あのバス停を降りたときに

ツヨシ

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その老婆はバスに乗ると身体ごと振り返り、三人の乗客と同じようにバスの後方をじっと見つめました。

そのため私にもその全身がはっきりと見て取れました。

その老婆がありふれた普通の老婆であれば、特に何の問題もなかったことでしょう。

しかしその老婆は、一般的で平均的な老婆と言うには、あまりにも異形すぎました。

時代劇の庶民が着るような着物を着ていたのですが、帯はなく、前が完全にはだけていました。

そしてあろうことか老婆の腹部は縦に大きく裂かれ、中の内臓が垂れ下がって床についていたのです。

――! !

血まみれでした。

ぱっくりと口を開けていた腹部はもちろん血に染まっていたのですが、一見なんの外傷もないように見える顔面までもが、真っ赤になっていました。

私があまりのことに固まったまま凝視していますと、扉が閉まりました。

バスの中は先ほど以上に生ぐさい血の臭いでむせかえりました。

それはそうでしょう。

この密閉された小さな空間に、大量の生き血を外気にさらした存在がいるのですから。

やがて老婆は、目を極限まで見開いて自分を見ている私など存在しないかのように前を向くと、ゆっくりと歩き出し、前から二番目、運転席の左側にある一人用の席に、まるでそこに座るのが当然であるといった振る舞いで腰を落としました。

血にまみれた老婆がそこに座るまでの間、若い男、中年の女性、そして幼女の前を通り過ぎていきましたが、三人の反応は同じでした。
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