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第六章 取り戻しに行く俺

161、総攻撃

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「……クラウ、ラレンス……何故、君たちがそちら側にいるのかな?」

 ユリウスの質問に、一瞬俺まで頷きそうになってしまう。
 一体何があったら二人も寝返る事になるのか、本気でよくわからない。
 そして、クラウが引っ張っている檻の中に魔法帽が見えることから、あの中にはホージュがいるようだ。

「もうやめましょう、グラシル……いえ、今はユリウスと呼んだ方がいいかもしれないわね。アナタも既に気がついているのでしょう? このままでは何も成し遂げられない。待っているのは滅亡だけなのよ? それにナナを救う方法だって、まだ他に探せば……」
「俺たちにそんな悠長な時間はない! ……ナナを救う方法を求めて十数年、ナナはもう限界なんだ! これ以上待つなんて出来ない、もうやるしかないんだよ……」
「ユリウス……」
「それでも二人が俺を止めたいのなら、好きにしたらいい。だがここまで来た俺は、もう止まるわけにはいかないんだ!」

 ユリウスは再び剣を握ると、クラウとラレンス目掛けて剣を振り回す。
 クラウはホージュの入った檻を前に出し、ユリウスの攻撃を止める。

 俺はその様子を見ながら、何故元仲間同士で戦いはじめたのかと、よくわからなくなっていた。
 まあ、でもそのおかげでイアさんに治療してもらう時間ができたんだけどな……。

「バンさん……痛くないですか? 本当に大丈夫なんですか!?」

 そして先程からイアさんが治療をしてくれてる横では、セシノが泣きそうな顔で俺の足を見つめ、何度も大丈夫かと聞いてくる。

「何度も言ってるけど、本当に大丈夫だって。こんな優秀なイアさんに治してもらってんだから、すぐに治るさ」
「うぅ……わかりました。なら、私にも何か出来る事はありませんか?」
「……それならセシノは、レンさんの麻痺を治す薬を持って行ってくれないか?」

 まだ心配そうな顔をしながらも俺の言葉にコクンと頷いたセシノは、自分のカバンの中から麻痺治しの薬を取り出すと、レンさん所まで行き薬を飲ませていた。

「バン。あっちは大丈夫だろうし、俺とマヨはクラウたちの手伝いに行ってくる」
「それなら、私も行くわ!」

 そう言って、サバンとマヨ、アンナはクラウたちを援護しに行く。
 これで俺たちは5人、相手は1人になった。
 間違いなく形勢は逆転している筈なのに、大剣を振り回すユリウスの間合いには、誰も入り込めていないようだった。

「何あれ……人間なの?」

 そうポロっと呟いたのは、イアさんの横にいたシェイラだった。

「ランク10を人間って言っていいのか、俺にはわからないな……。それにしてもシェイラ、一体何を持ってんだ?」
「あ、コレのことですか?」

 俺はシェイラが大事そうに持っている、ボールのようやなマジックアイテムらしきものが、先程から気になっていた。

「これはお姉ちゃ……ラレンスさんに、何かあった時に使うから持って待っててねと言われたので、しっかりと持ってるんです」
「そうか……」

 何かわからない物なのに、大事に持ってるのかよ……。
 俺の知らない間に、ラレンスを全面的に信頼しているシェイラの姿に、本当に大丈夫だろうかと少し心配になってしまう。
 そしてそんな話をしている間に、俺の治療は終わったようだった。

「バン、終わりましたわ……」
「い、イアさん? 凄く疲れてますけど、大丈夫ですか……?」
「聖術はとても精神力を使うんですの。暫くしたら戻りますから心配しないで下さいな」

 魔力を使わない聖術には別の力を注がないと使えない。それが精神力という名の祈りの力だ。
 集中力が凄まじく必要な為、もし使えたとしても使う事を嫌がる人は多い。

「イアは暫く休んでろ」

 そう言いながら此方に歩いてきたのは、レンさんだった。
 すっかり麻痺が抜けたからなのか、何故かセシノを抱えている。

「俺とバンはあの野郎の所に行く。セシノとシェイラはイアの事を見ていてくれないか?」
「「はい、わかりました!」」

 力強く頷く二人を置いて、俺とレンさんは他の仲間が戦っている所に向かう。
 その最中、俺は先程あった事をレンさんに伝える事にした。

「そうだ、レンさん。俺……ユリウスの弱点を見つけたかもしれません」
「なんだって?」
「正直言って卑怯な方法になるとは思うんですけど……ユリウスは妹さんに攻撃がいく事を一番恐れていると思うんです」
「ああ、成る程……妹を人質にするんだな?」
「いえ、違いますよ! 妹さんに攻撃を仕掛けるフリをすれば、ユリウスの動きに隙が出来ると思うんです」

