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第六章 取り戻しに行く俺
167、結婚式
しおりを挟む「「「おめでとうございます、イアさん!! エノウさん!」」」
「ありがとう、皆」
そう返事をしたのは、純白のウェディングドレスに身を包み、幸せいっぱいな顔をしているイアさんだった。
エノウさんは少し恥ずかしいのか緊張からなのか、最初からずっと固まってしまっている。
今この宿屋では、簡易的に挙式を終えたイアさんとエノウさんが、結婚式の披露宴としてガーデンパーティを始めたところだった。
ここには『黄昏の宴』のファミリーだけではなく、イアさんの親族や知り合いまでいる。
正直、俺が今まで知り合った人全てがここにいると言っても差し支えないぐらいの規模になっていた。
何故、俺の宿屋なんかで?
と最初は思ったが、話を聞くと何でも結婚したら二人は一緒に引退するらしい。
しかも、その後はここで薬屋を開くというのだ。
俺は許可した記憶がないので、多分セシノが俺に内緒で事を進めたようだ。
確かに、俺に取引とか家賃とかの話をされてもわからないけど……セシノには、もう少し俺を頼って欲しいと思ってしまうのは、親心的な感情なのかもしれない。
そんなわけで二人がここで結婚式を挙げる事自体が、宣伝になるそうだ。
その為、イアさんはパーティそっちのけで先程から、新しく作ったポーションなどの試供品を実演して配ったりとかしている。
どうせここにいるのは殆どが冒険者なので、割と盛り上がっているから良いのかもしれない。
隅っこの方を見ると、マヨとクラウさんが互いに料理を食べさせ合うという、イチャイチャしてる姿が目に入った。
クラウさんといえば、あの事件の後に自首をしたのだけど、マヨさんの貴族階級という名の権力によってすぐに釈放され、今は罪を償う為にギルドでタダ働きをしているらしい。
マヨさんも貴族とはいえ、無理矢理親に頼み込んだ事もあって家を勘当されるのと引き換えに、願いを叶えてもらったそうだ。
そして今は二人で住んでいるとか聞いたけど、あれだけラブラブなのだから上手くいっているのだろう……。
いや、決して俺は別に羨ましいとかは思ってはいない。
そんな二人をじっと見ていたからだろうか、知らぬ間に俺に近づいてきたイアさんが、コソッと耳打ちしてきたのだ。
「あら、バンもそろそろお相手が欲しくなってきたのかしら……いい年齢なんですし、早く結婚したらどうかしら?」
「何言ってるんですか、俺に相手なんて……」
「ふーん、そうかしら……? バンに気がありそうな女性なんて、沢山いそうですのにねぇ?」
そう言うイアさんの目線の先には、セシノにアンナ、それにナナまでもいる。
しかもタイミング悪く目があってしまい、俺は視線をそらす。
どうせまたイアさんにからかわれているだけだろうと、俺はため息をついてしまう。
「はぁ、何言ってるんですか……?」
そんな様子の俺を見て、イアさんはコレだから駄目な男は……みたいな顔をした。
「とにかく俺は、まだ結婚する気もその相手もいませんから!」
そう言って、イアさんから逃げ出そうとして後ろを向いたのにーーー。
「バンさん!」
「バン!」
そこには待ち構えたかのように、今日の為に可愛く着飾ったセシノとアンナの姿があった。
二人は結婚式に感化されたのか、興奮気味に俺に詰め寄ってきた。
「この際だから、あんたも早く結婚したら? ほら、近くにこんなに良い女もいるんだし……」
そう言いながら、アンナは俺の右腕を掴む。
俺の腕に当たってるものの事は意識しないようにしていたら、今度は反対の腕をセシノに掴まれた。
「アンナさん。私、負けませんから!」
何にだよ!?
