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そのまま村を捜索する。
女子二人もそれにならった。
しばらく捜索したが、これといった成果はない。
正也が思わず立ち止まっていると、それを見ていたみまが言った。
「ちょっと疲れたわ。少し休みましょう」
三人で川べりに降りた。
そこに行ったのは、ただなんとなくだが。
川土手の傾斜が座りやすかったからかもしれない。
そこで座っていると、不意に聞こえてきた。
車のエンジン音だ。
見ていると、それが来た。
とてつもなく派手なスポーツカーが。
車は川土手から顔だけ出してみている三人の前を通り過ぎ、そのまま村を横切って、下りの山道に入っていった。
三人でお互いの顔を見る。
はるみが言った。
「また誰か外から来たみたいね。車検の通りそうにない、派手なスポーツカーで。でも少し経てば、ここに戻ってくるはずだわ」
「良くも悪くも仲間が増えるのかしら」
みまが言うと、はるみが答える。
「それはどうかしら。少し高い位置から見ていたし、車もそうとうなスピードだったからはっきりとは言えないけど、一瞬見た車の助手席の男、かなりやばいんじゃないのかしら」
「かなりやばいって?」
「不良、チンピラ、ならず者。言い方はいろいろあるけど、その中でも最悪なものに見えたのよ。へたにかかわると、とんでもないことになりそうと言った感じかしら。とにかくとてもやばい男に見えたわ」
「そうなの? 私はよく見えなかったから」
「そのうち戻って来るから、隠れて様子を見て見ましょう」
戻ってくるとしたら、二体の地蔵が並んでいるところだ。
その先の川土手の内側に陣取り、三人でそのまま待った。
一時間近く待っていると、まさになにもない空間から、いきなり現れた。
車に詳しくない正也が見てもわかるほど、違法改造されているスポーツカーが。
二体の地蔵と陽介の車の間に。
ここからは助手席の男しか見えないが、髪型、服装、そして顔つきと、狂暴、狂気と言った言葉しか出てこない風貌をしていた。
見るからにやばい奴と言うのはたまに見かけるが、ここまではっきりとやばい奴とわかるのは、かなり珍しい。
正也の十九年の人生の中では初めてと言っていいほどだ。
車は停まったままで、助手席の男は運転席の男と何かやり取りをしているように見えたが、その顔は、狂暴で攻撃的なものに見えた。
三人で顔だけ出してみていると、車は荒々しく発進し、そのまま下りの山道へと入っていった。
「また山道に入っていったわ。でも待っていれば、また戻って来るでしょうね」
はるみがそう言い、正也とみまは無言でうなずいた。
そのまま待つ。
下りの山道は登りに比べると村に戻されるまで少し時間がかかるが、三人ともに口を開くことなく待った。
すると結構な時間が経ったと思われる頃に、再びいかつい改造車が一瞬にして、その姿を現した。
三人で様子を見る。
助手席の男が何かを叫んでいるようだ。
運転席の男となにか言いあっているのだ。
おそらく「なんだこれは」「いったいどうなっているんだ」といったところだろうか。
状況はともかく、知り合いと話している割には、その顔は狂暴すぎるほどだが。
しばらく言い合っていたようが、突如助手席の男が前を向くと、車はまたも下りの道へとすざましい勢いで走りだした。
「また帰って来るわね。無駄なことを。そう言っても私の彼氏も何回も同じことをやったけどね」
はるみが言う。
正也は考えた。
新たな犠牲者が現れた。
本来なら仲間が増えたと喜ぶところなのだろうが、どう見てもお友達になりたいと思える要素がなに一つない。
むしろなりたくないと思わせる要素ばかりだ。
でもあの危険な香りが満載の男たちがどうなるのかは、充分過ぎるくらいに気になる。
成り行きによっては、嫌でも絡まざるを得ない場合だって考えられるのだから。
完全無視でずっと済ませるわけにもいかないだろう。
あの男たちが村をうろつき始めたら、ずっと会わないと言うことは、かなり困難だからだ。
そして待った。
今度は前よりも長く時間が過ぎたと思われる頃、予想通りスポーツカーが突然その姿を見せた。
判で押したかのように同じ場所に。
そしてまたなにかを言い合っているようだ。
その時正也は気づいた。
助手席の男が運転席の方だけではなく、時折後ろを振り返っているのだ。
そして振り返ったままなにかを言い、また顔を前にやったり運転席に向けたりしている。
――後ろに誰かいるのか?
