犬獣人転生(仮)

kuro-yo

文字の大きさ
上 下
5 / 6

(がぅ)

しおりを挟む

「信じてよ!“迷原まよいがはら”に星が落ちるのを見たんだ!」

 鮮やかな赤毛の狐獣人の少年が、ギルドに併設された酒場で呑む大人達に向かって声を張り上げていた。

「いつものだろ、ほら吹きローズ!」

「誰がだよっ!嘘じゃないんだって!」

「…ローズ、その辺にしとけ。」

 自分をからかう大人の一人に突っかかって行こうとするローズに、年長のグレーの毛の狐獣人がローズの肩に手を置いて制した。

「アシュ、だってこいつ、」

「いいから放っとけ。…そんな事より、依頼を請けたから出掛けるぞ。」

「…わかったよ。」

 二人の狐獣人は、連れだって探索者ギルドを後にした。外は快晴でお昼前の日光が眩しかった。

「ローズ、朝っぱらから呑んだくれるような連中を真面目に相手にするな。時間と労力の無駄だ。」

「でも、アシュ、俺の事をだって…」

「気にするな。俺は気にしていない。ローズが嘘を吐くのは、自分ではない誰かを護る時だけだって、俺は分かってるつもりだ。」

 アシュにそう言われて、ローズは頭をぽりぽりと掻いた。

「…それで、“迷原”に星が落ちたのは、いつの事だ?」

「一昨日のお昼頃だったかな。西の空から長い尾をひきながら、“迷原”に向かってまっすぐ飛んでったんだ。それから迷原の方で土煙があがって、ごうって言う音がしたんだ。」

「…他に目撃者がいてもおかしくないんだが…」

「なんだよ、アシュも信じてくれないのかよ。」

「嘘だとは思っていない。これは単なる疑問だ。」

 淡々と話すアシュに、ローズは口を尖らせる。アシュは構わず言葉を続けた。

「…尾をひきながら空を飛ぶ物体はかなり目立つ。とはいえ、誰もがいつも空を見上げているわけではないし。このあたりだと、“迷原”は建物の陰に隠れて目撃者が少ないのも理解できる。」

「だろ。」

「だが、他にも見たという噂を聞かない。」

「…やっぱり信じてないんだ…」

 二人は、街を取り囲む高い外壁の門から、街の外へ出た。

「なあ、アシュ、俺たちどこに向かってるんだ?」

「…たまたまだが、“迷原”の方角だな。」

「何で?依頼?」

「…一昨日から今日にかけて、行方不明者が十数人いる。その捜索依頼を一つ請けた。その失踪現場に向かってる。」

「失踪?」

「ああ。…それと…」「ぎゃっ!」

 とアシュは言いながら、素早い動きで振り返りざまに街道わきの草むらに向かって投げナイフを投擲した。それと同時に短い悲鳴があがった。

「えっ?何?誰?」

 ローズは突然のアシュの行動と悲鳴に驚き、草むらから視線を外さないアシュの背中に隠れた。

「…俺たち、というかローズも狙われていたみたいだな。おい、そんなところに隠れてないで出てこいよ。」

 しかし、草むらからは誰も出てこなかった。

 ローズが聞こえよがしに言った。

「アシュ、見つかったから慌てて逃げたのかも。いつもみたいにナイフの毒でそのうちぶっ倒れるって。アシュ特製の毒はアシュしか解毒剤を持ってないから、逃げ切れる筈はないよ。」

 すると、草むらから小柄な手負いの貂獣人がのそのそと這い出てきた。

「…た、たのむ、解毒剤をくれ!」

 アシュによって貂獣人は捕らえられ、身動きができないよう、縄で縛られた。

「なあ、解毒剤を早くくれ。」

「…そんな物は必要ない。」

 アシュは回収した投げナイフを検分しながら、貂獣人の問いに答えた。

「…こいつに毒は塗ってないからな。」

「!…ちっ、謀られたか…」

 貂獣人はいかにも悔しそうに舌打ちした。それを横目に、アシュがぽつりと呟いた。

「(…ローズが本当の事を言っても誰も信じないのに、ローズが吐いた嘘は誰もが簡単に信じてしまう。)ローズは本当に難儀な奴だな…」

「アシュ、何か言った?」

「…いや、何も。」

「…嘘っぽい。」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

二度目の勇者の美醜逆転世界ハーレムルート

猫丸
恋愛
全人類の悲願である魔王討伐を果たした地球の勇者。 彼を待っていたのは富でも名誉でもなく、ただ使い捨てられたという現実と別の次元への強制転移だった。 地球でもなく、勇者として召喚された世界でもない世界。 そこは美醜の価値観が逆転した歪な世界だった。 そうして少年と少女は出会い―――物語は始まる。 他のサイトでも投稿しているものに手を加えたものになります。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

七代目 双子の桃太郎

ヒムネ
ファンタジー
その昔、初代桃太郎から始まった鬼退治。それも七代目になり運命の双子が生まれる。 「育てて頂き、ありがとうございました」 「そんなに焦らんでも~」 「これは“宿命”です」 運命の双子の物語が始まる和装ファンタジー。 ※エブリスタでも載せています。

俺、貞操逆転世界へイケメン転生

やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。 勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。 ――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。 ――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。 これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。 ######## この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

楽しい交尾 お山の大将

浅貴るお
恋愛
 猿の発情期。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...