呼ぶ声

ツヨシ

文字の大きさ
上 下
1 / 1

しおりを挟む
先輩がいきなり「ドライブに行こう」と言い出した。
断るといろいろと面倒なので、俺は承諾した。
先輩の運転する車で二時間ほど走ると、何処かの駐車場に着いた。
車から降りると先輩は、建物とは反対方向の森へと向かう。
そこには木のチップを敷き詰めた遊歩道があった。
先輩はそこを歩き出し、俺も黙ってついて行った。
しばらくすると先輩が遊歩道を外れて、森へと入って行く。
俺は言った。
「どこ行くんです?」
「せっかく青木ヶ原の樹海に来たんだから、遊歩道歩いてもつまらんだろう」
ここが青木ヶ原の樹海であることを、俺は今知った。
なにかの看板はあったが、ろくに見ていなかった。
「なにかおもしろいものが見つかるかもしれんしな」
おもしろいもの。
俺の頭に最初に浮かんだのは、死体という言葉だった。
思わず足が止まったが、先輩はおかまいなしに進んでいく。
もう、ついて行くしかなかった。

一時間ほど歩いたが、死体はおろかなんだかの遺留品らしきものも何一つ見なかった。
ただの森だ。
「さすがに疲れたな。くそっ、もう帰るか」
不機嫌な先輩をしりめに、俺は内心ほっとした。
遊歩道に戻るのに二時間ちかくかかったが、もう帰れると思うと疲れも吹き飛ぶ。
そしてようやく駐車場が見えてきたと思ったとき、先輩が立ち止まった。
「どうしました?」
「呼んでいる」
先輩はそう言うと、森に入って行こうとした。
その姿に恐怖を感じた俺は、先輩の手をつかんで強引に車まで引っ張って行った。
車に着くと先輩は「あれっ、俺、どうじたんだ?」と言った。
「別に」と答えると、先輩は怪訝そうな顔ながら車に乗り込んだ。

それから数日後、先輩が消えた。
騒ぎはだんだん大きくなり、警察が動き、他県から両親も駆けつけてきた。
俺を含めて大勢の人が探したが、あれ以来先輩の姿を見た者は誰もいなかった。

       終
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

おねえちゃん

ツヨシ
ホラー
子供が何かを見ている

山の足音

ツヨシ
ホラー
山で奇妙な足音がした

吹雪の中

ツヨシ
ホラー
吹雪の中で怪異にあった。

格安のホテルにて

ツヨシ
ホラー
あるホテルに泊まった先輩が、会社の出勤しなくなった。

近くにある恐怖

杉 孝子
ホラー
何気ない日常に潜んでいる恐怖を届けます。 『小説家になろう』にも掲載させて頂いています。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

【短編】怖い話のけいじばん【体験談】

松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。 スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。

処理中です...