地方公務員のおっさん、異世界へ出張する?

白眉

文字の大きさ
上 下
2 / 318
第一章

1-1 出張決定?

しおりを挟む
何となく、その扉を開ける
扉の向こうは薄暗い。

 すると、白い光が俺を包む。
あ、これガスだわ…。死んだな…。
休日出勤した職員が俺を見つけてくれればいいけど、誰も来なかったら、月曜の朝にしか発見されんじゃん…と思いながら、意識が遠くなっていった。

どれくらい経ったのかは分からない。
俺は意識を取り戻した。
が、未だに白い光の中に居た。

あたりを見渡すも白い靄がかかっているため、何も分からない。ここがどこか分からないから、どうしようもできない。まぁ、いつかこの白い靄みたいなものも切れるだろうと楽観的に思いながら、そう言えば、まだ寝足りないと思い、眼を閉じる。

「あの、すみません…。」

 ん?頭の中に誰かの声が聞こえる。あ、夢か。

「いえ、夢ではありません。ニノマエさん、少しお話しをさせてもらえないでしょうか。」

 俺は目を開ける。
まだ白い光の中だ。幻聴か?疲れか?そんな思いを巡らせていると、はっきりと頭の中に声が響く。

「ニノマエさんの脳に直接お話しをさせていただいております。
私はラウェン。地球外の世界で神をしています。」
 
 おぉ、子どもに付き合って読んだことのあるラノベに似たテンプラ…、もといテンプレだ。
でも本当か?一種の催眠術か?

「という事は、自分死んだんですか?そして、自分を地球以外の世界に、えーと“転移”でしたっけ? “転生”でしたっけ?そこに行くってことですか?」
 「話が早くて良いです。その通り、ニノマエ様の姿のままで“転移”させてもらいます。でも死んではいませんので、ご心配なく。」
「死んでないけど向こうに行く…? 
で、私は向こうで何をしろと、まさか、この年のまま行って、魔王とかを倒してください。なんて言うんじゃないでよね。」
「そうですね。魔王を倒すといったことはしなくても良さそうです。」
「52のおっさんでは、確実に無理ですし即死ですからね。で、何をするんですか?」
「それは行ってみないと分かりません。話せば長くなりますが、かいつまんでお話ししますと・・・」
 
 ラウェンという神様が言うには、向こうの世界に何か変化を起こし、文明や文化を1ランクアップさせてほしいとの事。
産業革命みたいなことをしろって事なのかと問うと、そうではなく、向こうの世界のレベルを上げるだけで良さそうだ。
 向こうの世界は、こちらの世界で言う中世と似たようなレベルだそうで、社会システムがまちまち。
まぁ、この世界でもさまざまな社会システムがあるから、何とも言えないが…。

さらに、向こうの世界では、ある意味テンプレである魔法やダンジョンがある。
所謂“ファンタジーな世界”に行くわけだ。

「この場でニノマエさんをすぐにでも転移させることもできますが、そういたしますと…、」
「ここでの業務が止まってしまうのと、家庭の問題でしょうか。」
「その通りです。ある意味記憶を操作し、ニノマエさんがこの世界で刻んだ歴史を改ざんすることも可能と言えば可能なのですが、そうすると、こちらの世界の神様ともう一度調整をしなくてはなりません。」
「という事は?」
「はい。出張という扱いで転移していただきます。なので繰り返し言いますが死んではいません。」

 出張扱いで転移させられるって、そんな展開あったのか?子どもに借りたラノベの中には無かったと記憶しているが。
それじゃ、出張経費は出るのか?と思ったけど、複雑になりそうだから聞くのをやめておく。

「ラウェン様、お伺いしたいことがありますが、よろしいでしょうか。」
「何なりと。」
「行く行かないは別として、文明や文化を1ランクアップするとなると長い時間かかると思います。それを出張で行うとなれば、向こうに滞在している期間が一日?といった短い期間では、種を撒いても実を刈り取るまでに、すごい時間がかかると思いますが。」
「そうですね。ですので、出張期間は向こうの世界で30日としたいのですが。」
「30日!? そんなにも家を空けておくことはできませんよ。」
「はい。分かっております。なので、こちらの世界で言う1日を向こうの世界が30日になるように設定します。」
「ん?そうすると、時間軸の設定がブレるんじゃないですか?」
「そこは、神のなせる技として、ご理解いただきたいのですが…。」

