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第二章

2-6 冒険者はつらいよ

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おいしそうにエールを飲んだ後、コックスさんは話し始めた。

「冒険者ってのは、負けん気が強くてね。やれ、あいつがあの魔獣を倒したとか、あいつがあの魔物を討伐したぞといった話を聞くと、俺も倒してやる!って思うもんだ。
だが、負けん気の強い奴らは、言い換えれば無理をしてしまう。
ダンジョンでは、この階層を攻略すれば依頼達成と言われていても、功名のために次の階、次の階へと無理をするんだ。そして、その無理がたたった結果が“死”だ。」

 冒険者は死と隣り合わせ。だから、無理をしない、無理はさせない。これが鉄則。
しかし、無理をして功名を得るパーティーも居る。それが良いか悪いかは分からないが、自分の身の丈に合った冒険者であれ!という事だと感じる。

「ここまでと決めたら深入りはしない…。」か。

 俺は独り事を言う。
ロマノさん、あなたに教えていただいた冒険者の心得は冒険者の中に生き続けていますよ!
俺は独り感動していた。

 それからのコックスさんは、ヒトが変わったように腹を割って話してくれた。
今俺が悩んでいること、薬草最中に魔物に襲われると薬草採取が中断され非効率であると話すと、コックスさんは大笑いした。

「ニノマエさん、そりゃ、魔物が来た方が実入りが良いぜ。だから、みんな魔物を倒すんだよ。実入りが少ない薬草なんてみんな採りたがらないんだよな。」
「しかし、薬の原料ですから街にも必要な素材になりますよ。」
「ははは、ニノマエさん、あんたってヒトは自分の事よりも全員のことを考えて動くヒトなんだな。」

 これまでの世界で何を前面に出し考えてきたのかを思い出した。
日本国憲法第15条第2項で“公務員はすべて国民全体の奉仕者であって一部の奉仕者ではない”とされていたもんな。そんな事を思い出すと、俺も生粋の公務員だったんだろうか…?と思ってしまう。

「まだ、自分のすべてが分からないだけかもしれませんよ。自分も商売を始めたら商売の方を優先しますしね。」
「ははは、違いねぇ。
 でな、さっきの話、非効率だって事なら、パーティーを組めばいいんだよ。
気の合う奴とパーティーを組んだり、利害関係、つまり依頼を出して護衛を付けるってのもできるぞ。そうそう、パーティーを組むのも依頼をだすのも結果的に金を出し続けることにはなるが、長い目で見れば戦闘奴隷を買って自分を守ってもらうってのもあるな。」
「奴隷ですか?」
「そうだ。初期投資はべらぼうに高いが、ニノマエさんのように同じ依頼を数十回、数百回も繰り返していれば、早い段階でペイできると思うぜ。それに奴隷は所有者を裏切ったり、傷つけたりしないからな。」

 これまでの世界においても奴隷制度が最近まで残っていた国もあったし、もしかすると残っているかもしれない。借金のかたに風俗業に売られたといったドラマのような話も無きにしも…。正直有るのか無いのか分からないが…。
 奴隷は所有者を裏切らない、傷つけないというのが良い。騙し騙されるといった廃れた世界よりも、俺はスローライフを望んでいる。

 奴隷については、トーレスさんがいろいろと教えてくれた。
興味があれば、冒険者ギルドから西に行ったところに奴隷商館が数件あること。その中でもカルムという者がやっている店は合法奴隷であるから問題ない事、聞くだけでも話を聞いてくれるから尋ねると良いと教えてくれた、

「カルムさんの店は黒服が目印ですので、すぐにわかりますよ。」

 と何やらにやけた顔で教えてくれた。
まぁ、行くか行かないかは分からないので、曖昧な返答だけしておいた。

 三人でイヴァンさんの料理を楽しみ、食後のお茶を飲んでいた時、採取の時にふと感じたことをコックスさんに伝える。

「コックスさん、そう言えば最近、魔物に変化がありましたか?」
「ん?それはどういう事だ?」
「実は、昨日くらいからでしょうか、北西の山麓まで薬草を採りに行くと、必ず魔物に出くわします。まぁ、出くわすことはありますが、魔物を倒すとダンジョンの魔物のように素材だけがドロップされるんです。おかげで剥ぎ取りしないで済むので楽なんですけどね。」
「ちょと待った。北西の山麓って言ったか?その山麓の魔物は倒すと素材がドロップされると。」

 はい。俺が言った言葉そのままですよ。余程大事なことなのだろうか。

「珍しいことなんですか?」
「あぁ、普通ダンジョンで生まれた魔物はダンジョンでしか活動しない。それがダンジョン以外で活動しているとなれば、ダンジョンで何かあったか…。」
 
聞けば、ダンジョンはマナではなくダンジョンコアの力によって魔物や魔獣が生まれる。それを間引きしながらダンジョンを維持しているとの事。
そのダンジョンコアの力が強くなる、即ち魔力が濃くなると魔物や魔獣がダンジョン内に溢れかえり、ダンジョンから外に出て来るようだ。
そして、最悪な状況としてダンジョン内の魔物が一機に外に出る。スタンピードと呼ばれる大惨事になるという事だ。

「情報提供感謝する。早速明日にでもギルドに話しておく。調査されるだろう。」

流石Cランク。発言力もあるんだろう。
問題は、ギルド内部かもしれないが…、俺は一抹の不安があることをコックスさんに伝える。
具体的には、ギルド内でその情報が潰される可能性もあることを…。

「あぁ、あいつか…。まぁ、直接ギルド長にも伝えるから大丈夫だと思う。」

コックスさん、分かっていらっしゃいますね。

「自分では、その件は手に余りますので…。杞憂に終われば、それで問題は無いと思いますよ。」
「ニノマエさん、あんたは本当にブレないね。今度、うちのメンバーと飲もうぜ。」

彼は豪胆ではあるが、最新の注意を払いながら生き抜いてきたのだろう。彼がリーダーを務める“風の砦”はこれからも活躍していくんだろうな…などと思いながら食事が終わり解散する。

帰り際にトーレスさんから次回は自宅への訪問をお願いされたので、二つ返事で了承した。
部屋に戻り、窓を開け外を見ると、もうすぐ満月を迎える二つの月が赤く染まっていた。

パーティーの事、奴隷の事、魔物・魔獣の事…、今日もいろいろな情報が入った。
それを書き残しながら、明日は何をしようかと思案しながら、床についた。
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