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第一章
1-15 正直者は信頼を得る?
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「時計なるものが4つの付与付き、パワーストーンが3つの付与付きですか…。うーむ。」
あの…、時計は付与というか、機能なんですよ…。それに念珠は“弱”ってありましたから、効果なんて期待できませんよ…。
そんな俺の思いをよそに、トーレスさんは考え込んでいる。
何やら怖い気がするよ…。
「分かりました。このような素晴らしいものですので、当社の威信をかけ金貨10枚で買い取らせていただくことでいかがでしょうか?」
え、トーレスさん…、今なんて?
時計と念珠で金貨10枚? 金貨10枚って言ったら1千万円ですよ。頭のネジが吹っ飛びましたか?
「いえ、流石にその値段では…」
「そうですよね。では金貨12枚で。」
さらに上げてきやがった…。
「あのトーレスさん…。」
「何でしょうか?それ以上でしょうか?それ以上という事であれば、今しばらく待っていただければ、金貨16枚で買い取りさせてください。」
「いえ、そういう意味ではなく、高すぎますよ。」
「そんな事はありません。ニノマエ様がお持ちの逸品は、それは、それは素晴らしいものです。これを当社が持ち貴族などに見せれば…むふふふ。」
完全にトリップしている…。
時計はこれまでの世界で3万円の廉価版だよ。念珠だって材料費だけで1万円かかっていませんよ。
「あの…、よろしいでしょうか。」
「はい。何とか金貨16枚でお願いします。」
「そうではなく、この時計とパワーストーンはそんな高級なものではないんです。」
「しかし、鑑定では付与が付いています。」
「それは付与というのか機能というのか分かりませんが…、とにかくそんなに高いものではないんですよ。大銀貨か銀貨数枚程度のものです。」
「それは、ニノマエ様が住んでいらっしゃった村での価格です。その村からこの街までの経費などを加味すれば、それだけの価値となります。」
ありゃ、完全に商売モードですね…。でも流石に金貨16枚はボッタくりですよ。
半分でも高いと思うし、社の威信をかけるってことは、金貨1枚って言っても引き下がってくれないんだろう…。
では、どうする…? 売るまでここに拉致されるかも…、最悪は用心棒さんがお見えになって簀巻きにされ、川にドボン、ブクブク…チーン。いや、それだけは避けたい。
では、どうするか…。向こうの気が済む形で収めるのが一番だな…。
「トーレスさん、分かりました。売る事にします。」
「おぉ、ありがとうございます。」
「ただし、条件があります。」
俺は条件を出すことにした。
「先ず、この時計はこの世に一つしかありません。また、この時計が壊れた時、もう修理できる人がいません。よって、その部分を加味させていただきます。それでよろしいでしょうか?」
「はい。構いません。」
「次にパワーストーンですが、この石一つ一つに付与がされているという訳ではなく、全体に付与がされています。石と石を繋いでいる糸が切れれば効果が無くなってしまいます。切れてしまえば付与がなくなるというリスクがありますので、それを加味させていただきます。それでよろしいでしょうか?」
「”りすく”というのが何かは分かりませんが、意味は分かりました。切れたら効果が無いということですね。」
あ、リスクって使ったか…。
「リスクというのは危険という意味です。そこで、トーレスさんがご提示していただいた金額から、そのリスクを差し引き価格を決めたいと思います。
時計は修理できないという点で金貨1枚と大銀貨50枚、パワーストーンは糸が切れてしまえば終わりなので、大銀貨50枚。合計で金貨2枚という事でいかがでしょうか。」
トーレスさん、考えているよ。安すぎたか?それでもべらぼうに高いと思うんだが…。
それに、トーレスさん、いつの間にか俺のこと“様”付けになっているんだが…。
「ニノマエ様、よろしいでしょうか?」
「はい。どうぞ。」
