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第六章 取り戻しに行く俺

163、兄へ(ナナの手紙より)

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 私のたった一人のお兄様へ


 始めてお兄様へ、私の気持ちを伝えたいと思い手紙を書く事にしました。
 今書いたところで、お兄様に届くのかはわからないのですけど……でも、最後にお兄様にこれだけは知っておいて欲しかったんです。


 お兄様、

 私は貴方がいてくれたから、幸せでした。


 そんな事を言ったら、お兄様は苦しい闘病生活だったのに何を言っているんだと言いそうですね。

 でも私はお兄様のおかげで色んな人に恵まれて、本当に幸せだったんです。


 ねぇ、お兄様は……私といて、本当は幸せでしたか……?


 お兄様は自分のせいで私がこんな病気になり、家を追い出されたのだとずっと苦しんでいましたよね。
 私はその事がとても悲しかったし、悔しかった。

 だって、お兄様は世界で一番強くてかっこよくて、誰よりも優しい心をお持ちなのを私は知っていたんですよ……。


 ふと、思うんです。

 私が生まれていなかったら、お兄様はもしかしかしたら家を追い出されてはいなかったかもしれないなんて……。
 そうでなかったとしても、普通に最強の冒険者として真っ当な人生を歩めていたと思うんです。

 悪事に手を染めていない、普通の冒険者に……。


 お兄様は必死で隠そうとしていましたけど、私はお兄様が私の為に何をしていたのか全て知っていました。

 私には少しだけ未来を見る力がありましたから。
 自分に関する事は見えなくても、一番近くにいたお兄様については、よく見えてしまうんですよ?

 だからお兄様が私の為に悪い事をしているのは、わかっていたんです。

 ……そして、そのせいでお兄様が私のために死んでしまうことも、全部知っていたのです。


 実は私がまだ少し動けていた頃は、その未来を変える為に足掻いたことも何度かあったんですよ。
 その時はホージュやクロウに手伝ってもらい、頑張った甲斐あって何とかお兄様の暴走を止める事が出来ました。

 ですがその後、寝たきりになってしまった私の体力では、もうお兄様を止めるどころか声すら届ける事が出来なくなってしまいました。

 やはり、どう足掻いても未来は変えられない。
 運命は収束する物であり、抗えない物なのですね……。


 最後に、お兄様に聞きたい事があるんです。

 家を追い出されたあの日……お兄様と誓ったこんな約束を覚えていますか?

「お兄様……私が苦しくて死にそうでもう耐えられなくなったら、一緒に世界を見て回って欲しいんです。そんなふうに世界を巡りながら、お兄様に抱きしめられて眠るのが私の理想な死に方なのです。だから、どうかその願いを叶えてくださいね」

 その時のお兄様は少し困ったような顔をしながらも、私とその約束を守ることを誓ってくれましたよね?


 本当はここ数年間、私はいつ死んでもおかしくなかったんです。それなのに限界を超えて、無理矢理延命をしてもらっていた事はわかっていました。
 でも私としては、お兄様が約束さえ守ってくれるのなら……いつ死んでもよかったんですよ。

 それなのにお兄様は、最後までその約束を守ってくれませんでしたね。
 私はその事を、一生恨み言のように言い続けると思います。
 でもそれはお兄様が悪いので、仕方がありませんよね……?


 そして最後に、

 いつの日からか、お兄様は私がどんな思いでこの闘病生活を生きているのか、その気持ちを知ろうとしてくれなくなりましたね。

 どうして聞いてくれなかったのですか?

 私の願いは、たった1つだけだったのに……。


 お兄様は、嘘つきです。

 だけどララは、そんなお兄様が大好きでした。


 だから私をひとり残して置いていった事、お兄様が絶対に後悔するほど長生きしてさしあげますから……。

 どうか空の上から、指を咥えて見守っていてくださいね。




      貴方を誰よりも敬愛する妹のララより
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