あのバス停を降りたときに

ツヨシ

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どこかであれは夢か幻でも見たのだという、心の隅で「私が仕事で疲れているからあんなものを見たのだ」と思い込もうとしているという、ある種の現実逃避のような思考に囚われていたのかもしれません。

そうかと言ってあの老婆を夢や幻だと本気で思っているわけでは決してなく、血にまみれた老婆をもう一度見たいと思っているわけでもありません。

あの赤い老婆には二度と会いたくはないと思っていました。

見えている時は不快でたまりませんし、なによりあの老婆がまわりにまき散らしている血の臭いが私は嫌だったのです。

間違いなく「血」でありながら、私の知っている生血よりもはるかに生々しく、濃く、一種独特の存在感を感じさせるもの。

それは極々軽く、宙を漂い、目には見えないほどの小さな粒子でありながら、なにかしらの質量を感じさせ、私の身に襲い掛かり、私を押しつぶそうとするのです。

私にとってあの血の臭いは、腹を裂かれた老婆の見た目以上に現実感のあるものでした。

――とにかく乗り過ごさないようにしないと。

この状況を乗り切るにはそれしかありません。

高い緊張感の中で外に映る見慣れた景色を注意深く見ていると、目的のバス停までもう少しのところに来ました。

――これで大丈夫だわ。

そう思った途端、私は眠りについてしまいました。

いや一瞬にして意識を失ったと言ったほうが正しいかもしれません。

気がついた時にはバスはすでにあの山の中。
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