地方公務員のおっさん、異世界へ出張する?

白眉

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第三章

3-24 閑話休題(ベーカーの災難)

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 時は少し遡る…

「まずいぞ、まずいぞ…。」

 冒険者ギルド長のベーカーは頭を抱えていた。

 スタンピードが発生してしまった。
冒険者ギルドは、それを無いものとして領主に報告もしなかった。
伯爵からは、冒険者ギルドは今回の件において事実上の更迭を食らった。
さらに、ニノマエとか言う輩にも引導を渡された。

 冒険者ギルドを動かすという事はできなくなった。
周りを見ると、ギルド職員も青白い顔をして俺を見ている。

「ギルド長、我々も今回の件での責任を取らせられるんでしょうか…。」
「何を見てるんだ!お前らはさっさと自宅で待機しろ。」

 多くのギルド職員が不安な顔をしている。
そんな事知ったことか、お前らはお前らでなんとかしろ、そう言いたい。

「とにかく、自宅で待機しておけ。」

 そう言い放ちながら、ギルドに戻ることとした。
道すがら、頭の中を整理した。

 スタンピードが収束してもしなくても街が死守されれば、スタンピードを察知できなかった冒険者ギルドが矢面に立たされる。
 スタンピードについて報告もしなかったことが、伯爵様の耳に既に入っている。
他のギルドは伯爵様によって掌握され、孤立無援。
スタンピード後には、何らかの処罰が下される。

 どうしたら良いか…。

我々は知らなかったことを一貫できるか…、否、俺を煙たがっている職員もいるため、これから全員を説得し組織で隠蔽していくことは難しい。それに冒険者も居る。
 潔く認め、罰を受けるか。
そうすると、これまでの俺の経験と立場はどうなる?家族はどうなる?
良くて禁固、悪くて鉱山行きか…。
いずれにせよ、これまでに蓄えてきた金は没収される…。

 こうなれば、この街を出ていくしかない。
ほとぼりが冷めるまで隠遁し、収まった頃に帰ってくればいい。
大丈夫だ、少なくとも1,2年は暮らしていくだけの金はある。

 隣にアシェリーがいる。
「おい、アシェリー。すぐに身の回りのモノを持ってギルドに来い。」
「逃げるという事ですか?」
「そうだ。とにかく金目のモノを多く持ってこい。この街を出て隠れる。」
「そんな、私はイヤです。」
「うるさい! 残れば殺されるぞ。」
「え…。何で殺されるんですか?」
「お前は俺の女だ、それは皆知っている。お前だけ残っても良いが、俺は逃げるからな。」
「殺される? 私が何をしたというんですか。」
「お前は俺の女だと言っただろ。他から見れば権力を盾に、お前がギルドでやりたい放題やって来たことが問われるんだぞ。」
 
 アシェリーは青ざめる。
何をしてきたのかは俺も知らない。だが、ギルドの受付を仕切っていたという事は何らかの圧力などをかけていたんだろう。

「わ、分かったわよ。」
「半時でギルドに戻らなければ置いていくからな。」

 俺はギルドを通り越し、自宅に到着する。

「あなた、お帰りなさい。街の中が騒がしいけど、何かあったんですか?」
「ええい、うるさい。とにかく金目のモノだけもって逃げるぞ。」
「え?」
「つべこべ言うな。言う通りにしろ。それと子供たちもたたき起こせ!」
「は、はい。」

 俺は妻にそう言うと書斎に入り、これまで冒険者たちからピンハネしていた小金とため込んだ金が入った革袋を全部持ち出す。
 あとは金目のモノは…と見渡すも、武器以外はどうでもいいような代物だ。よくもまぁ、こんなにガラクタを集めたもんだ。
 数着の着替えをバッグに入れ、玄関まで来るが、誰一人として来ない。

「ちっ、あいつら何やってるんだ。ブヨブヨと太ってるから動けねえんだよ。」

 俺は舌打ちし、妻の部屋に入る。
妻は衣類を選別しているところだった…。

「お前、何やってんだ。」
「え、はい。持っていく服を選んでいましたが。」
「お前はバカか!旅行に行くんじゃねえんだ。この街から逃げるんだ。
こんなモノこれだけありゃ十分だ。」

 俺は、2,3着の服を掴みバッグに入れた。
「後は金に変えれるものだけ持ってこい。分かったか!」

 それだけ言い捨てると子供部屋に行く。

「おい、お前ら逃げるぞ。」

 子どもたちは寝起きなのかベッドから身体を起こした形でキョトンとしている。

「こいつら、何の緊張感もねえな。もういい。そのまま行くぞ。」

 俺は2人の子供を両脇に抱え、玄関に行く。
程なくし、妻がバッグ3つ持って下りてきた。

 「旅行じゃないと言っただろ!」

 俺は一喝するも、使用人らを使い、荷物をギルドまで運ばせることとした。
妻と子供たち、使用人らは、まったく人がいない閑散した通りを走る。
俺の子飼いの冒険者たちはどこに居るのか?街の外まで護衛させたい…。

