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番外編:小さな魔王様の小さな日常
小さな魔王様の小さな誤算
しおりを挟む聖国の大聖堂にある謁見の間にて、床に跪く魔王ミルスは、一段高いところで玉座の横に立つ法王と、精一杯に腕を広げて玉座の肘掛けに掴まり、床に着かない足を座面の端から垂らして玉座に座っている法王の娘マリアに、礼を捧げていた。
「此度は法王猊下、ならびにマリア姫におかれましては、無事、奸賊の手より逃れられました事、慎んでお慶び…」
「遅いっ!来るのが遅いよ、ミルス!」
司教派が起こしたクーデターにより幽閉されていた法王とマリア姫が、魔王の尽力により怪我一つなく解放救出された事を、魔王が祝ごうとしたところで、マリアがいきなり怒り出した。
「姫、ミルス殿は私達の恩人ですよ。」
法王猊下が娘を宥めようと声をかけたが、
「でも父様、ミルスはもっと早く助けに来る事ができたはずです。」
と、マリアは反論した。
「ミルス、いったいどこで油を売ってたのか、正直に言え。」
「姫様。この魔王ミルス、此度この身に降臨して後、間を置かずに姫のもとへと馳せ参じました事、なに一つ偽りございません。どうか、お怒りをお鎮め下さいませ。」
と魔王は釈明したが、
「…一日…」
「一日?」
「あと一日、早く来られたでしょ?」
「!」
魔王はそれとわかるほど動揺した。
「その一日。な・に・を、してたの?」
ミルスは回想した。
魔王の降臨はいつ起こるかわからない。最後に封印された三千年前までは数年から数十年に一度の割で降臨していた。
その頃はだいたい成人した姿で降臨していたので、どんな事にも憂いなく素早く着手できたのだった。
しかし今回、何故か年若い少女ミリシアに降臨してしまった。たまたま魔族に、ミリシア一人しか魔王種がいなかったのである。魔王が降臨する際に依り代となる種、すなわち魔王種自体が、今の時代ほとんど生まれていないのだ。
「その、姫。実は、ミリシアがまだ幼いので、一日だけ、親子水入らずの時間を作ったのです。どうかお察し賜りたい。」
魔王の訴えに、マリアは少し考え込んだ。
「…。そういう事なら仕方ないか。半年も幽閉されていたら、一日くらい遅れたところで、すぐにどうこうならないし。…遅れた事は、もういいよ。」
「ありがたき幸せ。感謝申し上げます、姫。」
「ただし、その代わり、」
魔王はぎょっとした。
(これはあれだ、ねちねちくる奴だ、絶対。)
もったいぶってなかなか先を続けないマリアを、魔王は内心どきどきしながら、黙って待った。
「そう…よのう。」
「『よのう』?」
「妾とお主は、国の代表なのじゃから、もっとこう、威厳のある話し方をするべきじゃなっ!そうは思わぬか、ミルス?」
「え。それはどういう、」
「たった今から、妾とお主はこういう感じのしゃべり方をするのじゃー!どうじゃミルス?」
「それは、私、恥ずかし」
「こらミルスー、真面目にやるのじゃー!魔王なのじゃから、『私』ではなく『余』と言うのじゃーっ!」
「わた…余…は、はず…恥ずかしいのじゃっ!」
「うむ、よいできなのじゃー!その調子で頑張るのじゃー!妾が見てないと思って手を抜いたら駄目なのじゃー!約束なのじゃー、ミルス!」
「うへ…なんかとんだ事になって…しまったのじゃ…」
「まあまあ、そのうち飽きると思いますので、どうか娘のわがままにお付き合い下さい、魔王様。」
「猊下、それはちっとも慰めにならぬのじゃ…」
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