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第二章

2-19 情報交換を兼ねたお祝いです

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 本日の用務はすべて終了いたしました。

 いやー、長い一日でした。
 朝にカルムさんの店でディートリヒを引取って服を買い、昼飯食って武具屋で武具を購入。付与についても勉強できた。そして、当初の目的であったソロパーティーを解消し、ディートリヒとパーティーを組むことができた。

 有意義な一日だったよ。

 宿屋にディートリヒの荷物を置きに戻る。
 琥珀亭の女将からは、
「あんたも男だったんだね~」と揶揄われる。

 看板娘のマリエルにいたっては、俺を残念な男のように見下したような目つきが怖い…。
それでも良い。薬草採取時に大けがして死ぬよりはマシだ。“名を捨てて実を取る”だ。

 ラウロはゲスな笑いをしているが、そんなことはお構いなく、一人分の追加料金20日分を支払う。
荷物を置き、夕食を取るため一階に降りていく。
そこには、お約束のように“風の砦”のメンバーが来ていた。

「お!とうとう奴隷を買ったのか?」
「幸か不幸か、カルムさんのお店で買う事になりました。彼女はディートリヒと言います。」
「ディートリヒと申しましゅ。よろしくお願いいたしましゅ。」

 俺は、コックスさん以外のメンバーと改めて挨拶を交わした後、ディートリヒを紹介する。
彼女は奴隷であっても奴隷として扱わない事、飯は一緒の卓について食事をすることをコックスさん達に伝えた。
「まぁ、イっさんがそう言うなら俺らは問題ない。」
「だな。」
「それが普通…。」
「イチらしい答えですね。」

それぞれ、答えは違うが概ね了解を得られた。

 食事が来る前に、“風の砦”のメンバーにマルゴーさんの店に行き武具を買ったことを報告した。

「あそこの武具って、そろそろ俺らは卒業するんだよなぁ…。」

 コックスさんは遠い目をしながら、そんな事を言う。
やはり、Bクラス以上になると、ミスリルやらアダマン何とかという鉱石を使った武具に換えた方が、依頼の達成が早いそうだ。

「そう言えば、コックスさんたちの武具には付与が付いているんですか?」

俺はド直球に質問する。

「ないない。そんなのマルゴーの店に付与された武器なんかが置いてあるわけないじゃないか。」
「ん?そんな事はありませんよ。現に自分たちは付与された武器も買いましたし。そうだ、皆さんマルゴーさんの店から購入した武器を見せていただいても良いですか?」

「おい!イっさん、あんたもしかして鑑定持ちなのか?」

スカウトのギャロさんが驚く。
 
「鑑定なのかどうかは分かりませんが、付与が付いている、いないくらいは分かりますよ。」

 俺は言葉を濁しながら答える。

「んじゃ、俺の武器から頼む。」

 コックスさんは自分の得物である剣を見せる。

 両手剣なんだ、と思いながら鑑定を行う。
  ツヴァイ・ヘンダ―:良質、軽量化

「コックスさん、このツヴァイ・ヘンダー、軽量化が付与されていますよ。」
「あ、そうなのか。だからか、結構振り回しやすいんだ。って、イッさん、俺、あんたにこの武器の名前言ってないよな?」
「はい。自分は武器の名称も含めて鑑定できるみたいです。」
「おいおい、こりゃ本物だぞ…。俺たちはどえらい人と仲良くなったもんだ。」

 完全に信頼を勝ち取ったぞ。俺は心でガッツポーズをした。やっぱ、信頼が一番だからね。

「次は俺な。」

 タンク役のケニスさんは、盾と斧か。
  ザクナル : 良質、硬化
  ソード・シールド : 普、 耐ノックバック

「ケニスさんの斧のようなザクナルは硬化が付いています。それにソード・シールドには耐ノックバックですね。」
「ほう。それは良い。」

竜人族のケニスさん、眼が笑ってませんよ。あわよくばシールドバッシュをする勢いです…。

「なぁなぁ、俺のは?俺のは?」

スカウトのギャロさんは、ギザギザのナイフだ。
 ソードブレーカー : 良質、硬化

「硬化ですね。」
「うっしゃー。」

「儂のものはどうじゃ?」

回復師のファラさん、顔に似合わずえげつない武器です。
 モーニングスター : 良質、衝撃増加

「衝撃増加って…」
「あぁ、だからか…、この前ゴブリン叩いたら、頭が砕け散ったよ。ひゃひゃひゃ。」
 
回復役がスプラッタか…。このメンバー、怖いわ…。

残りのメンバーのティーファさんとフロールさんはエルフ族で弓と杖を使っているが、ご自身の村から持ってきたものらしいので鑑定はしなかったけど、次回武具を交換する時には相談に乗ることにした。そしたらすごく喜んでたよ。

「なあ、イッさん、あんたの鑑定は呪いとかも見ることができるのか?」
「いや、どうかな。まだそんなモノ見たことがないし。第一、鑑定したら呪いが移っちゃったら目も当てられんよ。」
「ははは。違いねえ。」

笑いながら話していると、ようやく夕食が運ばれてきた。
皆思い思いの料理に舌鼓を打ち、今後も良い品物がないかマルゴーさんの店にちょくちょく行ってくれるらしい。
俺は少し安堵し、マルゴーさんの店にも顔を出し、鑑定しながら良いものがあれば教えることを約束した。その後、彼らはしこたま酒を飲み、大騒ぎした。

帰りしな、コックスさんから
「むふふふ、イッさんよ。今晩から大変だな。よし!今日のイッさんの門出を祝し、今日はイッさんのおごりだな!」

下卑た笑いを浮かべながら帰っていった。

まぁ、今日は嬉しい事ばかりが続いたから奢ると決めていたけど、下卑な笑いだけは勘弁してほしい…。
俺、52歳…。酸いも甘いも超えたおっさんだ。





ごめんなさい。前言撤回します。
そうでした。寝る時の問題がありました…。
これが問題だったんですね…。

部屋は一つ、ベッドも一つ…。
おっさん、こう見えてもウブです。うら若き女性と一緒に寝ることなど、到底できません。
なので、ソファで寝ようとしますが、ディートリヒに窘められましたよ。

「ご主人しゃま、本来奴隷は床の上で寝るものでしゅ。私が床で寝ましゅので、ご主人しゃまはベッドで寝てください。」
「いえいえ。そんな事はできませんので、ディートリヒさんがベッドで」
「いえ、ご主人しゃまが…」
「いえ、ディートリヒが…」

堂々巡りです…、押し問答です…。挙句「主人の命令でベッドで寝てもらうよ」と言えば、眼に涙を浮かべウルウルとし始める始末。

まぁ、おっさんだから、人畜無害ということで、「一緒のベッドで寝る。でも、掛布団は別で。」という良いのか悪いのか分からない着地点を見出し、お互いごそごそとベッドに入り寝る事になった。
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