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第二章

2-2 武器を買いませう

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 冒険者ギルドに到着する。

 お局様が居ない事を願い、そーと扉を開けると、幸いにもいらっしゃいませんでした。
こう見えて、俺は小心者なので、面倒くさい人物には極力遭わないようにしようとする。
安堵した俺は、カウンター横にある掲示板を見に行く。

 ここで、お約束というかテンプレというか、中級クラスの冒険者が難癖付けてくる場面ではあるが、今は11時頃だろうか、ギルドの中にはほとんどヒトがいない。

 依頼をざっと見る。
あ、文字は読めるぞ。でも何故書けないんだ?
やはり義務教育を受けて…、いや、やめておこう。読めればいいや。

 俺に出来そうな依頼は…、「ポーションの原料となる薬草採取」の一択だ。
内容は、プロメ草(体力回復)10束、モーリ草(精神力回復)10束、ウム草(毒消)5束を一括で納品すると銅貨30枚もらえるといった安いもの。ただし、薬草の状態が良ければ上乗せされるようだ。

 はて、薬草?群生地も知らない、まぁ街の外でうろついていれば何か見つかるだろうと安直な考えでカウンターに依頼の書いた紙を持っていく。

「おいおい、あんた。こんな実入りの少ない依頼受けても食事代にもならんぞ。」

 お!テンプレ発生か?と思い、声のした方に振り返る。
そこには、ガタイの良い中級クラスの冒険者…ではなく、齢は俺くらいの一人の酔っ払いがいた。

「昨日、冒険者になったばかりなので、先ずは簡単なものからやろうと思って。」
「殊勝な心掛けだな。あんただな。昨日入った新入りで棺桶担いで冒険者になったってやつは。」

 いや、棺桶担いでは冒険できません。
まぁ、言い得て妙なので、そのままにしておく。

「そうなんですよ。なにせ、この年になるまで辺鄙な村で生活してましたからね。」
「おぉ、そうなんか。まぁ、この街に来たんだから、少しはできるとは思うが、死なないように努力しろよ。」
「はい。踏ん張りますわ。」
「ははは。その意気だ。」
「そうそう、この薬草ってのは、どのあたりに生えてるんですかね?」
「なんや、おまはん。そんな事も知らずに依頼受けるんか? まぁ、薬草なんて、そこら中に生えとるから、大丈夫やとは思うが、北西の門を抜けた先に山があってその山の麓まで行けば採れるぞ。」

 結構いいおっさん、いや良い人だ。

「いろいろありがとうございます。それじゃ、ちょっくら行って薬草採ってきますわ。」

「おい、待て待て。いくら薬草採取って言っても、あんた丸腰で行くつもりなんか?あの辺りは少ないけど魔物や魔獣は出るぞ。何かしらの装備はしておいた方が良いが、あんたはどうやって魔物や魔獣を倒すんだ?」

 あ…俺、丸腰だったわ。
護身用に何かを持っていれば良いって事か。あ、それとはぎ取り用にナイフも必要だな。でも、俺解体するとまた吐くかも…。

「魔法ですかね。」
「魔法か…、なら、武器屋より錬金術屋の方が、あんたに合ったものが売ってると思うぞ。錬金術屋は、ここから東に行ったところにあるから、行ってきな。」

 良い人です。いろんな情報をくれます。
名を聞けば、元冒険者のロマノさんと名乗ってくれた。齢は55歳、俺よりも年上。
冒険者のイロハを教えてくれたよ。この世界の人は、基本親切だな。そんな事を思う。

「ロマノさん、ありがとうございます。早速行ってきますね。」
「おう!せいぜい、気ばりぃや。」

 親切されると嬉しいよね。
俺も、どこかで親切のお礼をしようと決める。

冒険者ギルドを出て、錬金術師が店を構える通りに歩く。
鼻をくすぐるような独特の匂いが漂い始める。通りを見ると見渡す限り錬金術師の店ばかり…。どの店が良いのか全く分からず、自分のインスピレーションを信じ、ローブとフラスコのマークが入った小ぢんまりした店に入ることにする。

「ごめんください。」
「“ごめん”ってモノのは、ウチでは扱ってへんよ。」

…ん?

