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第六章 取り戻しに行く俺

166、平和

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「あぁ、モフモフと一緒に眠るハンモックは最高だ……」
「マスター、モフモフ好き、変わらない?」

 俺の腕の中にいる綿毛型のモンスターは、俺の腕の中で嬉しそうに聞いてくる。

「ああ、やはりフラフほどモフモフで可愛いくて最高のモンスターはいないな!」
「マスター!!」

 俺はギュッとその綿毛を抱きしめる。
 フラフのモフモフは気持ちいい。

「あぁ、ここは癒しのモフモフ天国だ!!」

 なんてやり取りを前にもしたような気がするが、俺は気にしない。
 何故なら、この日常が戻ってくるのを俺は夢見て頑張ったのだから……。


 そんな俺は今、以前と全く変わってないダンジョンを見て、癒しの時間を過ごしていた。
 遠くから聞こえる獣のような唸り声に、川の流れる音。鳥の囀りや風の音なんてものはないけれど、だからこそここがダンジョン内であると実感して嬉しくなってしまう。

 なんて、平和な日々なのだろうーーー。

 多分そのうち仕事をしろと怒られるだろうけど、それまではゆっくりしたっていいじゃないか。
 この間まで、俺は後片付けに追われていたんだから……。

 それがなんの片付けかといえば、それはもう『ユグドラシルの丘』の件についてに決まっている。

 俺がダンジョンマスターになって倒れたあと、気がつくとギルドにいた俺はその後の処理を手伝わされていたのだ。
 そのおかげで、その後どうなったのかも全部知っている。

 まず『ユグドラシルの丘』については、不正や裏で悪い事をしていた事をギルドに暴かれ、その日のうちに完全解体という形で解散になった。
 しかし、それに加担していた人たちは精神面が魔法によって操作されていた為、そんなに重い罰を受けなかったようだ。

 そしてその魔法をかけたのは、やはりラレンスだった。
 どうやらラレンスが戦意喪失したのと同時に、中央ギルドへと進軍していた『ユグドラシルの丘』のメンバーは、何故自分がこんな事をしているのかわからないと、皆動きを止めたらしい。
 そのおかげで、ギリギリ争う前に進軍を止める事ができたようなのだ。
 つまり俺たちが無理してダンジョンに入った意味はあったという事だろう。

 そんなわけでラレンスは今回のことや『暁の誓い』でのことなど、全て暴露し自首する形となった。
 一度捕まる形になってしまったが、彼女はユリウスに無理矢理やらされていたというナナの供述によって罪が少し軽くなっていた。今は罪を償う為に精神病棟で、彼女によって精神がおかしくなってしまった人の介護や、治す方法を探しているようだ。
 そんなラレンスに、何故かシェイラが毎日会いに行っているというのが、不思議な事だった。

 あの時、一体何があって二人の関係性がどう変わったのか……気になるような気はするが、二人の仲睦まじい姿を見たら幸せそうだしと、俺は気にしない事にした。


 余談だが、セシノの知り合いの女の子であるウラについての話をしよう。
 ウラはマジーとノットールに連れられダンジョンを出てから、ウラの主人である男の悪事を調べる為に準備をしていたらしい。
 その最中に『ユグドラシルの丘』が犯した事件が暴かれた事で、何人かの奴隷商人が夜逃げをしようとしていた。その噂を知った2人は、その奴隷商人を上手く捕まえる事が出来たらしい。
 そこから芋づる式で他の奴隷商人までもが捕まり、その商人たちの顧客リストに載っていたウラの主人は、捕まえる事は出来なかったが代わりに奴隷を解放する事になったそうだ。
 その為、シサガ、レータは救われたのだった。
 
 そして2人は『ユグドラシルの丘』が解散した事もあって、今後奴隷を解放する組織を新たに立ち上げたらしい。
 2人からは、その組織にお面の英雄の肩書きを使わせて欲しいと言われたのだけど、俺は快くその使用を許可した。

 だって今の俺には、もうお面なんてひつようないしな……。


 そう俺はもう、バンテットなんて仮名じゃなくてバンとして生きているから。

「……バンさん、バンさん! うーん、寝ているのでしょうか……?」

 つい最近の事なのに懐かしい気がしてしまうなんて思っていたら、誰かが控えめな声で俺を呼んでいることに気がついたのだ。

「バンさん! バンさんってば!」
「あー、はいはい。起きてるよ……て、ナナが俺を呼びにくるなんて珍しいな」

 俺を必死に起こしに来ていたのは、あの俺を殺そうとしていた男であるユリウスの妹、ナナだった。

 今やユリウスは極悪人として処刑されたということになっている。
 実際は処刑される前に、自害したようなものだけどな……。
 ナナはそんな男の妹というだけで、間違いなく後ろ指を指される人生を過ごさなくてはならないだろう。

 ナナ本人は、自分のせいで色んな人の人生が滅茶苦茶になってしまったのだから、それでも構わないと言っていた。
 だけど俺は、死ぬ間際のユリウスにナナを頼むと任されてしまったのだ。
 そんなわけで町では生きていけないナナを、ダンジョンなら隠す事ができるのではないかと皆に説得されたのもあって、ナナを引き取る事を決めた。

「バンさん、またボーッとしてます。今日は大事な日なんですよ。早く行かないと、セシノさん……あと、アンナさんにも怒られますよ!」
「あー、そうか……今日からアンナも働くんだったな……」

 俺はダンジョンに戻ってきてから今日までの間、宿屋の修理をしていた。
 それにはセシノや、他のモンスターも勿論手伝ってくれた。
 ナナもその様子を見ていたのだけど、全く戸惑う事なく一緒に作業をしてくれたのだ。さすが魔王の孫なだけあって、一応ダンジョンマスターの知識はあるのだと思う。

 そんなわけで宿屋は今日から再始動するわけなのだけど、有難いことにセシノはまた一緒に働いてくれる言ってくれたのだ。
 そしてアンナについてだけど……。
 冒険者をやめたアンナは、俺と一緒に働くからと勝手に言い出し、数日前から居候を始めてしまったのだ。
 相変わらず、自分勝手な性格に俺は辟易してしまいそうだったが、あれでも可愛い物が好きでインテリアの飾り付けをするのに凄く役に立ったので、出て行けと文句も言えなくなってしまった。

 そして今、ナナが俺を急かせている理由がもう1つある。
 それは今日がイアさんの結婚式であり、開催場所が俺の宿屋だったからだ。
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