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第三章
3-35 有朋自遠方来、不亦楽乎
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体力が持ちません…。
陽が上ったと同時にイヴァンさんにたたき起こされ、食事を駆け込み、広場に引っ張ってこられた。
今日は午後から大慰霊祭が開催される。
しかし、大慰霊祭と同時に大食事会も開催する。
俺が言い出しっぺだ…。言い出しっぺだから早く来い!という訳ではなく、陣頭指揮に立ってほしいとの出店者すべての依頼だそうだ。
俺は食う方に徹しようと思っていたのだが、全員から本部待機を告げられたようだ。
こういう場合は仕方ない。大人しくしていよう。
広場に到着。昨日くじで店の場所を決めた各店舗すべてが、本部からの素材をもらって下ごしらえに入っている。ただし、焼くのはもっと後で良いからね。タネだけ作っておけばいいから。
皆ワクワクしている。
本当は慰霊祭だから神妙にしなくてはいけないのだが、それよりも食事がとれるって方が大きい。
それもパン以上のものが食えるって噂が流れ、広場には既に場所取りをしている市民もちらほらいる。
向こうの世界での十数年前、子供たちの運動会の場所取りで早朝バトルを繰り広げた記憶がある。
子供の映像を間近でビデオに収めるためのカメラポジションの取り合いだ。
年々バトルが過激になり、俺たちの子供が卒業する年以降は、場所取り厳禁、座る位置は自分が住んでいる地区を指定しているので、その中で話し合って決めなさいというお達しが出たくらいだ。
おそらく通年行事としてやっていくのであれば、いずれクリアしなくてはならない難問だな。
準備も粗方終了し、全体を見るため教会に行く。
教会の前でも、シスターや関係者がバタバタと動いている。
そりゃそうだよな。最初は慰霊祭だ。教会内で執り行われるから、一番バッターとして忙しいのだろう。
それに伯爵自ら教会に依頼したらしく、とんでもないくらい力が入っている。
ところどころで冒険者ギルドで話した同僚らに会う。
「おう、薬草おっさん、生きてたか?」
「あぁ、生きてたよ。そっちはどうだ?」
「スタンピードのお陰でホクホクだぜ。あんたはどうだ?」
「あぁ、あれ以来薬草の依頼が無くてかつかつだぜ。」
などと他愛のない話をしていく。
俺の本質を知っているのはごく限られたメンバーだから問題ない。
薬草おっさんでいいんだよ。
「よう!雷親父!」
ん?誰だ?それに雷親父って昭和40年代までの親父の代名詞じゃねえか。
声がした方を向くと、そこには炎戟のミレアさんが松葉杖をつき立っていた。
「ミレアさんじゃないですか? その傷はスタンピードで?」
「あぁ、久しぶりだな。あの時あんたの魔法に呆気にとられちまって、魔物に腹を裂かれてしまってな。
医者からは傷口が開いちゃいかんから、今日は大人しく寝てろって言うんだが、居てもたってもいられなくてな。」
「そうですよね。みんな一緒に闘ってくれた仲間ですものね。」
俺は、小声でミレアさんの腹部が正常に戻るようイメージし、“スーパーヒール”を唱えた。
ミレアさんは、腹の周りに集まる光を見ていたが、俺の顔を見て「すまん」の一言をかけてくれた。
それだけで十分伝わる。
「ところで、他のメンバーの方は?」
「あぁ、あいつらはまだ寝てるぞ。昼からの大食事会に向けて体力をつけておくって。」
いや、体力をつけるんではなく、腹をすかしておかなきゃいかんですよ…。
「ははは、できればお腹をすかした方が良いと思いますけどね。
それから何ですか? 雷親父って。」
「あんたのとんでもねぇ魔法だよ。
間近で見てたあたい達も度肝を抜かれたからな。
あんなの最初に撃ってくれれば…と思ったけど、あんたも死にそう…ってか死んでたんだ。そうそう撃てるような代物ではないってことだな。」
「あはは、あの時は死に物狂いでしたからね。おかげで2日間、あの世とこの世を行ったり来たりしていましたよ。」
「カズ様、それは本当のことでしょうか?」
ディーさん、これは冒険者同士のお約束って奴です。本気にしてはいけませんよ…。
その間、俺は紙様とお話ししていただけですから…。
「しかし、雷親父ですか…。やっぱり、おっさんとか親父なんですね。」
「そりゃそうだろ、あんたあたいの親父よりも齢いってるんだぜ。」
「ま、そりゃそうですね。」
お互い笑い合う、気ごころの知れた友と話している、そんな感じだ。
論語の一説に『朋(とも)有り、遠方より来たる、 亦(また)楽しからずや』というのがあるが、そんな気分なんだろうと感慨深い。
その後、風の砦のメンバーも俺たちを見つけ、お互いの無事を確かめ合い喜んだ。
ヤハネの光のメンバーも到着し、炎戟のミレアさんに恐縮しつつ、皆の無事を喜んだ。
「時に、ニノマエさんよ。」
ん?コックスさん、何かあったのか?
