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第一章

1-6 Break the Ice

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「ところで…、一つお願いがあるのですが…。」

俺は頬をポリポリとかいてお願いすることにした。
「どうも、この森に入って道に迷ってしまいました。できれば、街まで同行させてほしいのですが。」

「あぁ、そんな事か。問題ないぜ。」
 バーンは二つ返事だった。

「ただ、俺たちが受けたゴブリン20匹の討伐があと2頭で終わるから、それまで待ってくれないか?」
「ん?ゴブリンならそこに4体いますよ。」
「それは、ニノマエさんが捕ったもんだろ。」
「いえ、別に良いですよ。依頼は20頭なんですよね。この4頭あれば依頼達成じゃないですか。」
「いや、そうはいかない。」
「では、魔物を討伐した証拠って何ですか?」
「そりゃ、ギルドで死体とか魔石を見せ、その数で達成という事が一番早いんだが。」
「じゃ、この魔石をバーンさんに渡したら、それで依頼達成ですね。」
「いやいや、そういう話じゃなく…」

 完全なる押し問答だ。
現在、俺は魔石の価値を分かっていない。それに魔石を売ったところで冒険者にもなっていない者が持っていたら怪しまれる。“ヤハネの光”のメンバーがそうであったように、俺の事をあれこれ言ってくる奴も増えてくるんだろう。それだけは避けなければ。

「では、こうしましょう。自分はこの魔石をみなさんの依頼がクリアになるために譲渡します。しかし、タダで譲渡するには、皆さんのメンツもあるでしょうから、自分を街まで連れて行ってくれることを条件に、この魔石をお渡しするということではいかがですか?」

 セールストークのようになってしまったが、おそらくこれがベストな解決方法だと思う。

「譲渡? メンツ?」 

 バーンは首を傾げる…。多分脳内が“?マーク”何だろう。
状況を察したエミネがバーンに説明する。

「バーン。あんたって、そういうところがダメなところなんだよ。いい?ニノマエさんは、私たちにこの魔石をくれる代わりに街まで連れて行ってほしい、って言ってるだけ。こっちも依頼が達成できるし、ニノマエさんも迷子から解放される。お互い良いことでしょ?って相談してくれてるの。」
「あぁ、そういう事か…。なら、譲渡とかメンツって訳のわかんない言葉使わなくても…。」

 バーンは独りブツブツ言っているが、了承してくれた。

「んじゃ、これから街に戻るか!」
「あんたって、本当にバカなんだから。こんな時間に出発しても街に着くのは真夜中だよ。それに夜の移動は危険。ここで野営して、明日の朝出発した方が安全に戻れる。ニノマエさん、それで良い?」

 うん。交渉事はエミネさんがした方が、話が早い。

「では、そうしましょう。野営はここでしますか?」
「広い場所が向こうにあるので、そこにしましょう。森の中よりは安全ですから。」

 ベアトリーチェは、処理が住んだ白い奴と緑の奴を燃やし消し炭にした後、少し歩く。

「じゃ、準備しましょう。」

 エミネが返答するのと同時に野営の準備が始まった。

焚火の準備をする。
焚火の傍に集まって、周囲に注意しながら朝が来るのを待つ。
寝ている間は順番に見回りをする。
はい。それだけです。

 飯はどうする?そんな事はどうも考えていない。というより一食二食抜いても気合で我慢するのか?
おっさんは、そんな事はできんよ。気合という言葉はとうの昔に捨てましたから。
寝てる時、外から襲われたらどうする?みんな起こしてそこから準備する。
いや、それじゃ遅いでしょ。

 んじゃ、野営しているエリアに誰も入ってこれないようにすればいいんじゃない?
子どもの頃、汚いもの触った奴に「バーリア」とか「油被った~」とか言ってたし、アニメ番組でも基地とか機体を守るのにバリアってのがあったことを思い出した。
もしかしたら、これも魔法でできるかも。後で試してみよう。
 
 後は、トイレ問題…。
おっさん、夜頻繁にトイレに行くんだよ。
水洗じゃないから立ち〇ョンになるだろうけど、大はどうするんだ? 解放感あふれる場所で野〇ソ?
いくらおっさんでも、それはつらいぞ。それに尻を拭くトイレットペーパーは…、あ、バッグの中にポケットティッシュがあるか…でも、これから先、尻拭くモノは?

