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(下)
しおりを挟む「家に着いたぞ、兄貴。」
俺は背中で居眠りしている兄貴を起こしながら、おぶっていた兄貴を上がり框に下ろした。
兄貴は口に手をあてて欠伸をしながら靴を脱いだ。そして奥に行きかけて立ち止まって俺の方へ振り返って、眩しい笑顔で言った。
「お兄ちゃん。いや、ユウキ、今日はサンキュー。」
「お、お、おう。まあ、たまにはな。…俺も楽しかったし。」
俺は照れ臭くて、がしがしと頭を掻きながらそう答えた。
そんなやり取りをしていたら、奥から母さんとママが出てきた。
「おかえり、二人とも。」
「お夕飯はまだ少しかかるから、先にお風呂にはいっちゃいなさい。」
「兄貴、先に入っちゃえよ。」
「そう。それならお言葉に甘えて。…それとも」
と言葉を切った兄貴は、いたずらっぽく続きを言った。
「一緒に入る?」「いや、遠慮する。」
俺は間髪入れずに拒否した。
~
その後、兄貴が入っている風呂場から、ばっしゃーんという大きな水しぶきの音が聞こえて来た。
何事かと風呂の方に視線を飛ばす俺と両親の三人の前に、十七歳の姿に戻った兄貴が風呂場から出てきて言った。
「…半日が限界だったか。それでも保った方だな…」
「やたっ。明日からは俺が、今日一日俺を振り回した兄貴に存分に甘えてやるぜ。はっはっは。」
「ふ、ふん。冷却期間が終わったら、またお前の妹になるからな。覚悟しとけ、ユウキ。」
「それはいつの事かなー。一ヶ月後かなー。俺の夏休みが終わっちゃうなー。」
「兄をなめるな。今は一週間まで短縮したのだ。はっはっは。」
「な、なんだって!?」
「ほらユウキ、あなたもお風呂入っちゃいなさいよ。」
見かねたママが俺にそう言うので、俺はがっくりと項垂れたまま、風呂場に向かった。
そして、今度は、俺が湯船で大きな水しぶきをあげる事になった。
風呂から上がった俺を見て、サクラが勝ち誇ったように言った。
「はっはっは、姉ちゃんも元に戻ってやんの。これで夏休み残りは俺が弟役だぜ!」
そう、六歳下の異性になれるのは、二十歳の大学生である俺も同じなのだ。ただ、俺の方が安定して長期間、男の子の姿でいられるのだ。
「なんの。俺の冷却期間は、一日…あー…今回はちょっと変身してた期間が長かったから、一週間くらいかなー。なんか悔しいな、おい。」
俺達が睨み合っていると、母さんがぱんぱんと手を叩いて、言った。
「はいはい、姉弟でじゃれ合うのはそのくらいにして、お夕飯にしましょうね。ほら、席について。」
全員が食卓に着いたところで、ママが音頭をとった。
「それじゃ、いただきます。」
~
翌朝。
いつもより遅く起きた俺が一階に降りると、両親から声をかけられた。
「おはよう、ユウキ。昨日はお疲れさん。よく眠れたか?」
これは、「パパ」のアマキカオル。
「おはよう、ユウキ。悪いけど、サクラを起こしてきてくれない?」
これは、「お父さん」のアマキイオリ。
「おはよう、パパ、父さん。なんだ、まだ起きてないのかあいつは。よっぽど昨日は疲れたんだな。はしゃいでたからなあ。」
両親もこうやって、その日の気分で父になったり母になったりして、日常を楽しんでいる。
両親は一体、どっちが本当の姿なのか、実は俺たち二人も良くしらない。両親が言うには「歳を重ねれば、そのうちそんな事はどうでもよくなる」んだそうだ。深い。
俺はサクラを起こしに、階段に向かった。
~ 本編 完 ~
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