そう思ってる間に、気づけば俺は独身を拗らせた女たちに囲まれていた。
その目は、獲物を狙う野獣のようだった。
どうせ、巷で英雄とか言われてるせいで良物件扱いされてるだけだろうなぁ。
そう思った俺は助けを求めて、割と近くにいたナナに向けて手を振る。
しかしナナは楽しそうに俺に手を振りかえしてくれるだけだった。
そして、そんな様子を見ていたイアさんは何かを思いついたのか、楽しげに言い放つ。
「そうだわ~! 面白そうだから、今からバンの嫁候補を決める大会を開催するわよ~!」
「はぃいいい!!?」
こうして特に嫁候補なんて決まる事もなく、俺はオモチャとして遊ばれるだけ遊ばれて、結婚式は幕を閉じたのだった。
疲れたけど、イアさんたちの結婚式を盛り上げる出し物になれたのならよかった。
結婚式の後、二次会は深夜まで続いた。
ここはダンジョンだというのに、酔っ払った人々が外でそのまま寝ている。
不用心だな、なんて思いながらもここに帰ってきたのだという、実感を噛み締めながらその景色をセシノと見ていた。
「……そういえば、バンさんはコレからどうするんですか?」
「そうだな……とりあえず宿屋の復興とやり残した改修をして、このダンジョンをもっと発展させるのが一番の目的かなぁ?」
「やっぱり、そうですよね。あとコレは聞いてもいいのかわからないんですけど、この前現役の魔王様がいらしてたんですよね? 何か言われなかったですか……?」
確かにセシノの言う通り、魔王がこのダンジョンへとやってきたのが三日前の事だ。
多分お忍びできたのだろうが、魔王はモンスター牧場の家に飾ってあった肖像画と全く同じ顔をしていた為、俺にはすぐにわかったのだ。
それで、何しにきたかって言ったら……。
ユリウスの事についての謝罪と、それを止めてくれた事への感謝。そして今後のダンジョンと、ナナについての話だった。
ユリウスやナナを捨てたことについても、魔王様は知らなかったそうでナナに直接謝っていた。
そしてナナをこのダンジョンの後継者としたいので、直々に引き取りたいとも言ってきたのだ。
でもそれは、ナナが自ら断ってしまった。
そしてナナは、このダンジョンの管理を俺が引き続き出来るようにと、交渉してくれたのだ。
そのとき、どんな交渉が行われたかは俺には詳しく教えてくれなかった。
でもナナのおかげで俺はここのダンジョンマスターを続けられているようなものなので、感謝するしかない。
「まあ、セシノが心配するような事は何もなかったよ」
「それ、本当ですか?」
セシノは相変わらず心配性だなぁと、俺はセシノの頭を撫でてやる。
「なんか、いつもそれで騙されてる気がします……悔しいけど、許しちゃうんですよね」
「はは、本当に何もなかったから大丈夫だって。それにさ……アイツの願いを叶える方法も、そのうち考えないといけないよなぁ」
それは、ユリウスが俺に託した最後の願い……。
『ナナに色んな物を、世界を見せてやってほしい』
それを叶えるには……まだまだ時間がかかりそうなんだよなぁ。
そう思いながら俺は、地面で寝ている冒険者へと布をかけているナナの姿を目で追ってしまう。
本当に気が効く良い子だよなぁ……。
そんな俺をじっと見ていたのか、気がつくとセシノがその視線を遮るように俺の前に立っていた。
「どうした、セシノ?」
「えっと、その……ついに明日なんだな、と思ってですね……」
無理矢理話題を変えられた気がしたが、その話は俺にとって今一番楽しみにしている話だった為、食いついてしまう。
「ああ、モンスター牧場の事だよな! そのことなら、マリーが言うから間違いないだろうな」
今日、イアさんの結婚式という一大イベントをしていたというのに、マリーはここにいなかった。
実はここ数日間、マリーはずっとモンスター牧場にいた。
何故かといえば、ユリウスやユグドラシルの丘のメンバーが大量にモンスターを殺してしまった。その為その数のモンスターが一度に転生してしまうので、マリーはその様子を見守らなくてはならなかったのだ。
そう、俺が楽しみにしていたのはモンスターの転生だ。
何故なら、俺はあの日からずっとこの時を待っていたのだからーーー。
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