4 / 4
番外編:小さな魔王様の小さな日常
小さな魔王様の小さなお仕事
しおりを挟む「此度は我らが王国によくぞお越し下さりました、魔王ミルス殿。王国民をあげて歓迎いたしますわ。」
「王妃陛下御自らわざわざのお出迎え、痛み入るのじゃ。」
「私の立太子の儀に魔王様に立ち会っていただけるとは、最上の誉れにございます。」
「しばらくぶりじゃの、王子殿下。息災のようで何よりじゃ。」
王国観光を兼ね、王国で行われる立太子の式典に押し掛け…招待された魔王ミルスと、その護衛兼付き添いである二名のケンタウロス、アーネストとリカルド、都合三名は、城の前で王妃と王子による出迎えを受けた。
「城壁の門より城門までの沿道に、あのように多くの見物が集まり、実に壮観じゃった。王国には大層多くの民がおるのじゃな。」
城付きの騎士に先導され、三人と一行は他愛ない話をしながら、並んで廊下を奥へ歩いて行く。
「はい。王国民はおよそ三十三万人ほどです、魔王様。」
「三十三万!…のう、アーネスト、魔国の魔人の数はいかほどじゃったかの?」
「確か、五万人ほどだったかと、陛下。」
「左様か。王国は発展しておるのじゃな。余も頑張らねばの。」
「それにしても、ミルス殿は本当にお若いですね。話には聞いておりましたが、実際にお会いしてみると、それが事実だという事に驚きを隠せませぬ。」
「さもありなん。それについては余自身、いまだに戸惑っておるのじゃ。」
「とはいえ、斯様にお若いミルス殿が、大陸の半分を占めるとも言われる魔国全土を王として統べておられるというのは、まこと感嘆に値すると言わざるを得ませぬ。」
「…母上、少々正直に過ぎませぬか?」
「殿下、気遣いは無用じゃ。」
そこで魔王は一旦言葉を切り、軽く握った拳をあごにあてて少し思案してから、言った。
「されど、何か誤解があるようじゃ。余は、魔国を統べてはおらぬぞ?」
「ですが、ミルス殿は“魔国の王”でございましょう?」
「魔国に、“王”はおらぬ。現在の魔国は共和国であるからの。」
「え?魔王様は“魔国の王”だから“魔王”なのでしょう?」
「恐らくそれが誤解の元のようじゃな。」
ちょうど、三人は城の応接室に到着した。着席した三人の前に、すぐさま、待機していた侍女達によって、茶と菓子が用意された。
勧められるままに菓子を口にし、お茶で唇を湿らせた魔王は、話を続けた。
「そもそも、“魔王”というのは、“魔族の王”という意味じゃ。」
「魔国は魔族の国なのですから、ミルス殿は魔国の王でもあらせられるのでは?」
「確かに、かつては魔王は魔国の王じゃったのだが、魔王が不在となったこの三千年の間に、魔人達の代表が議会で国の方針を決める形に落ち着いたのじゃ。多少の紆余曲折はあったようじゃがの。」
「それでも魔王様は国政の最高権力者なのではないですか?」
王子のその言葉に、魔王様は少し考え込んで、言った。
「最高でも権力者でも、ないのう。ここらの事情は法王のおる聖国などとは違っての、余は国政に関与しておらぬのじゃ。三千年もの間不在だった魔王が、国政に口出しなどできぬしの。」
「それでは、ミルス殿は、」
と王妃は不思議そうな眼差しを魔王に向けて、言った。
「魔国で一体どのような役割を担っておられるのですか?」
「そうじゃの。主に、観光案内じゃな。」
「「観光案内」」
「外国から魔国を訪れる観光客の相手をするのじゃ。」
「「観光客の相手」」
「あとは魔族の暴走を防ぐ事くらいかの。」
「「ま、魔族の暴走!」」
「ご安心召されよ。あと数千年は魔族が暴走する事はないじゃろう。」
「…しかし、魔王様のお仕事が観光案内とは正直驚きます。私がせんだって王国の使者として魔国を訪れた際、魔王様に拝謁を賜るために通された場所は、大層立派な謁見の間でしたので、てっきり魔王様が魔国の政務を執り仕切っているものとばかり思っておりました。」
「…恥ずかしながら、あの謁見の間はの…、観光施設じゃ。」
「「観光施設?」」
「老朽化した古い魔王城を取り壊して歴史資料館に改築する際、謁見の間だけを残してあるのじゃ。」
「「歴史資料館」」
「うむ。白状するとじゃの、実は外国の使節が余と面会する適当な場所がまだ作られておらぬのじゃ。それで苦肉の策として、あの謁見の間にお主を案内したのじゃ。」
「「苦肉の策」」
「だから謁見の間に出入りする時は正面入り口からのみじゃ。他の扉の向こうは全部ただの壁じゃ。」
「「扉の向こうは壁」」
「残念な事に、玉座の下の隠し通路も、先の方は行き止まりじゃな。」
「「行き止まり」」
「結構お気に入りの隠し通路じゃったのに、思えばもったいないのう…」
魔王は絶句している王妃と王子を他所に、菓子を口にし、茶を飲んだ。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
斬られ役、異世界を征く!!
通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……
しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!
とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?
愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
無属性魔法を極めた俺は異世界最強!?
ないと
ファンタジー
異世界に行きたい
ずっとそんな事を願っていたある日、俺は集団転移に遭ってしまった。
転移すると周り中草木が生い茂っている森林の中で次々とモンスターが襲ってくる。
それに対抗すべく転移した人全員に与えられているらしいチート能力を使おうとしたのだが・・・・・
「魔法適正が『無』!?」
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる