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第四章

4-8 越後屋、お主も悪よのう…Again

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 起きるのが嫌だ…。
嫌なことや心配事があると、出不精になるものだ。
俺は朝起きてからベッドでグダグダとしている。

 今日の夕刻は伯爵家で開催されるスタンピード終結報告会を兼ねた夕食会。
その席に招待されている…。
こんなおっさんが場違いな場所に行っても何も始まらない。
どうせ広間の片隅に追いやられ、ボッチになるに決まってる。
なら、ずっとダンジョンに引きこもって素材集めでもしていようか…、それとも教会の手伝いをしてそこに一日滞在していようか…。
 完全に逃げたい心境だ。

「なぁ、ディートリヒ?今日ってやっぱり行かなきゃいけないんだろうかね?」

ディートリヒを見やると、ドレスは着ていないが髪留めやイヤリング、ネックレスを付けルンルンしている…。完全に行く気満々だ。

「何をおっしゃっているんです。カズ様はスタンピード終結の立役者ですよ。主役が行かなくてはいけないに決まっているじゃないですか!
 それに、このアクセサリーを見せるという事は貴族との付き合いや商談をするって事だと思います。」

 あかん…、ふんすか言ってる。
何度も言う、行く気満々だよ…。

「それじゃ、午後まで少し時間があるからトーレスさんの店に行こう。少し売りたいものがあるから。」

俺たちは、トーレスさんの店に着く。
もう顔パス状態となっており、すぐに奥に案内される。

「ニノマエ様、おはようございます。今日は…」

 トーレスさんがディートリヒを見て無言になった…。

「ニノマエ様、そのお連れ様がつけていらっしゃるアクセサリーですが…。」
「そう、昨日故郷から送られてきてね。今晩の夕食会でお披露目しようと思っているんだけど、どうかな?」
「それをされるなら、是非当店が扱っているという事でお願いできないでしょうか。」
「え、もちろんそのつもりだけど、ダメかな。」
「ありがとうございます。」
「ところで、ネックレスは別として、イヤリングとブレスレットでどれだけの価値になる?」

ド直球で聞いてみる。
 トーレスさんが考え込む。

「そうですね。先日購入いたしましたものは男性用で切れたら終わりという事で金貨1枚でしたね。」
「そう。でも今回はひもが切れてもなんとか修理できるようにヒモも付いてる。」
「ホントですか?それなら3倍で購入いたします。
 それと今回はイヤリングとセットですから…、そうですね…、金貨5枚でどうでしょうか。」
「因みにネックレスはいくらぐらいになる?」
「これは、とても綺麗な宝石ですね。これですと金貨5枚です。」
「という事は、アクセサリー3点で金貨10枚か…。こんなところかな。だそうだよ。ディートリヒ。」

 少し意地悪な顔をしてディートリヒを見ると、彼女は硬直していた。

「金貨10枚…、金貨10枚…」
 
 ふふふ、恐ろしくなっただろう。石の価値はそれぞれだけど、この世界の石の価値が凄いんだよ。
これだけで一財産稼げる。それだけの宝石を着用して動き回るんだよ。歩く広告塔なんだ。
責任は重大だよ。

「ニノマエ様、これをどれくらいこちらに融通していただけますか?」
「どれくらいご所望ですか?」
「あるだけ!お願いします。」

 意地悪なことはこれくらいにして、それじゃぁと言って、先ずはトーレスさん奥様も分を渡す。
勿論タダ。お土産として渡したら、腰抜かしてたよ。
後は、お世話になったヒト分を除き、念珠10個を渡した。

「それと、もう一つあるんですが…。」
「それは…。」
「はい。時計です。」

 トーレスさん、キターーーとばかりに目を輝かせる。
そこで、俺は少し意地悪をする。

「トーレスさん、お願いがあります。」
「はい。なんでしょうか。」
「ここにトーレスさんの奥様をお呼びください。」

 トーレスさん、俺が何を企んでいるのか想像もできないから、奥様を呼んで来る。
因みにトーレスさんの店も店舗兼住宅なので、上層階に奥様がいらっしゃるようで、すぐにいらっしゃった。