正也は車に関しては知識も興味もない人間なのでよくはわからないが、ぱっと見あのスポーツカーは二人乗りに見える。
だから中にいるのは二人だと思っていたのだが。
そうではないのか。
そんなことを思っていると、懲りずに車が走り出して、またもや下りの山道に入って行った。
さすがになにか変化があるのではと期待していたのだが、その予想は見事に外れてしまった。
同じことを繰り返すばかり。
まったく懲りない連中だ。
「あの人たち、何回同じことを繰り返すつもりなのかしら」
はるみが正也を代弁するかのように言った。
また様子を見なくてはならない。
女子二人もそれにならった。
しばらく捜索したが、これといった成果はない。
正也が思わず立ち止まっていると、それを見ていたみまが言った。
「ちょっと疲れたわ。少し休みましょう」
三人で川べりに降りた。
そこに行ったのは、ただなんとなくだが。
川土手の傾斜が座りやすかったからかもしれない。
そこで座っていると、不意に聞こえてきた。
車のエンジン音だ。
見ていると、それが来た。
とてつもなく派手なスポーツカーが。
車は川土手から顔だけ出してみている三人の前を通り過ぎ、そのまま村を横切って、下りの山道に入っていった。
三人でお互いの顔を見る。
はるみが言った。
「また誰か外から来たみたいね。車検の通りそうにない、派手なスポーツカーで。でも少し経てば、ここに戻ってくるはずだわ」
「良くも悪くも仲間が増えるのかしら」
みまが言うと、はるみが答える。
「それはどうかしら。少し高い位置から見ていたし、車もそうとうなスピードだったからはっきりとは言えないけど、一瞬見た車の助手席の男、かなりやばいんじゃないのかしら」
「かなりやばいって?」
「不良、チンピラ、ならず者。言い方はいろいろあるけど、その中でも最悪なものに見えたのよ。へたにかかわると、とんでもないことになりそうと言った感じかしら。とにかくとてもやばい男に見えたわ」
「そうなの? 私はよく見えなかったから」
「そのうち戻って来るから、隠れて様子を見て見ましょう」
戻ってくるとしたら、二体の地蔵が並んでいるところだ。
その先の川土手の内側に陣取り、三人でそのまま待った。
一時間近く待っていると、まさになにもない空間から、いきなり現れた。
車に詳しくない正也が見てもわかるほど、違法改造されているスポーツカーが。
二体の地蔵と陽介の車の間に。
ここからは助手席の男しか見えないが、髪型、服装、そして顔つきと、狂暴、狂気と言った言葉しか出てこない風貌をしていた。
見るからにやばい奴と言うのはたまに見かけるが、ここまではっきりとやばい奴とわかるのは、かなり珍しい。
正也の十九年の人生の中では初めてと言っていいほどだ。
車は停まったままで、助手席の男は運転席の男と何かやり取りをしているように見えたが、その顔は、狂暴で攻撃的なものに見えた。
三人で顔だけ出してみていると、車は荒々しく発進し、そのまま下りの山道へと入っていった。
「また山道に入っていったわ。でも待っていれば、また戻って来るでしょうね」
はるみがそう言い、正也とみまは無言でうなずいた。
そのまま待つ。
下りの山道は登りに比べると村に戻されるまで少し時間がかかるが、三人ともに口を開くことなく待った。
すると結構な時間が経ったと思われる頃に、再びいかつい改造車が一瞬にして、その姿を現した。
三人で様子を見る。
助手席の男が何かを叫んでいるようだ。
運転席の男となにか言いあっているのだ。
おそらく「なんだこれは」「いったいどうなっているんだ」といったところだろうか。
状況はともかく、知り合いと話している割には、その顔は狂暴すぎるほどだが。
しばらく言い合っていたようが、突如助手席の男が前を向くと、車はまたも下りの道へとすざましい勢いで走りだした。
「また帰って来るわね。無駄なことを。そう言っても私の彼氏も何回も同じことをやったけどね」
はるみが言う。
正也は考えた。
新たな犠牲者が現れた。
本来なら仲間が増えたと喜ぶところなのだろうが、どう見てもお友達になりたいと思える要素がなに一つない。
むしろなりたくないと思わせる要素ばかりだ。
でもあの危険な香りが満載の男たちがどうなるのかは、充分過ぎるくらいに気になる。
成り行きによっては、嫌でも絡まざるを得ない場合だって考えられるのだから。
完全無視でずっと済ませるわけにもいかないだろう。
あの男たちが村をうろつき始めたら、ずっと会わないと言うことは、かなり困難だからだ。
そして待った。
今度は前よりも長く時間が過ぎたと思われる頃、予想通りスポーツカーが突然その姿を見せた。
判で押したかのように同じ場所に。
そしてまたなにかを言い合っているようだ。
その時正也は気づいた。
助手席の男が運転席の方だけではなく、時折後ろを振り返っているのだ。
そして振り返ったままなにかを言い、また顔を前にやったり運転席に向けたりしている。
――後ろに誰かいるのか?
正也は車に関しては知識も興味もない人間なのでよくはわからないが、ぱっと見あのスポーツカーは二人乗りに見える。
だから中にいるのは二人だと思っていたのだが。
そうではないのか。
そんなことを思っていると、懲りずに車が走り出して、またもや下りの山道に入って行った。
さすがになにか変化があるのではと期待していたのだが、その予想は見事に外れてしまった。
同じことを繰り返すばかり。
まったく懲りない連中だ。
「あの人たち、何回同じことを繰り返すつもりなのかしら」
はるみが正也を代弁するかのように言った。
また様子を見なくてはならない。
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