びらん

ツヨシ

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桜井と本部を入れると、ここにすでに四人いる。
ただ父親の草野正司のほうはその目に力強い決意を感じ取れるが、息子のほうはそれほど感じなかったのが少し気になった。
だが桜井は言われるがままに後部座席に乗り込み、本部も続いて乗ってきた。
後部座席で一人は若くないとはいえ女性。
桜井が少しばかり窮屈な思いをしているまま、車は走り出した。
大場のところへ向かうのだ。
巨大なマンションとはいえ大場は同じマンションに住んでいる。
三棟ほど過ぎたところで車は停まった。
「呼んでくる」
本部が車を降りた。
しばらく待っていると、本部が大場を連れてやって来た。
五人が車に乗ると本部が言った。
「運転席にいるのがその昔、びらんを封印した神主の息子の草野正司さん。後部座席の右端にいるのが正司さんの息子の信一だ。桜井さんはみな知っているな。そしてこの若い娘さんが大場さやさんだ。これで五人そろった。それでは正司さんお願いします」
車は走り出した。

しばらく走ると車は郊外に出た。
高い建物がぐっと少なくなり、家は多いがそれなりに静かな場所となった。
そして桜井の視界に鳥居が見えたと思ったら、車はそこに入っていった。
小さめではあるが、それ相応の歴史と威厳を感じる神社だ。
その本堂のわきに車は停まった。
まず草野正司が車を降り、次に本部が降りた。
そして信一、桜井、大場とみな車を降りた。
本部が言った。
「ここがびらんを封印する場所だ」
桜井が聞いた。
「神社ですか」
草野正司が答えた。
「私の昔からの知り合いのいる神社です。びらんは昔、神社で封印されました。ですから神社は苦手なはずです。だからここで封印します」
「びらんを呼び出すんですか?」
桜井が再び聞くと、今度は本部が答えた。
「びらんを呼ぶことはできない。あいつが来るのを待つんだ」
「待つ。苦手な神社にびらんが来ますかね?」
「来る。自分を封印しようとする人間が五人、一か所にそろっているんだ。今日封印するつもりで。あいつがそれを黙って見逃すはずがない。全員殺すつもりで来るだろう。前にも言ったが、もともと悪霊というものはそういう傾向にある。びらんほどの悪霊になれば、それがさらに強くなる。だから五人そろって封印しようとすれば、全力で対抗してくるだろう」
「そうですか。それでこれからどうすればいいんですか?」
草野正司が言った。
「まず神社の中に入ります。今日は神主はいません。危険なので出払ってもらってます。本堂の中央に小さな木箱があります。かつてびらんを封印していた木箱です。それを五人で囲んで待つのです。びらんを。そしてやつが現れたら、私と本部さんは霊能力で、他の三人はびらんを封印したいという気持ちを想いを、びらんにぶつけてください。五人が本来の力を出せば、必ずびらんを封印できます。それを信じてください」
桜井が言った。
「わかりました。必ずびらんを封印します」
次に大場が言った。
「ええ、なにがなんでも必ずびらんを封印します」
草野信一はなにも言わなかった。
他の四人と比べると、このおとこだけやはり気合というか決意が薄いように桜井は感じた。
「それじゃあ中に入ります」
草野正司がそう言って歩き出し、四人がついていった。
中に入りと言われた通り、広い板間の中央に、見事な細工が施された木箱が置いてあった。
それを取り囲むように、草野正司、本部、信一、桜井、大場の順に座った。
五人が座ったが、誰も言葉を発しない。
しばらくして桜井が言った。
「ここでびらんを待つんですね」
本部が返す。
「ああ、待つ。やつは必ず来る」
「そして封印する」
「その通り。必ず封印する」
そして再び静かになった。
みな口を閉ざして木箱を見つめた。
古く小さく美しい木箱を。

待った。
時計がないので正確な時間はわからないが、かなり待ったように桜井には感じられた。
もちろんこんな時の時間の流れは、普段よりも長く感じられるものだが、五人いるのに誰も言葉を発しないので、よけいにそう感じられる。
待たされるとどうしても集中力が散漫になってくる。
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