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第六章 取り戻しに行く俺
168、誕生(終)
しおりを挟む今日、どれほどこの日を待ち望んでいただろうか。
そんな俺の隣にはセシノが一緒にいてくれる。
そして今から行く場所には、マリーや、フラフ、アーゴ、それにレッドやディーネも待っている。
俺は今までの事を思い出しながら、モンスター牧場までの道を歩く。
ここに来てからの8年間、色んな事があった。
最初はまともに家すら建てられなかったのに、少しずつダンジョンマスターとしての知識をつけて、出来る事が増えていった。
そのおかげでセシノを助けることも出来たし、それが宿屋を開くキッカケにもなった。
そう考えると、セシノと会ってからの時間の方が濃密な時を過ごしていたのかもしれない。
それでもアイツとの8年間の思い出を、俺は絶対に忘れたりなんてしない。
フォグ……お前が覚えていなくても、俺がお前との記憶を覚えておくからな。
そう、俺が待っていたのはただ一体のモンスター。
生まれ変わった、フォグの事だった。
急ぐ気持ちを抑えつつ、ようやく着いたモンスター牧場の奥の奥。
そこには既に孵化したモンスターが沢山いた。
「まさか、もう産まれてるなんて事はないよな?」
「それはないと思いますよ、フォグさんの近くにはマリーさんが常にいると言ってましたから」
確かにセシノの言う通り、見渡す限りの場所にマリーはいない。
それなら何処にいるのかとキョロキョロと辺りを見回していると、レッドとディーネが俺たちが来ていることに気がついてくれたのだ。
「マスター、こっちだぞ!」
「マリーがもうすぐで産まれそうだと言うておる。急ぐがよいぞ」
「おう、今行く!」
そう言って2体に着いていきながら、俺はこいつらが元気でいてくれる事を嬉しく思っていた。
これは後から聞いた話なのだけど、ユリウスがダンジョンマスターをしていた頃、この二人が何をしていたかというと……。
あの時、やはりレッドは大怪我を負って動けなくなっていたそうだ。そんなレッドを間一髪で助けたのが、ディーネだった。
そしてレッドを助ける際にディーネも怪我をしてしまい、暫くはモンスター牧場でマリーと同様に治療をしていたようだ。
今もまだ完治はしてないが動けるようなったという事で、マリーの手伝いをしているらしい。
そういえばフラフとアーゴはその間何をしていたのだろうか?
正直気まぐれなフラフと命令に忠実なアーゴの事だから、何となくはわかるのだが……また時間があるときにでも、聞いてみようかと思う。
そんな事を考えている間に、レッドが一つの部屋の前で止まったのだ。
「ここからは孵化装置がある部屋なんだぞ。卵は繊細だから、さらに細心の注意を払えっていつもマリーに怒られるんだぞ!」
「それはお主が何度言っても、マリーの言う事を聞かないからではないか……?」
レッドはディーネの言った言葉をあまり理解してないようで少し首を傾げた。しかし直ぐにどうでもよくなったのか、ディーネの話を気にせずに扉を開けたのだ。
モンスターの孵化装置がある場所は、俺も今まで入れなかった。
それなのに、マリーが今回だけは孵化するところを一緒に見守って欲しいと、俺にお願いしてきたのだ。
きっとこの扉の向こうにはマリーがいる。
そしてフォグの孵化を待っているだろう。
俺は緊張しながらその扉を慎重に潜る。
そこには大量の卵が、鳥の巣のような物の上にのっていた。その更に奥に目を向けると、卵を産みだす装置が見えてきたのだ。
どうやらここでは、転生するモンスターの前回のステータス画面を見て調整しながら、新しいモンスターの卵を作っているようだった。
しかし今はそんな装置に気を取られている場合ではない。
俺は先を進むレッドたちに遅れないようにと、余所見をしないよう前だけ見ることにした。
そしてそこから少し歩いたところに、俺の知っているモンスターたちが何かを取り囲むように座っていた。
「マリー、マスターを連れてきたぞ!」
「レッド……ここでそんな大声を出してはいけないと、何度言ったらわかるのじゃ……」
「うぅ……俺様、そんな大きな声のつもりじゃないんだぞ?」
