気がつかない

ツヨシ

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「ああ……」

それを聞いた村下さんは情けない声をあげて天を仰ぐと、すうっとその姿を消した。

男が私を見た。

「これであの人も成仏することが出来ました」

私は男をじっくりと見て言った。

「あなたは誰ですか?」

「ああ私ですか。名乗るほど者ではありませんよ」

「どうしてここへ?」

「それはですねえ、私はある日を境に突然、死んだことに気付かずさまよっている魂がどこにいるか、わかるようになったんですよ。そこで今はそう言った魂を説得して、あの世に送り届けることを生きがいとしているんです。私が説得すると、理由は自分でもよくはわからないんですけど、さまよう魂が素直にあの世に行ってくれるんですね」

「……生きがいですか」

「そう、私の生きがいです」

生きている人間もそうだが、どうやら死んでからも、人のことはよくわかっても自分のことはわかっていないようだ。

なぜならこの男も身体が透けていて、後ろの景色が見えていたのだから。


       終
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