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「そんなの決まっているじゃないですか。向こうが来る前に、こっちから仕掛ける。やられる前にやるんですよ。それしかありませんね」

そう言うと北山は笑った。


むこうがこっちを見つけるより前に、先にこっちが向こうを見つけて、猟銃とダイナマイト、ついでに刃物つき棍棒で攻撃して仕留める。

そうすることは決まった。

それについては二人とも異論はないのだが、向こうよりも先に見つけるための具体的な作戦と言うものは、特に何もなかった。

「そういう気持ちがあるかないかで、いざと言うときにずいぶんと違ってくるもんなんですよ」

と北山は言う。

この老人と言っていいほどの男は、これだけ追い込まれている状況にもかかわらず、何故だか少し楽しげである。

敵がある程度ではあるが明確になったので喜んでいるのか、全く先が見えない状況だったのがどうやら短期決戦になりそうなのが嬉しいのか。

あるいは岩崎が想像できないような理由が別にあるのか。

それは岩崎にはまるでわからなかった。

わからなかったが、そういう北山はやけに頼もしく見えた。

それはそうだろう。見るからに腰が引けているやつと、鼻歌でも歌いだしそうな人間と、どちらを頼りにするのか。

そんなことは考えるまでもないことだ。


昨日と同じく懐中電灯とライトで照らしながら、山の中をもくもくと進んだ。

宣戦布告をした以上、あちらが真っ先に仕掛けてくることも頭に入れておいたのだが、それはなかった。

「少し休みますか」

飽きるほど歩き回ったころ、北山がそう提案してきた。

岩崎は同意した。

疲れていたからだ。

二人で用意した水分、おにぎり、バナナなどを口にふくんでいると、不意に何かが聞こえてきた。

「……」

「……」

お互いに顔を見合わせ、同時に神経を耳に集中させた。

鳥の声? 小動物の鳴き声?

聞いてみてもそれが何かはわからなかった。

わかっていることは、その声がこちらに近づいてきているということだ。

――夜行性の野生動物じゃないのか。

岩崎はそう思いたかった。しかしそうではないということがわかるまでに、それほど時間はかからなかった。

――女の子の声?

そう思いついた途端、いきなりぬっと現れた。
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