はぁ……。と溜息をつくマリーは、これ以上言っても仕方がないと思ったのか、レッドを無視して俺の所にきた。
「マスター、もう産まれるのじゃ。こっちに来て一緒に見守って欲しいのじゃ」
そう言って手を掴んだマリーに引っ張られ、フラフとアーゴの間に押し込まれた俺の前には、一つの卵があった。
「……これが、フォグの卵?」
「そうじゃ、いつ産まれてもおかしくない筈なんじゃが、中々出てこないんじゃ……もしかすると、誰かを待っておったのかもしれないのじゃ。良ければ少し声をかけてやって欲しいんじゃよ?」
マリーの言っている事が事実かはわからないが、俺を待っていてくれたフォグに声をかける。
「フォグ、迎えに来るのが遅くなってごめん。それにあの時も、助けられなくてごめんな。……それでここに来るまでの間、今までの事を色々思い出しててたんだけどさ、俺はフォグに助けられてばかりいたって気がついたんだ。でも、これからは俺が小さくなったフォグを守っていくって決めたから。確かに俺みたいなのじゃ不安かもしれない。けど俺だけじゃなくて皆お前の帰りを待ってるんだ。だからそんな卵の中に閉じこもってないで、そろそろ出てきてくれないか……?」
ーーーどうか、俺の声よ届いてくれ。
そんな願いが届いたのか、その卵は突然ガタガタと揺れ動き、今にも殻を破って飛び出してきそうだった。
ビシッと、卵にヒビが生える。
「…………!!」
そこから生まれたのは、小さなただのシルバーウルフ。
勿論ランクも低く、何の特性もない。
だけど、こいつは間違いなくフォグだと俺にもわかる。
フォグは俺を見てワフッと一声なくと、嬉しそうに尻尾を振っていた。
モンスターだから生まれてすぐに動けるのか、そのまま近づいてきたフォグは俺の手をペロペロと舐める。
もしかすると、俺に何かを感じるところはあるのかもしれないが、このフォグはきっと俺の事は覚えてないのだろう。
それでもフォグは、これからも俺の大切な仲間である事には変わりない。
気がつけば俺はフォグを抱きしめ、嬉し涙を流していた。
その後、俺がフラフたちに慰められている間に、マリーがフォグに必要最低限の手ほどきをおこなってくれた。
そのおかげで、その日のうちに俺はフォグを連れて宿屋に戻る事ができたのだ。
これでようやく宿屋に、全員が戻ってきた。
そして俺の日常は、何事もなかったかのように元通りに戻っていったのだった。
それからの俺といえば、最近はレインと小さなフォグに挟まれて寝ている。
コレがまた最高のモフモフでやめられないのだ。
そしてレインだけど、今はフォグの代わりに森エリアのリーダーをしながら、俺と一緒にフォグを強い子に育てるのを手伝ってくれている。
この先、ダンジョンはどうなっていくのかわからないが、暫くはずっとこのダンジョンで皆と生活するつもりだ。
何より魔王様にも許可をもらってしまったことだし、俺はきっと死ぬまでダンジョンマスターを続けると思う。
しかし困った事にナナが魔王様とした取引した内容が、ナナと俺が結婚する事だったのでそこをどう誤魔化そうかと、今現在ナナと話し合っているところだ。
そしていつかダンジョンを出られるようになったナナに、色んな世界を見せてやるのが俺の新しい目標になっている。
お前がナナとやりたくても出来なかったことを、羨ましいと言われて憎まれる程俺が代わりしてやるからな!
それが勝手に死んだクソ野郎にできる、俺なりの最後の復讐なのだから……。
ー 終 ー
ーー▼ーー▽ーー▼ーー▽ーー▼ーー
最後までお読み頂き有難うございました!
本当に最後の方は駆け足になってしまって、書けなかった部分もありますが、それでもこうして最後まで形に出来たこと大変嬉しく思います。
作者の感想などは近況報告の方にでも載せますので、気になる方は見てみて下さいね。
最後に、ここまで読んでくださった読者様へ
書き上げる事が遅くなり、本当に申し訳ありませんでした!
そして最後まで読んで下さったこと、本当に感謝致します。
また、機会がありましたらお会いしましょう!
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