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ゲーム:本編前夜
ユリナスとの別れ
しおりを挟むある朝、礼拝堂でいつも通りのお勤めを終え、身支度のために自室に向かっていると、一人の神官が、ユリナスの侍女の一人を伴って、焦った様子で私の方へ駆け寄って来た。
「大賢者様が倒れられました!」
私は、血の気が引いて目眩を覚え、少しふらついた。神官がすぐにかけよって私を心配そうに支えてくれた。
「…大丈夫。…私はユリナス様の部屋に向かいます。」
ユリナスの部屋に入ると、ユリナスはベッドに横になって目をつぶっていた。眠っているのかとも思ったが、私がそばへ近づくと、目をつむったまままっすぐ上を向いて、「ユーテリアか」と私に声をかけた。
「…はい。お倒れになったと報せを受けまして。」
「ふん。大袈裟な。ちょっと足がもつれただけじゃ。」
「そうですか。…ちょっと失礼いたします。」
私はユリナスがかぶっているシーツをはいで寝巻きをはだけさせ、診断魔法を行使した。
「ユリナス様、」
「寿命じゃろ?」
「…、はい。」
私が続きを言い出す前に、ユリナスの方から言われてしまった。考えて見れば、ユリナスは大賢者、自分の事を診断するくらい、わけないのだ。
「ユーテリア。まさかこれほど長生きできるとは思っておらなんだが、それでも、もう少しお主のそばにおりたかったのう。」
考えてみれば、本来のゲームのシナリオに従えば、ユリナスはもうとっくに死んでいるはずなのだから、今まで生きられたのは、むしろ人生のボーナスのようなものなのかもしれない。だが、それにしても。
「そんな悲しそうなオーラを出すでない。最後にお主の顔を自分の目で見られないのは少々心残りじゃが、お主がそばで看取ってくれると思うと、心強いわい。」
「ユリナス様、ひょっとして目が…」
「ユーテリア、良く聞きなさい。」
「…はい。」
「聖賢女は様々な属性の魔法を最高レベルで使う事ができる。しかし、邪属性の魔法だけは使う事ができない。」
「はい、心得ております。」
「…しかし、たったひとつだけ、例外がある。」
「え?」
「わしが死ぬ前に、ユーテリア、そちにそれを授けねばならん。」
「それは…こんな状態で授陣の儀式をしたら、ユリナス様は死んでしまいます。」
「案ずるな。もとよりもう死ぬと分かっているのだから。ならば早い方が良い。」
「そんなぁ」
私の目から涙がぽろぽろとぼれ落ちた。
「泣くな。わしの遺言と思って、受け取ってくれ…」
こうして私はその日、悲しみの涙にくれながら、ユリナスから魔方陣を授かる事になるのだった。
そしてその夜、ユリナスは神官達によって礼拝堂のアディアナ神像の前に設えられた寝台に移された。
ユリナスの最期を看とるために、私を含め、教会に所属する神官、騎士、侍従、侍女達と、加えて魔王メディアナ、ディックらが神像の間に集っていた。
ふと私は、ユリナスの体に覆い被さるように何かの気配があるのを感じた。
視線をあげると、そこには、ぼんやりとアディアナ様のお姿があった。メディアナもそれに気付いたらしく、ちらりと私の方に視線を向けたので、私もメディアナと軽く視線を会わせて小さく頷いた。
アディアナ様がユリナスの方へを手を差しのべると、ユリナスの体から、恐らくユリナスの若かりし頃の姿なのだろう、発達した筋肉と瑞々しい肌の全裸の女性の姿をかたどった幽体のような物がわき出てきて、アディアナ様が差し出した手をとった。
そして、アディアナ様はユリウスの幽体を自分の方へ抱き寄せると、二人はとても自然に静かに愛を交わし始めた。それはとても神々しい情景だった。
そして交わったままの二人の気配は次第に薄くなり、やがて完全に消えた去った時、ユリナスは静かに息をひきとった。間もなく、誰からともなく漏れ始めた小さな嗚咽の波が、神像の間をしばらく満たしていた。
そして、三日ほどかけて大賢者ユリナスの葬儀が執り行われた。ユリナスの死により大賢者の位はしばらく空位となるが、私の学院修了を待ち、いずれ私に授けられる事が、国王の名のもとに正式に決定した。
余談だが、ユリナスとの最後の授陣式は、ユリナスと私の陰門を重ね合わせる、いわゆる貝合わせだった。というのも、その陣は膣口から膣の内側にかけて施されるのだ。この時、ユリナスの陣は消失し、私に受け継がれるのである。
これによって私はこの後、別の誰かにこの陣を授けぬ限り、決して誰とも交わる事ができなくなった。これは魔法的な割礼とも言える。
そして、聖賢女が使える唯一の邪属性の陣の役割は、人や魔物の身体の上に、呪いの一種である魔方陣を刻む事、すなわち授陣なのであった。
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