トーレスさんは深呼吸して、こう切り出した。
「確かにニノマエ様のご提案は、当社にとって嬉しいものです。ですが、先ほども申し上げましたとおり、当社も威信をかけ、価値を見出し金額を提示させていただいた次第です。この金額は長年商いをしておりました私の経験がそう言っているのです。ご提示させていただいた金額よりも低い価格で買い取らせていただくことになれば、信用を第一としております当社の沽券に関わります。」
まぁ、そう言うだろうな…。引きはしないが少し揺らいでいる。
これを懐柔するためにはどうすれば良いか…、俺は奥の手を切ることとした。
「トーレスさんのお気持ち分かりました。しかし、トーレスさんと自分の間にはまだ信頼関係が構築されていません。今後とも良い取引をするためには、先ずはお互い信頼できる相手であると思っていただく必要があります。
そういった意味で、今回の取引は信頼構築の金額を上乗せして金貨4枚でお願いします。それでも安いと言われるでしょうから、今後、もし、こういったモノが手に入ればトーレスさんのお店に卸すという事でいかがでしょうか?」
トーレスさん、キョトンとしているが、ハッとする。
「ニノマエ様、私はこの素晴らしい一品を目にしてどうかしておりました。確かに商人は信用が第一ですな。この事を商人ではないニノマエ様に教えていただくとは…。
私の眼に狂いはなかった。
ニノマエ様、改めてお礼申し上げます。」
トーレスさんが深く頭を下げる。
「トーレスさん、頭をお上げください。自分は商人ではありませんが、50を過ぎたおっさんです。世の人より少しだけいろいろな経験をしているだけですよ。」
と笑いながら、何とか着地点に到着したか…と安堵する。
3万円に満たないものを1千万で販売したらアウトでしょ。まぁ400万でもアウトなんだが…。
これから永く付き合っていく人になりそうだから、最初が肝心だよ。
「では、金貨4枚という事で本当によろしいですか?」
「はい。それで構いません。これからのお付き合いもあることですし。」
「金貨4枚です。」
「腕時計とパワーストーンです。」
「商談成立ですな。」
「そうですね。」
お互いがっしりと握手した。
あの…、時計は付与というか、機能なんですよ…。それに念珠は“弱”ってありましたから、効果なんて期待できませんよ…。
そんな俺の思いをよそに、トーレスさんは考え込んでいる。
何やら怖い気がするよ…。
「分かりました。このような素晴らしいものですので、当社の威信をかけ金貨10枚で買い取らせていただくことでいかがでしょうか?」
え、トーレスさん…、今なんて?
時計と念珠で金貨10枚? 金貨10枚って言ったら1千万円ですよ。頭のネジが吹っ飛びましたか?
「いえ、流石にその値段では…」
「そうですよね。では金貨12枚で。」
さらに上げてきやがった…。
「あのトーレスさん…。」
「何でしょうか?それ以上でしょうか?それ以上という事であれば、今しばらく待っていただければ、金貨16枚で買い取りさせてください。」
「いえ、そういう意味ではなく、高すぎますよ。」
「そんな事はありません。ニノマエ様がお持ちの逸品は、それは、それは素晴らしいものです。これを当社が持ち貴族などに見せれば…むふふふ。」
完全にトリップしている…。
時計はこれまでの世界で3万円の廉価版だよ。念珠だって材料費だけで1万円かかっていませんよ。
「あの…、よろしいでしょうか。」
「はい。何とか金貨16枚でお願いします。」
「そうではなく、この時計とパワーストーンはそんな高級なものではないんです。」
「しかし、鑑定では付与が付いています。」
「それは付与というのか機能というのか分かりませんが…、とにかくそんなに高いものではないんですよ。大銀貨か銀貨数枚程度のものです。」
「それは、ニノマエ様が住んでいらっしゃった村での価格です。その村からこの街までの経費などを加味すれば、それだけの価値となります。」
ありゃ、完全に商売モードですね…。でも流石に金貨16枚はボッタくりですよ。
半分でも高いと思うし、社の威信をかけるってことは、金貨1枚って言っても引き下がってくれないんだろう…。