「ニノマエさんには、余り聞かせない方が良い話かもしれないが、冒険者ギルドの長が死んだって聞いた。それにギルド長の女もだそうだ。」
「そうでしたか。それは残念な事でしたね。」
「あいつらに、今俺たちがここで生き残っている姿を見せたかったな…。」
「よせ。例え最悪な結末であったとしても、あいつらはあいつらの思う我儘を通したんだ。それで十分だ。」
ミレアさん、格好いい。
そうなんだよ。正義なんてのは人それぞれだから。
今生き残っている俺たちが居る、それで十分なんだし、それも正義だ。
終わった事を悔やんでも仕方ない。前を見て歩く。
ヒトの周りにはヒトがいる。
ヒトがヒトを育てるってこともある。
俺たちは、ここにいる戦友と生き残った。そして生を確かめ合った。それで十分だ!
「さて、皆さん、しみったれた話はこれくらいにして、お皿は持ってこられましたか?」
「おう!」「え?」
「もしかして、お皿をお持ちでない方は午後からの大慰霊祭で不幸な目に遭いますから、今のうちにお皿を準備しておいてくださいね。」
「そうだぞ。昼からはニノマエさんの故郷で作ってた料理の食い倒れ会だからな。」
食事会がいつの間に大阪風になってた。
「ミレアさん、ありがとう。すぐに皿を持ってくるよ。」
ヤハネの光のメンバーはすぐさま宿屋に戻っていった。
「ところで、今日はどんな食い倒れがあるんだ?」
ミレアさん、完全に趣旨をはき違えている…。
「今日は、スタンピードでお亡くなりになられた方を領主主催で慰霊するのが目的ですよ。
ただ、街の商業部分がやられてしまったので、パンを作る工房などがなくなり、パンが作れない、食べれないといった事情があるようです。ですので、領主様がパンに代わる食材が無いかと質問されたので、ある料理をご提案した次第です。」
「ほう、その料理は旨いのか?」
「料理自体が美味しいというのは好みですが、今回の目玉は、何と調味料なんですよ。」
「な、調味料だと!」
「はい。アイテムボックス持ちのミレアさんたちなら、泣いて喜ぶと思います。
味はいろんな店が作っていますので、今後は一番気に入った調味料を購入することができると思います。」
「そうか…、そりゃ冒険が楽になるな。」
「はい。今宿屋に戻ったヤハネの光のみなさんは、まだアイテムボックスが持っていませんが、調味料が有ると無いとは、野営の料理の幅も広がりますからね。」
「そうだな。いつも味気の無い肉を焼くだけの野営からもおさらばできるって訳か。」
「そうですね。」
お互いがお互いの事を分かりあう事は難しいことだというヒトもいるし、簡単だというヒトもいる。
だから、皆いろいろな事を考えながら生きている。
気ごころ触れ合う仲間と楽しく暮らす。これもまた楽しい。
何かとても心地が良い。そんな気分だ。
しかし、突然事件がやってくる。
入り口付近で何やら騒ぎがあったようだ。
俺たち全員、入り口に向かう。
そこで見たモノは…。
大きな皿を持って受付から離れようとしないヒトが居た。
そのヒトの後ろには、ヘラを持った女性が立っている。
「あんたは今日は留守番だって言っただろ!」
「やじゃ!儂はこの2日徹夜して仕事を片付けたんじゃ!文句はないじゃろ。」
「ふらふらになって食ってちゃ、喉に詰まっておっ死んじまうよ。」
「それでもいいんじゃ!儂に食わせてくれ~。」
そこに居たのは、目の下に隈を付け、大皿をもって駄々っ子のように泣き叫ぶマルゴーさんが居た…。
陽が上ったと同時にイヴァンさんにたたき起こされ、食事を駆け込み、広場に引っ張ってこられた。
今日は午後から大慰霊祭が開催される。
しかし、大慰霊祭と同時に大食事会も開催する。
俺が言い出しっぺだ…。言い出しっぺだから早く来い!という訳ではなく、陣頭指揮に立ってほしいとの出店者すべての依頼だそうだ。
俺は食う方に徹しようと思っていたのだが、全員から本部待機を告げられたようだ。
こういう場合は仕方ない。大人しくしていよう。
