黒い影

ツヨシ

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名前は高井雄一。

四十歳の会社員。

妻一人、子供一人。

更に調べて住所を特定しました。

早速連絡を入れました。

私は高井氏の古くからの友人で、ここ数日は連絡をとっていませんでしたが、ついさっきに亡くなったことを知りました。

ぜひお仏壇に手を合わせたいので、と。

うまい嘘とは言えませんでしたが、未亡人であろう女性は、亡き夫の墓の所在を教えてくれました。

四十九日経っていないので納骨はまだだろうと思っていましたが、火葬のあとすぐに納骨したようです。

たまにそういうことをする人がいると聞いたことがありますが、高井の親族がそれでした。

私にとっては都合が良かったことです。

墓参りを一人でするだけなので未亡人の家に行き、顔を合わせて古くからの友人のふりをしなくてもよいのですから。

私は実の母の墓にも捧げたことのない豪華な花と、実の母の墓にも供えたことのない高価なお供え物を高井雄一の墓に供えました。

そして実の母のお墓以上に丁寧に掃除をし、実の母のお墓以上に熱心に拝みました。

――これでいいのでは?

絶対的な自信はありませんでしたが、なんだかこれでいいような気がしてきました。

それでも駄目押しとばかりに拝み続けていると、夏だというのに辺りは暗くなってきました。

私は自分のマンションに帰りました。

そして家に帰り、明かりをつけると、目の前にいました。

あの黒い影が。

――!

あれほど心をこめて誠心誠意お参りをしたというのに。まだ成仏できないと言うのか。

だいたい事故現場を通り過ぎただけの私に、いったい何の用があるというのだこの男は。

そのときの私は、恐怖心はもちろんあったのですが、それよりも怒りの感情のほうが強かったのです。

すると黒い影がすうっと動き、私のすぐ目の前まで来ました。

そして言ったのです。

「やっと追いついた」

それは若い女の声だったのです。


       終
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