 俺の提案にレンさんは少し考えると首を振る。
 やはりこんな卑怯な方法はダメかと思っていると、レンさんは思ってもみなかったことを言い出したのだ。

「いや、フリじゃダメだ」
「え? いや、そしたら妹さんが……」
「もちろん、死ぬ気で奴は助けようとするだろうな。それで助けられないのなら、それまでの話だ。忘れてるようだが、全ての元凶はあの兄妹が起こしているようなものだ。終わらせるのなら、いっぺんに終わらせてしまった方がいいに決まってる」
「確かに、そうなんですけど……」
「責任なら、俺が全部取る。だから、バンに作戦があるというのなら言ってくれ」

 その力強い声に少し迷ってしまった俺は、今も戦っている仲間たちを見る。
 自分の信念を曲げて仲間同士で戦う者、町の人たちを救いたくて戦っている者、俺みたいな人間を助ける為に手伝ってくれる者。
 色んな人たちがここにはいる。

 それなら俺だって、ダンジョンを取り戻す為の犠牲を迷ったりしてはいけないのだろう。
 俺はこの8年間、いつも何処かで誰かがどうにかしてくれる。だなんて、マリーたちに頼った生活をし続けていた。その結果、俺はだいぶ甘ちゃんな性格になってしまったのかもしれないな……。

 でもここからはアイツらに頼るんじゃなくて、頼られる人になるように俺も変わらないとダメだ。
 そう思った俺はレンさんへと、作戦を話したのだった。

 作戦は簡単だ。
 6人でユリウスの気を逸らしてもらってる間に、俺が妹さんのいるベッドの方へと近づいて攻撃をする。ただそれだけだ。

「それなら、お前はこの場所に残れ」
「え、でも逆に目立つような……」
「そこは、コレを持ってれば大丈夫!」

 そう言うと、レンさんは何処からか大きな盾を取り出したのだ。
 亜空間ボックスか服の何処かに入ってたんだとは思うけど、その盾が俺一人すっぽり隠れられそうなサイズだった為、俺は驚いてしまう。

「暫くここで隠れてろ」
「……やっぱり、そういうふうに使うんですね」
「ああ、そうだ。お前が隠れてる間に俺たちはアイツの気を引くから、お前は奴の気がそれたタイミングでここを出ろ。そうすればアイツはバンがまだここにいると思って、お前が抜け出した事に気がつかないだろうからな」
「わかりました……気付かれないよう、気をつけます」

 そんなわけで俺は、暫く盾の中からユリウスの様子を見る事にしたのだ。


 レンさんはサバンたちと合流すると、俺の作戦をすぐに伝えてくれたようだ。その為、先程に比べて明らかに6人の動きが変わったのがわかったのだ。
 それでも恐ろしいと思ったのは6人を相手にしても、ユリウスの動きにはまだ余裕があるように見えた事だった。
 しかしレンさんが指示を出す事で、連携が取れるようになってきたのか動きは格段に良くなってきている。

 ユリウスもその事に気がついているのか少しずつ焦りが見られ、俺の方へと気が向けなくなっているようだった。
 きっとチャンスは今しかないそう思った俺は、ベッドに向けて一目散に走り出す。
 右手にはマリーからもらったマジックアイテムを……左手にはフォグの形見である割れた魔石核を取り出していた。
 これは一か八かの賭けだった。

 魔石核は魔力の塊であり、そのままであればマジックアイテムの素材として使えるが、割れてしまうととても不安定な素材になる。そのため扱いを間違えると、爆発物へと変わってしまうのだ。
 しかし俺はその力をコントロールするために、風のマジックアイテムを利用して爆風を起こそうと思っていた。

 射程距離まで一気に詰め寄った俺は、割れた魔石核を取り付けた風のマジックアイテムを。勢いよくベッドの方へと投げつける。

「ナナ!!!」

 ユリウスがそれに気がついた時には、もう手遅れだった。
 マジックアイテムは、一直線にナナの方へと向かって飛ぶ。
 反動で弾かれた俺は、尻餅をついてしまう。
 そしてそれがベッドへとたどり着いた瞬間、爆発音と衝撃波が襲ってきたのだった。

「ナナ! ナナっっ!!!!!」

 その叫び声は、衝撃波で起きた砂煙の向こうから聞こえていた。
 そして砂煙が晴れた頃、俺はそこに立っていた予想外の人物に驚いて目を見開く。

「ユリウスったら、大事な時に役に……立たないんだから。かはっ……ナナの事……頼んだ、わよ……」

 そこにはいつのまに檻を抜けた出したのか、ホージュがナナを庇って立っていたのだ。
 その服はボロボロになり、体の至る所から血が噴き出している。誰がどう見ても、もう助からないのは一目瞭然だった。
 倒れかけたホージュを抱き止めたグラシルは、信じられない物を見るように呆然としていた。

「……ホージュ? ……ホージュ…………嘘だ、嘘だぁああああああ!!!!!!」

 その瞬間、叫び声とともにグラシルから計り知れない力が溢れだした。

「なんだ、コレ!?」
「これは呪術によって作られる呪力網線ですわ! 皆さん、何が起こるかわかりませんから、体制を立て直して……!」

 イアさんの声はなんとか聞こえていた。
 しかし広間全体は一瞬で黒い霧に覆われてしまい、もう何も見えなくなってしまったのだった。
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