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(がぅ)
しおりを挟む「信じてよ!“迷原”に星が落ちるのを見たんだ!」
鮮やかな赤毛の狐獣人の少年が、ギルドに併設された酒場で呑む大人達に向かって声を張り上げていた。
「いつものほらだろ、ほら吹きローズ!」
「誰がほら吹きだよっ!嘘じゃないんだって!」
「…ローズ、その辺にしとけ。」
自分をからかう大人の一人に突っかかって行こうとするローズに、年長のグレーの毛の狐獣人がローズの肩に手を置いて制した。
「アシュ、だってこいつ、」
「いいから放っとけ。…そんな事より、依頼を請けたから出掛けるぞ。」
「…わかったよ。」
二人の狐獣人は、連れだって探索者ギルドを後にした。外は快晴でお昼前の日光が眩しかった。
「ローズ、朝っぱらから呑んだくれるような連中を真面目に相手にするな。時間と労力の無駄だ。」
「でも、アシュ、俺の事をほら吹きだって…」
「気にするな。俺は気にしていない。ローズが嘘を吐くのは、自分ではない誰かを護る時だけだって、俺は分かってるつもりだ。」
アシュにそう言われて、ローズは頭をぽりぽりと掻いた。
「…それで、“迷原”に星が落ちたのは、いつの事だ?」
「一昨日のお昼頃だったかな。西の空から長い尾をひきながら、“迷原”に向かってまっすぐ飛んでったんだ。それから迷原の方で土煙があがって、ごうって言う音がしたんだ。」
「…他に目撃者がいてもおかしくないんだが…」
「なんだよ、アシュも信じてくれないのかよ。」
「嘘だとは思っていない。これは単なる疑問だ。」
淡々と話すアシュに、ローズは口を尖らせる。アシュは構わず言葉を続けた。
「…尾をひきながら空を飛ぶ物体はかなり目立つ。とはいえ、誰もがいつも空を見上げているわけではないし。このあたりだと、“迷原”は建物の陰に隠れて目撃者が少ないのも理解できる。」
「だろ。」
「だが、他にも見たという噂を聞かない。」
「…やっぱり信じてないんだ…」
二人は、街を取り囲む高い外壁の門から、街の外へ出た。
「なあ、アシュ、俺たちどこに向かってるんだ?」
「…たまたまだが、“迷原”の方角だな。」
「何で?依頼?」
「…一昨日から今日にかけて、行方不明者が十数人いる。その捜索依頼を一つ請けた。その失踪現場に向かってる。」
「失踪?」
「ああ。…それと…」「ぎゃっ!」
とアシュは言いながら、素早い動きで振り返りざまに街道わきの草むらに向かって投げナイフを投擲した。それと同時に短い悲鳴があがった。
「えっ?何?誰?」
ローズは突然のアシュの行動と悲鳴に驚き、草むらから視線を外さないアシュの背中に隠れた。
「…俺たち、というかローズも狙われていたみたいだな。おい、そんなところに隠れてないで出てこいよ。」
しかし、草むらからは誰も出てこなかった。
ローズが聞こえよがしに言った。
「アシュ、見つかったから慌てて逃げたのかも。いつもみたいにナイフの毒でそのうちぶっ倒れるって。アシュ特製の毒はアシュしか解毒剤を持ってないから、逃げ切れる筈はないよ。」
すると、草むらから小柄な手負いの貂獣人がのそのそと這い出てきた。
「…た、たのむ、解毒剤をくれ!」
アシュによって貂獣人は捕らえられ、身動きができないよう、縄で縛られた。
「なあ、解毒剤を早くくれ。」
「…そんな物は必要ない。」
アシュは回収した投げナイフを検分しながら、貂獣人の問いに答えた。
「…こいつに毒は塗ってないからな。」
「!…ちっ、謀られたか…」
貂獣人はいかにも悔しそうに舌打ちした。それを横目に、アシュがぽつりと呟いた。
「(…ローズが本当の事を言っても誰も信じないのに、ローズが吐いた嘘は誰もが簡単に信じてしまう。)ローズは本当に難儀な奴だな…」
「アシュ、何か言った?」
「…いや、何も。」
「…嘘っぽい。」
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