「お邪魔しますね。」
「邪魔するだけなら、帰ってんか~。」

…ほほぉ、これは完全に吉〇だ…。懐かしいなぁ…

 俺の中にある”なんちゃって関西人”のDNAが疼く(と言っても、生まれも育ちも岐阜県であるが…)。そんなノスタルジーな気分になりながら、声の聞こえた方を見る。

誰も居ない…。

「あのぉ~…。」
「なんや、用があるなら、早よー言いや。こちとら忙しいねん。」

 と、関西弁の口調で切り返してくる。
目を凝らすと、カウンターの奥にぴょこんと金色の髪の毛が見える。
あぁ、この子が対応していたんだ、と一人ほんわかとしながらも、なんとなく、これまでの世界のボケと突っ込み感覚が懐かしくなり、思わず

「なんでやねん。ほな、ここで売ってるローブとか杖とか見せてんか?」

 と、関西弁を真似したような口調で伝える。
掛け合いが余程気に入ったのか、店員はカウンターから顔を上げ、ニコっとしながら

「お、あんた、ノリ良いねぇ。ええよん。ローブとかだったら、反対側にあるさかい。」

と答えてくれる。
おそらく彼女は人族ではなく、耳の形から見るとエルフの女の子であろう。

「おおきに。ほな、みせてもらうで。」

と答え、壁に積んであるローブを見てみる。

 どれも黒やグレーでフードが付いた代り映えのしない雨合羽のようなものデザインだ。
しかし、積まれたローブの一番奥に、一つだけ何かデザインが違ったものが入り込んでいる。それをローブの山から引っ張り出し、良く見てみると、それは濃いグレーのトレンチコートのようなものであった。
 
「すみません。このトレンチコートのようなものは何ですか?」
「ん?あぁ、そいつか?そいつは昔聞いた話をもとに試しに作ったんやけど、奇異な形しとるさかい、誰も見向きもせえへん。買うてくれるなら、勉強しとくよ。」

 奇異なもの?いえいえ、どう考えても元の世界のトレンチコートでしょ?
こんなものがここにあるという事自体奇妙な話だ。俺は思い切って店員に話を聞くことにした。

「もしかすると、これは“渡り人”と関係がある、とか?」

 渡り人という言葉を耳にした女の子は、眼を大きく見開き、息を飲んだような声で

「ちょっと待っとき。」

と言い放つと、店の奥に消えていった。

 程なくし、女の子は店の奥から一人の女性を連れてきた。

「あんたかね?このフードを見て“渡り人”と言ったのは。」
「ああ。あまり大きな声では言えないが、自分も渡り人であり、このフードと言うのか、これがトレンチコートであることも知っている。」
「そうか…。もう何百年も前になろうか。私が若かったころ、男性の“渡り人”と知り合った。その“渡り人”がローブを欲したんだが、彼の要望に応えるべく作った形がそれじゃ。残念ながら、その渡り人とはそれきり会っておらんが、その時以来ずっと置いてある。」

 ちょっと待てー。何百年も前にトレンチコートを注文した“渡り人”が居たって?
確かトレンチコートは、元の世界で言う第一次世界大戦でイギリスが開発したものだったよな。元の世界では100年くらいしか経っていないのに、こちらでは数百年経っているって…。
元の世界と今の世界の時間軸が良く分からんが、神様が管理しているくらいだから、まぁ、ご都合主義なのかもしれんな…。

「そうか。それは残念な事だったな。でも、数百年も経っているのに、このコートは新品のように見えるけど。」
「そりゃ、経年劣化を防ぐ付与魔法がかけられておるからの。それに、衝撃吸収もついているから、 そんじょそこらの攻撃を受けても何ともないぞ。それに耐寒・耐熱と・・・・。」
「分かった、分かった。そんなすごい機能がついたコートが何故残っているんだ?」
「先にも言ったであろう。型が奇抜だからじゃよ。誰も好き好んで、こんな奇抜なフードを買っていくやつなんぞおらんぞ。それに、このフードを置いておけば、そのうち、ひょっこりと“渡り人”が現れるやもしれんと思っての。そのまま置いておくことにしたんじゃ。」

確かに、この世界でのフードの概念からは、このトレンチコート型は当てはまらないと思う。

「なぁ、物は相談なんだが、このトレンチコートを自分に売ってくれないか?ただ、持ち合わせが少ないから、高ければもう少し稼いでから買いたいんだが。」
「お主も“渡り人”と申しておったからの。分かったのじゃ。それを頼んだ奴は、とっくにあの世に行っていると思うから、お前に売ってやろう。そうじゃの・・・金貨2枚でどうじゃ。」
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