 ギルドに到着し、裏にあるギルド所有の馬車に荷物を積み込む。
ギルド所有という事もあり、一応ではあるが雨露をしのげる6人乗りである。

「お待たせしました。」

 しばらくして、アシェリーが走って来る。

「遅い!早く乗れ!」

 使用人と俺は御者席に座り、妻、子ども、アシェリーと使用人を馬車の中に押し込む。

「旦那…、お待たせしやした。」
「おう、来たか。」

 子飼いの冒険者の斥候である。名前は何と言ったか…。

「これから北西門に向かいやす。そこで、うちの者がフレイムボムで門を壊しますので、旦那は門から出たら左手に馬車を進ませてください。」
「おう、分かった。お前らはどうする?」
「わっちらは、街の中にいる魔術師を馬車に入れた後、門の外にいる奴らと合流し、壁を突破します。旦那は壁を通る時に『魔物が街に入った』と大声で叫んでくだせえ。」
「あい分かった。では行くぞ。」

 馬車が北西門に近づく。
刹那、門が爆破され火災が発生する。
俺たちは、魔法を撃ったであろう、座り込んでいる女魔術師を馬車に引っ張り上げ門に向かった。

門には大きな穴が開いている。これだけ大きな穴を開けることができる女魔術師は相当強いんだろうな、と思いながら、消化活動を始めている守備隊の横を通り抜ける。

「おい、お前ら、待て!」

 守備隊が俺たちを止めようとするも、案内役の斥候が守備兵の頸動脈を掻っ切る。
しかし、守備兵もやられるだけではない。頸動脈を切られる直前に斥候の腹に抱き着き逃げないようにしている。斥候は他の守備兵の槍の餌食となっていた。

 門を出た俺は馬車を左に進め、外壁に沿って南に進む。

「門が破られたぞ!」
「魔物が街に侵入した!」
「もう、おしまいだぁー」

近くにいた冒険者がこちらを振り返り、同じ言葉を大声で叫んでいる。
そして、馬車の荷台に摑まり馬車に乗る。

 俺たちは、何度も大声をあげながら、馬車を南に走らせた。

 追手は来ない。
 それはそうだろう。結構な数の魔物が街を襲っているし、程なくすれば燃えた門から魔物が街に入っていくことだろう。
け、いい気味だ。
俺たちだけ助かればいいんだよ。これが正義なんだよ。

 俺は、自然と笑っていた。
俺を貶めようとしていた奴らを内部から壊してやった。何が伯爵だ、何がギルドだ、ざまぁみろ!

 しばらく馬車を走らせると右手に森が見えてきた。
ここを右に行き、森を抜ければ、隣の国に行く近道のはずだ。
隣国で数年大人しくし、ほとぼりが冷めた頃、戻ってこよう。

 森を抜けるためには、馬を休ませる必要があるな。
幸い森の手前には、村らしき集落がある。あそこで休ませよう。

 「おい、村で休憩するぞ。」

俺たちの馬車は木杭で囲まれた村の入り口に着き、馬車を村に入れようとする。

「ベーカーさん、ちょっと待っててください。」

 後ろに乗っている冒険者が馬車を止めようとする。

「何かおかしな雰囲気です。ヒトの姿が見えません。」
「まぁ、こんな馬車が通ることなんて少ないから、家の中に入ってるんじゃないか?」
「いや、やけに静かすぎます。」

 俺は、これまで頭をフル回転させてきた疲れと、窮地を脱した安堵感からか大きな気になっていた。

「構わん。中に入るぞ。」

村の入り口まであと50m…。これで生き延びられる。
そんな思いがする。これまでの苦労が無になったが、まだ金がある。金があれば生き延びることができる。世の中、金だよ。ふふふ、ざまぁみろ!

 俺は、ほくそ笑みながら村の入り口を見やる。
ん?木杭に何か付いている。あれは何だ?
目を凝らして見る…。

 木杭に引っ付いているモノ…、

それは四肢を切られたヒトであった。
ヒトが木杭に刺さった状態だ。それも何体も何体も…。
刺さったモノは村人か?

 何も考えられなくなった…。

突如、後ろの席の冒険者が立ち上がり叫んだ。

「オークだ! 囲まれた。」

 そこから先は無我夢中だった。
荷馬車に居た冒険者2人が防戦するも太刀打ちできない。
一人はこん棒に吹っ飛ばされ、倒れたところ頭部を破壊された。
もう一人は距離を取りながら逃げようとした瞬間、木杭で身体を滅多刺しされた。

俺の隣に座っていた使用人は何もできないまま御者席から引きずり降ろされ、阿鼻叫喚の中、四肢を切断されている。
俺は、馬車を守るため、御者席を下り防戦するが、馬車の反対側をオークが壊し、中にいる家族らを引きずり出している。
それを追いかけようとするが、突然腹に鈍痛が走る。
腹を見ると木杭が刺さっていた。


これでおしまいか…、皆すまん…。

倒れる俺が最後に見た光景は、馬車の下から見える光景であった。

馬車の向こう側で行われているもの…
子どもたちの首が転がり潰される…。

妻とアシェリー、魔術師、そして使用人らが髪の毛や足を掴まれ宙づりになった姿をねめるように見ているオークたちの姿が見えた。

これから起きるであろう惨事を憂うも、もうどうでも良くなっていた。
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