 あ、ある種のご都合主義ね。了解です。おっさん、そういうところ柔軟ですよ。

「では、出張中に文明や文化をアップしたら、後は自動的に進むという事ですか?」
「いいえ。そんなことはありません。文明も文化もメンテナンスが必要です。」
「それを神様が管理していただくと。」
「いいえ、私たちは管理している世界に干渉することはできません。よって、文明や文化が育ったと言えるまで出張していただくという事になります。それと、長さや重さなどの単位はこの世界と同じにしてあります。ただお金の単位は変えられないので、そこはご了承ください。」

 それってモロ干渉していると言えないだろうか…。

「何となく理解しました。ですが、この世界での自分の心配事といいますか、この世界での業務が追い付いていない状況で、これを放置してしまうと、他の人に迷惑がかかってしまうのです。」

「ご安心ください。ニノマエさんが出張している間、つまり今日一日の業務を私どもの下僕にやらせます。勿論、ニノマエさんよりも優秀ですのでご安心ください。そして戻られた時、私どもの下僕が行った業務の経験をニノマエさんの脳と同期させます。これでこちらの世界は大丈夫だと思います。」

 下僕が優秀なら、下僕をその世界に行かせれば? 俺行く意味ある?
それに、一度に業務経験を詰め込むと、頭パンクしませんか…。
 
「そして、出張から戻ってこられた際、向こうで気になったことなどを報告していただくことで、今後の改善について検討させていただきます。」

お、何やら、公務員的なものの言い回しだ。

「それと、二つの世界を行き来していただくことは、精神面から見ても非常にタフな事だと思いますので、ニノマエさんが文明・文化が1ランク上がったと思われた時を以て、この出張は終了という事でいかがでしょうか。
勿論、こちらの世界での報酬も検討しておりますし、この世界で言うテンプレと言うんでしょうか? お約束とでも言いましょうか? 出張していただいた先で使える素晴らしい能力をプレゼントいたしましゅが…。」

 あ、大事なところで噛んだ…。でも、来たよ!チート能力!

「先ずは英雄スキルです!」

 あ、あかん…。ラウェン様、調子に乗ってる…。

「すみません…。52のおっさんに英雄は…。」
「あ、そうでした。では、ヒーロー!」

 ではなく、俺に何をさせようというんだ…。

「英雄を言い換えるとヒーローになるんですが…。 それも結構です…。」
「そうですか?なかなか面白いスキルなんですけど…。」

 あかん。完全に頭がフィーバー(死語)してるよ。

「英雄とかは良いので、もっと、実用的なスキルはありませんか?」
「そうですね、言語理解とか、大賢者とか…。」
「言語理解は使えますね。でも大賢者って、魔法をバーンって撃つイメージで怖いです。」
「うーん。ニノマエさん、結構ワガママですよ。」
「いえ、ワガママではなく、52のおっさんが向こうの世界に行って、スキルに依存し即死しました。テヘペロ! なんて報告されるのイヤなんですよ。」

「そんなものですか?」
「そんなものです。それに、行く限りは少しでもお役に立ちたいと思いますので。」

 神様は一寸考え、
「うーん。分かりました。多言語理解は確定と。では、次に大賢者に次ぐスキルである創造魔法にマナ増幅を加えちゃいましょう。さらに出血大サービス!今なら鑑定眼も付けちゃいます。さぁ、どうだ!そこのお兄ちゃん!買った買ったぁ!!」

どんどん、エスカレートし、最後にはバナナの叩き売りになった。神様…あんた残念な事になっているよ。
でも、なんか良さげな能力だし、ここでのチマチマした仕事もやってくれそうなんで、その能力で引き受けることにした。

「はぁ、分かりました。それでお願いします。でも、創造魔法って何ですか?」

少し頭が固くなったおっさんだから、創造魔法と言っても何なのか分からないのである。

「それは行ってのお楽しみです。ニノマエさんがこの世界で言ってる言葉『考えるな、感じろ』です。
それでは、良き旅を。Von Voyage!
あ、追伸です。これまでニノマエさんが心で思ってた、チートだとか、フィーバーだとか、バナナの叩き売りってのとか、全部聞こえてましたからねー!」

 あ、地雷踏んでたんだ…。ごめんなさい。

「あ、最後に自分の近眼、乱視、老眼を治してくださーい!」

 神様に聞こえたかな?
まぁ、試しに行ってみて、感じたことを伝えてほしいって事なので安請け合いしたけど、俺、30日も生きていけるのか不安だな… と思いつつ、俺の周りに光が集まって来た。
「Que, Sera, Sera」だ! と思いながら意識が遠のいていった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...