までの道すがら、嬉々として報告してくるディートリヒの声はまったく頭の中に入らず、ただ死地に赴く兵士…、ドナドナ状態になりながらトボトボと歩いて行った。
俺は見よう見真似で挨拶をし、赤面しながらアメリカザリガニのように後ろズリズリと会場を出る。
俺の姿を見て、多くのお貴族様がひそひそ話をする。
「あの田舎者は何?」
「メリアドール様も酔狂よね。」
「不相応ですわ。」
全部聞こえてますよ…。
完全に公開処刑だった…。イジメにあった気分だ。
何かメリアドールさんだっけ?彼女の悪意さえも感じてきた。
俺は先程座っていた隅っこの席、定位置に移動し、少し食事をとる。
早々に立ち去りたいからディートリヒを探すも居ない…。
ホント、泣きそうだった…。
見知らぬ場所がこれほど怖いと感じたことは無かった。
これまで何とかなると思ってはいたが、考えが甘かった…。
冷ややかな目が怖い。これがお貴族様の世界なのか…。
俺はため息を一つ吐くと、お暇しようと席を立つ。
ディートリヒなら一人で帰って来るだろう…。
本来なら伯爵に挨拶をして帰るのが筋だと思うが、ここは“負け犬”で良い。
大人しく帰って明日から踏ん張ろう!
そう思い門の方へと歩く。
「カズよ。もう帰るのかえ?」
ふと見ると、先ほどのメリアドール様が立っておられる。
「はい。私が居る場所はここにはございません…。」
「そうとは言えんぞ。見てみぃ。カズの同行者はあれほどチヤホヤされておるではないか。」
指さす方を見るとディートリヒとティエラ様を中心に女性陣が取り巻いている。
「あれはこの街で取り扱っている宝石をPRしていると思います。」
「そうであろうの。しかし、その宝石を持ってきたのはカズであろう?」
「確かにそうですが、自分としてはトーレス商会の広告塔として動いているだけですよ。」
「カズは謙虚だの。しかし、謙虚も度が過ぎると嫌味に聞こえるぞ。」
「よく皆に言われますが、自分がそれほど大きな者だとは思ってはおりません。」
「カズは、どうやら自分の力が分かっていないようじゃの。」
「自分はしがない“薬草おっさん”ですよ。」
「そうかの?ギルドでは“雷親父”とか“Late Bloomer”と呼ばれているようじゃが。」
は?何その横文字?
“Late Bloomer”って、遅咲きの花って意味じゃん。俺って花なの?
「薬草採った回数なら自慢できますがね。そのおかげでしがないCランクです。」
「わずか1か月でCランクになるような冒険者など居らんぞ。」
そうなのか…。でも依頼回数さえクリアすればいいんだもの、これは裏技だぞ。
「メリアドール様、一つご無礼を承知でお聞きしたいことがありますがよろしいでしょうか。」
「ん、構わん。」
しかし、来貴族様ってのは何でこんなに上から目線で話すのだろう…。
「何故、自分のような“しがないおっさん”にお声をかけていただけるのでしょうか?