広場に到着。昨日くじで店の場所を決めた各店舗すべてが、本部からの素材をもらって下ごしらえに入っている。ただし、焼くのはもっと後で良いからね。タネだけ作っておけばいいから。
皆ワクワクしている。
本当は慰霊祭だから神妙にしなくてはいけないのだが、それよりも食事がとれるって方が大きい。
それもパン以上のものが食えるって噂が流れ、広場には既に場所取りをしている市民もちらほらいる。
向こうの世界での十数年前、子供たちの運動会の場所取りで早朝バトルを繰り広げた記憶がある。
子供の映像を間近でビデオに収めるためのカメラポジションの取り合いだ。
年々バトルが過激になり、俺たちの子供が卒業する年以降は、場所取り厳禁、座る位置は自分が住んでいる地区を指定しているので、その中で話し合って決めなさいというお達しが出たくらいだ。
おそらく通年行事としてやっていくのであれば、いずれクリアしなくてはならない難問だな。
準備も粗方終了し、全体を見るため教会に行く。
教会の前でも、シスターや関係者がバタバタと動いている。
そりゃそうだよな。最初は慰霊祭だ。教会内で執り行われるから、一番バッターとして忙しいのだろう。
それに伯爵自ら教会に依頼したらしく、とんでもないくらい力が入っている。
ところどころで冒険者ギルドで話した同僚らに会う。
「おう、薬草おっさん、生きてたか?」
「あぁ、生きてたよ。そっちはどうだ?」
「スタンピードのお陰でホクホクだぜ。あんたはどうだ?」
「あぁ、あれ以来薬草の依頼が無くてかつかつだぜ。」
などと他愛のない話をしていく。
俺の本質を知っているのはごく限られたメンバーだから問題ない。
薬草おっさんでいいんだよ。
「よう!雷親父!」
ん?誰だ?それに雷親父って昭和40年代までの親父の代名詞じゃねえか。
声がした方を向くと、そこには炎戟のミレアさんが松葉杖をつき立っていた。
「ミレアさんじゃないですか? その傷はスタンピードで?」
「あぁ、久しぶりだな。あの時あんたの魔法に呆気にとられちまって、魔物に腹を裂かれてしまってな。
医者からは傷口が開いちゃいかんから、今日は大人しく寝てろって言うんだが、居てもたってもいられなくてな。」
「そうですよね。みんな一緒に闘ってくれた仲間ですものね。」
俺は、小声でミレアさんの腹部が正常に戻るようイメージし、“スーパーヒール”を唱えた。
ミレアさんは、腹の周りに集まる光を見ていたが、俺の顔を見て「すまん」の一言をかけてくれた。
それだけで十分伝わる。
「ところで、他のメンバーの方は?」
「あぁ、あいつらはまだ寝てるぞ。昼からの大食事会に向けて体力をつけておくって。」
いや、体力をつけるんではなく、腹をすかしておかなきゃいかんですよ…。
「ははは、できればお腹をすかした方が良いと思いますけどね。
それから何ですか? 雷親父って。」
「あんたのとんでもねぇ魔法だよ。
間近で見てたあたい達も度肝を抜かれたからな。
あんなの最初に撃ってくれれば…と思ったけど、あんたも死にそう…ってか死んでたんだ。そうそう撃てるような代物ではないってことだな。」
「あはは、あの時は死に物狂いでしたからね。おかげで2日間、あの世とこの世を行ったり来たりしていましたよ。」
「カズ様、それは本当のことでしょうか?」
ディーさん、これは冒険者同士のお約束って奴です。本気にしてはいけませんよ…。
その間、俺は紙様とお話ししていただけですから…。
「しかし、雷親父ですか…。やっぱり、おっさんとか親父なんですね。」
「そりゃそうだろ、あんたあたいの親父よりも齢いってるんだぜ。」
「ま、そりゃそうですね。」
お互い笑い合う、気ごころの知れた友と話している、そんな感じだ。
論語の一説に『朋(とも)有り、遠方より来たる、 亦(また)楽しからずや』というのがあるが、そんな気分なんだろうと感慨深い。
その後、風の砦のメンバーも俺たちを見つけ、お互いの無事を確かめ合い喜んだ。
ヤハネの光のメンバーも到着し、炎戟のミレアさんに恐縮しつつ、皆の無事を喜んだ。
「時に、ニノマエさんよ。」
ん?コックスさん、何かあったのか?
