びらん

ツヨシ

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おびえる者、不安がる者、逆に不安をあおる者、なぜか面白がっている者、ここにきて完全に無関心な者。
十人十色だ。
桜井は怖いとまではいかないが、不安を感じていた。
自分一人だったなら、そこまで不安には思わなかっただろう。
しかし今は同じマンションに妹がいるのだ。
心配しないほうがおかしい。
ましてや人一倍仲の良い兄と妹なのだ。
桜井の心配は取り越し苦労とは言えなかった。
――何事もなければよいのだが。
桜井はそのことにとらわれることが多くなった。

桜井が待っているとあんりが来た。
約束通り事前に連絡を入れてから訪ねてきたのだ。
「ヤッホー。可愛い妹が訪ねてきてやったぞ」
入り口で大きな声で騒ぐ。
近所の人にも聞かれていることだろう。
まあ、彼女ではなくて妹なのだから、誰に聞かれたとしても恥ずかしくはないのだが。
「うるさいから早く入れ」
「へいへい」
あんりは兄を押しのけるようにして中に入った。
そして部屋のあちこちのものを触ったり、移動させたり、ひっくり返したりし始めた。
「おいおいなにをしてる」
「探してんの」
「なにを?」
「エッチな本」
こらこら。
桜井は思った。
もともとそんなものは持っていないし、たとえ持っていたとしたら、妹が来る前に処分しただろう。
仕方がないのでそのままにしていると、妹は下手な泥棒のごとくこれでもかと家探しを続けた。
ここは一人用の部屋だ。
探す場所はそんなにない。
あんりのペースは徐々に遅くなり、やがて止まった。
「もう、私の兄はエッチな本を隠す天才か」
「だからもともとそんなものはないと言っているだろう」
「それじゃあ第一目的はとりあえず済んだから、次は第二目的」
「エッチな本を探すことが、兄の部屋を訪ねる第一目的かい」
「正解」
「で、第二目的は?」
「遊ぶ」
「なにして?」
「じゃーーん」
あんりがバックから取り出したのは、人気の対戦型ゲームソフトだ。
「おお、新作だな。旧作ならやったことがあるが」
「これで兄ちゃんを負かして、一生私の下僕にする」
「ゲームに負けたくらいで、一生妹の下僕になんかなるわけないだろう。それにそのゲームならあんりなんかに負けないぞ」
「言ったわね。その言葉、ちゃんと覚えときなさいよ」
「ああ、覚えておくさ」
「それじゃあ」
二人でテレビゲームをやり始めた。
そしてそれは夕方から次の日の朝まで続いた。
日曜日は二人とも会社が休みなのだ。

桜井のもとに今日もあんりが訪ねてきた。
最初に遊びに来てから、週末は一度も欠かすことがない。
――毎週だぜ。
桜井は半ば呆れていた。
しかしけっして嫌ではなかった。
妹と遊ぶのはすごく楽しいのだ。
ただ心配なのは、妹が世間で言うところの呪われたマンションに住んでいることだ。
それだけが桜井にとってずっと気がかりだった。

大場さやが大学から帰ると、またあの女がマンションの入り口に立っていた。
マンション内でもかなりの噂になっている。
不審者として通報した方がよいのでは、という話もでているのだ。
大場も不気味に感じてはいたが、あの女に対して特になにかしようとは考えていなかった。
そしてその女の横を原付で通る。
するとその女が途端に大場を見たのだ。
前回は原付を降りて押しているときに女が見ていた。
しかし今日は横を通り過ぎただけで、大場を見たのだ。
誰が通過しようが、誰が凝視しようが、話しかけても反応しないことで有名なのに。
この前も今日も、大場ただ一人だけに反応しているのだ。
――なんなのかしら、あの人。
大場は気味が悪くなり、いつもなら原付を降りて押して通る細道を、そのまま原付で走り抜けて駐輪場まで行った。
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