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クレーンで吊り上げた鉄材が滑り落ち、それが夫の頭を直撃してしまったのです。
ほぼ即死だったそうです。
十年ほど前に同様の事故を起こし、死者こそ出なかったものの重傷者が出てしまいました。会社としてはその時以降十分な対策を止むことなく続けてきたはずなのですが、どうやら十年の歳月がそれを風化させてしまったようです。
その結果、とうとう死人を出してしまったのです。
それがこともあろうか私の夫だなんて。
お通夜、葬式と、私はずっとぼうとした状態で過ごしました。
夫が死んだことに対する実感がわかない。
いや、夫が死んだという現実を受け入れることを、無意識のうちに拒否をしていたのでした。
そして二人のために、これから生まれてくるであろう子供たちのために引越しをしたマンションに、一人帰りました。
しばらくはほとんど何もせずに過ごしました。
気力や思考力を奪われたままで。
ところがある日、ふとこのままでは駄目だと思い立ち、とりあえず夫の遺品を整理することを思い立ちました。
夫の服。
夫の腕時計。
スマホ。
本。その他諸々。
その中で夫が使っていた仕事用の鞄が目に入りました。
黒い皮製の鞄。大事なものだから絶対に触るな、と夫がいつも言っていたものです。
ほぼ即死だったそうです。
十年ほど前に同様の事故を起こし、死者こそ出なかったものの重傷者が出てしまいました。会社としてはその時以降十分な対策を止むことなく続けてきたはずなのですが、どうやら十年の歳月がそれを風化させてしまったようです。
その結果、とうとう死人を出してしまったのです。
それがこともあろうか私の夫だなんて。
お通夜、葬式と、私はずっとぼうとした状態で過ごしました。
夫が死んだことに対する実感がわかない。
いや、夫が死んだという現実を受け入れることを、無意識のうちに拒否をしていたのでした。
そして二人のために、これから生まれてくるであろう子供たちのために引越しをしたマンションに、一人帰りました。
しばらくはほとんど何もせずに過ごしました。
気力や思考力を奪われたままで。
ところがある日、ふとこのままでは駄目だと思い立ち、とりあえず夫の遺品を整理することを思い立ちました。
夫の服。
夫の腕時計。
スマホ。
本。その他諸々。
その中で夫が使っていた仕事用の鞄が目に入りました。
黒い皮製の鞄。大事なものだから絶対に触るな、と夫がいつも言っていたものです。
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