ここに居る“お貴族様”は、メリアドール様の所作を“酔狂”だのと仰っているようですが。」
「ははは、“酔狂”とな。確かに他の者は初見の者を見る目は冷たいからの。
彼らはそういう生き物じゃ。自分たちの庭の中だけで生きておるから外の世界は知らぬというのが本意なのじゃろうて。
しかしの、カズは違うぞ。妾は一目主を見た時、何かヒトとは違うものを感じたのじゃ。そうさのう、怖い者見たさと言うか興味というか…。」
「はは。怖い者見たさですか…。確かに従者からは“規格外”と言われたことはありますがね。」
「“規格外”か、言い得て妙だの。」
「まぁ、このような機会は自分の中にはもう無いと思いますので、今回の経験は今後何かのために役立てるとはいたします。」
「本当に主は面白いヒトじゃの。普通なら貴族と仲良くなるという事は自身を守る加護のようなものを持つものだと、こぞって貴族と関係を持ちたいと思う輩が多いものなのに、主は何故そう貴族というものを嫌うのかの?」
「自分は、お貴族様を嫌っている訳ではございません。
お貴族様の中でも良い方がお見えになると思います。そういった方とお知り合いになり、お付き合いできれば良いと考えているだけです。
それは、貴族という肩書ではなく、ヒトとして信じることができる方とお付き合いしたいという意味になると思います。」
「そうか…。そういう風に考える主は稀有な存在なのかもしれぬな。」
「稀有ではないと思います。ヒトとして真剣に付き合えるヒトとなら、例えこの命を投げ出してでも役に立ちたいと思うのが道理であると考えます。」
「ふふふ、それで主が提案したのが“これ”という訳じゃな。」
メリアドール様は、後ろに隠していたシルバーのバッグを見せる。
これは、トーレスさんのところで限定販売しているバジリスク・ジャイアントの素材で作ったものだ。
「あ、これは?」
「何も言わんでよい。これを見せればどういった対応となるのかは必然だからの。」
「そういう意味で、自分に近づいてきたという事ですか。」
俺は少し嫌味を言う。
「別にそういった意味ではない。カズという存在がバリー、否ティエラにとってどのような影響を与えておるのかを確認したくての。
まぁ、怖いもの見たさは確かであったがの。」
屈託のない笑みを浮かべながら話を続ける。
「それとな、ティエラを治療してもらい感謝する。
あやつは子どもの頃から病弱での。少し気を揉んでおったのじゃが、あの姿を見ると元気になったようじゃ。」
「あれは、治療ではございません。あくまでも良く食べ、良く寝、良く運動すると申し上げたまでの事です。」
「カズよ、謙虚も度が過ぎると嫌味じゃぞ。」
「そうは申しても、本当の事でございますからね。」
メリアドール様はティエラ様と何か関係があるようだ。貴族内の血縁関係者かもしれないな…。
そう思いながらも、俺は俺だからと開き直る。
それからは定位置に移動し、他愛の無い会話を楽しんだ。
「皆さま、宴もたけわなではございますが、ここらでお開きにしたいと存じます。
なお、明日はオークションが開催されます。
今回の目玉は、なんと“オーク・キングの睾丸”です。
紳士淑女の皆さま、お子を授かる良い機会です。
是非、ご参加いただきますようお願い申し上げます。」
お、これで終了だ。
メリアドール様のおかげで少し気が紛れた。この女性に感謝しなくてはいけないな。
「お、カズの従者もようやく解放されたな。それでは妾も退散することとしようかの。」
「メリアドール様、今回は自分のようなしがないおっさんにお付き合いいただき感謝申し上げます。」
「構わんよ。所詮、主が言うところの“酔狂”じゃしの。
それにな、カズよ。
今回は妾がおった事で主を守ることができたが、次からはこうはいかんぞ。
先ずは自身に力をつけよ。
そして身に着けた力を存分に発揮せよ。
さすれば、この有象無象なるバカ者どもは尻尾をまいて逃げていくであろうよ。」
微笑しながら話を続けるも、彼女は意を決したかのように真顔になる。
「そして、このバカ者どもが蔓延る社会を、兄者が守るこの国を変えて欲しい。」
俺は頭が真っ白になった。
「え、兄者? お兄様? 国? 何て???」
「そうじゃ、妾の兄者はこの国の王じゃ。名前は何と言ったかの。そうそう、エドワルド。
エドワルド・ブレイズフォード。
ブレイズフォード王国の王じゃ。ではまたの。」
手をひらひら振りながら、メリアドール様は去っていった。
去っていく途中の繁みから護衛の者が回りを囲んだ。
あのヒトたち、ずっと繁みに隠れていた?
そして、俺を睨んでたの?
俺…、完全に不敬罪で死亡確定だな…。
会場を去り宿屋までの道すがら、嬉々として報告してくるディートリヒの声はまったく頭の中に入らず、ただ死地に赴く兵士…、ドナドナ状態になりながらトボトボと歩いて行った。
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