俺の右横

ツヨシ

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いつものように通勤でオフィス街を歩いていると、前の方がなんだか変な様子だ。
歩く人すべてが一点を見ている。
全員が酷い表情を浮かべながら。
立ち止まって見ている人も少しはいたがほとんどがある一点を見るとひどく驚き、怯え、目をそらして顔を伏せ、小走りになるのだ。
俺はみなが見ている方に目をやったが、そこにはオフィス街のビルの壁があるだけだった。
――なんだ、みんななにを見てひどく驚いたり怯えたりしてるんだ。
その一点を見ている時、みんなの視線が移動していることに気がついた。
そしてその視線はある点に固定された。
それは俺のすぐ右横。
そこにいる多くの人の視線を総合するに、その目が見つめるものは俺の右横で間違いない。
俺は右横を見たが、そこにはなにもなかった。
――なんだ、いったいどうしたんだ?
周りの視線に耐え切れなくなり、俺はそのまま会社に向かった。
すると前から来る人すべてが俺の右横を見て驚き、怯え、その場を小走りで立ち去るのだ。
それでも俺は会社に行った。
会社に行っても会う人一人残らず、街中の見知らぬ人たちと同じ反応をした。
親しい同僚に「おい、どうした?」と声をかけたが、一言も返さずにその場からいなくなるのだ。
気づけば俺以外の全員が早退していた。
――もうどうにでもなれ。
俺はそのまま会社に残って仕事をし、定時で帰った。
帰る途中でも周りの反応は同じだった。
小さな悲鳴を上げる人もいた。
みんな俺のすぐ右横を見て。
帰宅して、アパートで一人思案に暮れていると、彼女がやって来た。
そういえば今日遊びに来ると言っていたが、それどころではなかったので忘れていた。
しかしアパートの戸を開けると、彼女はすぐに俺の右横を見て「ひゃっ!」と今まで聞いたことがないかん高い声を上げると、その場から走り去った。
彼女から別れのメールが来たのはそのすぐ後だ。
三年も付き合ったと言うのに。

       終
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