 やる事は目白押しだが、4人はさも当たり前のように焚火にあたりながら話をしている。
この世界の人はおおらかで良い。
しかし、女性もそんなもんなのか?
男尊女卑は無いな。男女平等何とかだとか、女性が活躍なんちゃらを考え、実践しましょうとかは必要ないって事かもしれないな。
それにしても、女性もそこら辺で雉を撃つ、もといお花を平気で摘みに行くのか?

 考えていても仕方がない。
先ずは情報を入手しなければ…。

 では、Break the Iceしましょうか。

「えーと、皆さん、お腹はすいていませんか?」
「腹がすく? あぁ、腹が減ったかって事か? 腹は減っているけど食うモノは黒パンくらいしか持ってきてないぞ。」

 あ、そういう事か。
4人は自分用にパンを持参しているけど、俺は持っていない。俺が持っていないものを見せびらかせて食うのも気が引ける。だから食事の事は言えなかったって事か。
彼らに気を遣わせてしまったことを後悔する。

「自分が持っていないかもしれないって察していただいたんですね。申し訳ありませんでした。
確かに自分は何も持っていないかもしれませんが、幸い、ここに白い奴からはぎ取っていただいたお肉がありますよ。何ならこれを調理して食べませんか?」
俺は、バッグの中から先ほどはぎ取ってもらった肉の塊を出す。
うわ!まだ生温かい…。寄生虫とか大丈夫かな? 生肉でなければ大丈夫か?
いろいろな思考が加速していく中、バーンは申し訳なさそうに言う。

「いやぁ、ニノマエさんが肉を出してくれるって言うんなら、それはそれでいいけど…。でも本当に良いのか?その肉だって、ギルドに売れば銀貨20枚くらいにはなるぞ。そんな高価なものを出すなんて…。」
「いいんですよ。自分が住んでいた所の言葉で“袖すりあうのも他生の縁”ってのがあります。ここでこうやってお近づきになったんですし、どうやら自分はお金持ちのようですからね。ははは」
「ありがとな。実はニノマエさんが食べるものを持っているか分からなかったから、俺らどうしていいか分かんなかったんだよ。」
「こう見えても、おっさんですよ。いろんな事は大体察するのが年寄りです。」

 そういいながら、彼らにどんな食器を持っているのかを聞く。
各々皿とコップ、スプーンは持参しているが、調理する道具、つまりフライパンや鍋が無い。幸いにしてエミネさんがケトルを持っていた。

 仕方がないので、肉の塊に頑丈そうな枝を刺し、焚火の両端に枝を固定できる太い幹を置く。
そう、あのゲームに出てきた“肉焼き機”だ!
肉を回し、音楽が鳴り終わった後にボタンを押すと『上手に〇けましたぁ~』って言うやつ。それを実現させたよ。おっさん感動だわ。

 当然、肉だけ焼いても美味しくない。そこで、カバンの中に何時から入っていたのか忘れたが、コンビニでもらった塩と胡椒が一体となった小袋を数個取り出し、焼けた部分をそぎ落としてから少量ずつかけて食することにした。
 当然、肉を焼くから香ばしい匂いが充満する。
匂いにつられて動物などがやって来るだろう。それを見越して、焚火を中心に半径50mの円球をイメージし、“バリア”を張る。こうしておけば、変な奴は入って来れないだろう…。

 ただし、雉を撃つ際には掛けなおす必要はあるな…。
そんなことを考えながら、「上手に〇けました~」となるまで、ひたすら肉を回していくのであった。
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