では、どうする…? 売るまでここに拉致されるかも…、最悪は用心棒さんがお見えになって簀巻きにされ、川にドボン、ブクブク…チーン。いや、それだけは避けたい。
では、どうするか…。向こうの気が済む形で収めるのが一番だな…。
「トーレスさん、分かりました。売る事にします。」
「おぉ、ありがとうございます。」
「ただし、条件があります。」
俺は条件を出すことにした。
「先ず、この時計はこの世に一つしかありません。また、この時計が壊れた時、もう修理できる人がいません。よって、その部分を加味させていただきます。それでよろしいでしょうか?」
「はい。構いません。」
「次にパワーストーンですが、この石一つ一つに付与がされているという訳ではなく、全体に付与がされています。石と石を繋いでいる糸が切れれば効果が無くなってしまいます。切れてしまえば付与がなくなるというリスクがありますので、それを加味させていただきます。それでよろしいでしょうか?」
「”りすく”というのが何かは分かりませんが、意味は分かりました。切れたら効果が無いということですね。」
あ、リスクって使ったか…。
「リスクというのは危険という意味です。そこで、トーレスさんがご提示していただいた金額から、そのリスクを差し引き価格を決めたいと思います。
時計は修理できないという点で金貨1枚と大銀貨50枚、パワーストーンは糸が切れてしまえば終わりなので、大銀貨50枚。合計で金貨2枚という事でいかがでしょうか。」
トーレスさん、考えているよ。安すぎたか?それでもべらぼうに高いと思うんだが…。
それに、トーレスさん、いつの間にか俺のこと“様”付けになっているんだが…。
「ニノマエ様、よろしいでしょうか?」
「はい。どうぞ。」
トーレスさんは深呼吸して、こう切り出した。
「確かにニノマエ様のご提案は、当社にとって嬉しいものです。ですが、先ほども申し上げましたとおり、当社も威信をかけ、価値を見出し金額を提示させていただいた次第です。この金額は長年商いをしておりました私の経験がそう言っているのです。ご提示させていただいた金額よりも低い価格で買い取らせていただくことになれば、信用を第一としております当社の沽券に関わります。」
まぁ、そう言うだろうな…。引きはしないが少し揺らいでいる。
これを懐柔するためにはどうすれば良いか…、俺は奥の手を切ることとした。
「トーレスさんのお気持ち分かりました。しかし、トーレスさんと自分の間にはまだ信頼関係が構築されていません。今後とも良い取引をするためには、先ずはお互い信頼できる相手であると思っていただく必要があります。
そういった意味で、今回の取引は信頼構築の金額を上乗せして金貨4枚でお願いします。それでも安いと言われるでしょうから、今後、もし、こういったモノが手に入ればトーレスさんのお店に卸すという事でいかがでしょうか?」
トーレスさん、キョトンとしているが、ハッとする。
「ニノマエ様、私はこの素晴らしい一品を目にしてどうかしておりました。確かに商人は信用が第一ですな。この事を商人ではないニノマエ様に教えていただくとは…。
私の眼に狂いはなかった。
ニノマエ様、改めてお礼申し上げます。」
トーレスさんが深く頭を下げる。
「トーレスさん、頭をお上げください。自分は商人ではありませんが、50を過ぎたおっさんです。世の人より少しだけいろいろな経験をしているだけですよ。」
と笑いながら、何とか着地点に到着したか…と安堵する。
3万円に満たないものを1千万で販売したらアウトでしょ。まぁ400万でもアウトなんだが…。
これから永く付き合っていく人になりそうだから、最初が肝心だよ。
「では、金貨4枚という事で本当によろしいですか?」
「はい。それで構いません。これからのお付き合いもあることですし。」
「金貨4枚です。」
「腕時計とパワーストーンです。」
「商談成立ですな。」
「そうですね。」
お互いがっしりと握手した。
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