「お待たせしました。妻のシセリーです。」
「初めましてニノマエ様、いつも主人がお世話になっております。」
「初めまして。ニノマエと申します。」

 何故、俺が奥様も呼んだかというと、念珠10個で金貨30枚になる。それに時計までとなると、店が傾く可能性もあるからだ。奥様にも知っていただいた方が取引もしやすくなると判断した。

「先ほど、トーレスさんにお渡ししましたが、これは自分の故郷で作られる宝石です。
 これはトーレスさん、これは奥様がお使いください。」
「まぁ、こんな綺麗な宝石をいただけるんですか?ありがとうございます。」

 ふふふ、後でトーレスさんが付けた値段を聞いて、家庭内戦争が起きるだろうよ…。

「これをトーレスさんのお店で扱っていただくようにしますが、何せ数が少ないので、早々手に入るものではありませんので、その部分はご了承願います。」
「まぁ、それほど希少価値の高いものなのですね。あなた、因みにこれ1個いかほどなの?」

「え、あ、あの…」

 トーレスさん、眼が泳いでるよ。ふふふ。

「き、金貨3枚です。」
「え、金貨3枚だけなの。あなた、それはこの宝石に失礼です!金貨5枚はしますわよ。」

「えええええーーーー」

 再度、全米中が驚愕した…。
 
「すみません。奥様、少し冗談が過ぎました。
 卸値で金貨3枚、売価として金貨5枚という事という意味ですね。」
「そうですね。それであれば貴族の方ならこぞって買い求めますね。それによろしいんですか?このような高価なものをいただいてしまって。」
「自分は売却先を知りませんし。自分も商売をと思っているのですがまだ先の事ですからね。
こういった希少価値のあるものは、やはりトーレスさんのお店のような信頼できるお店で取り扱っていただくのが一番でしょう。」
「ふふふ。ですって、あなた、よかったですね。」
「あ、あぁ。」

 奥様はケラケラと笑っている。
この店も奥様で持っているんだな、と実感した。

「で、これからが本題です。
 以前お渡ししましたバジリスク・ジャイアントのバッグなどは何点ほど出回りましたか。」
「そうですね。4点ですかね。」
「では、その4人の方に追加でこの時計をお渡しください。」
 
 俺は、ソーラー時計を机に出した。
今回は男性用女性用の計10個。奥様も時計に見入っている。
男性用は懐中時計、女性用は小ぶりな腕時計とした。

「これは、トーレスさんへの先行投資です。
 真に信頼するに値する人物にバッグをお売りになったのだと思います。
 おそらく金貨数枚で。
であれば、そのアフターサービスとして、男性が購入されましたら懐中時計を、女性であれば腕時計をお渡しください。」
「同時に渡すのはダメですか?」
「良くはありませんね。そうしないとバジリスク・ジャイアントの価値が下がってしまいますよ。それよりも真に信頼できる人物をもう一度見定めた上で、この時計をその方にお渡しください。勿論、ユーリ様やティエラ様にはトーレスさんからの預かりものとして今晩お渡ししておきますが、そうだ、トーレスさんもご一緒にどうですか。伯爵家にとってもメリットが出ると思いますよ。」
「手前どもは今回招待されておりませんので。」
「では昼食後にでも一緒にご挨拶がてら伯爵邸に行きましょう。」
「はい。分かりました。ふふふ、流石はニノマエ様ですね。どうだシセリー、これが、俺が話していたニノマエ様だよ。」
「商才に長けた凄い方ですね。あなた、絶対この方を逃しちゃいけませんよ。」
 
 ありゃ…。俺、いつの間にかシセリーさんの獲物になってる。

「という事で、この時計はトーレスさんにお渡しいたします。」
「お代は?」
「念珠の金額でお腹いっぱいです。
この時計は“信頼”という値段でどうですか。これを自分たちの故郷では“Priceless”と呼んでいます。」
「“ぷらい・すれす”ですか。それは良い言葉ですね。」

トーレスさん、切るところ間違っているけど、まぁいいか…。
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