「ニノマエさんには、余り聞かせない方が良い話かもしれないが、冒険者ギルドの長が死んだって聞いた。それにギルド長の女もだそうだ。」
「そうでしたか。それは残念な事でしたね。」
「あいつらに、今俺たちがここで生き残っている姿を見せたかったな…。」
「よせ。例え最悪な結末であったとしても、あいつらはあいつらの思う我儘を通したんだ。それで十分だ。」
ミレアさん、格好いい。
そうなんだよ。正義なんてのは人それぞれだから。
今生き残っている俺たちが居る、それで十分なんだし、それも正義だ。
終わった事を悔やんでも仕方ない。前を見て歩く。
ヒトの周りにはヒトがいる。
ヒトがヒトを育てるってこともある。
俺たちは、ここにいる戦友と生き残った。そして生を確かめ合った。それで十分だ!
「さて、皆さん、しみったれた話はこれくらいにして、お皿は持ってこられましたか?」
「おう!」「え?」
「もしかして、お皿をお持ちでない方は午後からの大慰霊祭で不幸な目に遭いますから、今のうちにお皿を準備しておいてくださいね。」
「そうだぞ。昼からはニノマエさんの故郷で作ってた料理の食い倒れ会だからな。」
食事会がいつの間に大阪風になってた。
「ミレアさん、ありがとう。すぐに皿を持ってくるよ。」
ヤハネの光のメンバーはすぐさま宿屋に戻っていった。
「ところで、今日はどんな食い倒れがあるんだ?」
ミレアさん、完全に趣旨をはき違えている…。
「今日は、スタンピードでお亡くなりになられた方を領主主催で慰霊するのが目的ですよ。
ただ、街の商業部分がやられてしまったので、パンを作る工房などがなくなり、パンが作れない、食べれないといった事情があるようです。ですので、領主様がパンに代わる食材が無いかと質問されたので、ある料理をご提案した次第です。」
「ほう、その料理は旨いのか?」
「料理自体が美味しいというのは好みですが、今回の目玉は、何と調味料なんですよ。」
「な、調味料だと!」
「はい。アイテムボックス持ちのミレアさんたちなら、泣いて喜ぶと思います。
味はいろんな店が作っていますので、今後は一番気に入った調味料を購入することができると思います。」
「そうか…、そりゃ冒険が楽になるな。」
「はい。今宿屋に戻ったヤハネの光のみなさんは、まだアイテムボックスが持っていませんが、調味料が有ると無いとは、野営の料理の幅も広がりますからね。」
「そうだな。いつも味気の無い肉を焼くだけの野営からもおさらばできるって訳か。」
「そうですね。」
お互いがお互いの事を分かりあう事は難しいことだというヒトもいるし、簡単だというヒトもいる。
だから、皆いろいろな事を考えながら生きている。
気ごころ触れ合う仲間と楽しく暮らす。これもまた楽しい。
何かとても心地が良い。そんな気分だ。
しかし、突然事件がやってくる。
入り口付近で何やら騒ぎがあったようだ。
俺たち全員、入り口に向かう。
そこで見たモノは…。
大きな皿を持って受付から離れようとしないヒトが居た。
そのヒトの後ろには、ヘラを持った女性が立っている。
「あんたは今日は留守番だって言っただろ!」
「やじゃ!儂はこの2日徹夜して仕事を片付けたんじゃ!文句はないじゃろ。」
「ふらふらになって食ってちゃ、喉に詰まっておっ死んじまうよ。」
「それでもいいんじゃ!儂に食わせてくれ~。」
そこに居たのは、目の下に隈を付け、大皿をもって駄々っ子のように泣き叫ぶマルゴーさんが居た…。
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