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第五章 襲来に備える俺

152、今後は

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 レンさんに連れられ『カルテットリバーサイド』を出た俺は今、『暁の宴』の会議室にいた。
 しかし一緒に戻ってきた二人は、同じ部屋にはいない。アンナが今も気を失ってる為、セシノが別の部屋で様子を見てくれているからだ。


 そして今、俺の話を聞いてくれてるのは『暁の宴』のキングであるレンさん、クイーンであるエノウさんとイアさんの3人だった。

「そんなわけで、なんでか俺は『ユグドラシルの丘』のキングに命を狙われてたわけなんですよねぇ……」

 それぞれの顔を見るに驚いているのはエノウさんだけで、他の二人はなんとなくわかっていたような顔をしていた。

「そうでしたのね。バン、あなたが死ななくて良かったですわ。……それよりも、キング。ここのところ暫く見ないと思っていたら、いつの間に『カルテットリバーサイド』にいたんですの?」

 イアさんの言う通り俺もその事は気になっていた為、レンさんの方を見てしまう。

「うーん、そうだな。実はお面の英雄というのが、バンと気づいたお前らの後をコッソリついて行ってから、ずっと『カルテットリバーサイド』にいたかな?」
「はぁ? つまりは私とイアがあの宿屋に泊まった日から、ずっとお前はあそこにいたというのか?」

 レンさんの行動に、エノウさんも思わず声を荒げていた。

「いやぁ。バンが生きててくれたのが嬉しかったのと、面白いことしてるなと思ってコッソリ見てただけだって」
「……え」

 それはつまり俺がモンスターと仲良く過ごしているところも見られていた、という事だろうか?

「まあ、詳しいことは聞かないから安心しろ……それに今は、そんなことより今後のことだろ? バン、お前この後行くところはあるのか?」
「いや、そのー。8年間ダンジョンに住んでたんで、今の俺には行くところはないですね……」

 こうして自分で話す事で、もう俺には帰る場所がないのだと実感してしまう。
 そんな落ち込みそうになっている俺の肩に手を置いて、レンさんは明るく言った。

「だったら、俺の代わりに、『暁の宴』のキングにならないか?」
「……はい?」
「「ええ~~!!!!!」」

 こうして俺の間抜けな声と、イアさんとエノウさんの驚く声がその部屋に響いていたのだった。

 レンさん曰く、

「俺はもう30を過ぎてそろそろいい歳だし、引退を考えてる。それはここにいるイアとエノウも変わらないと思うんだ。だがな、俺がずっと引退出来なかった理由が一つある。俺の満足する後継者がいなかったからだ。その点、お前ならお面の英雄と言われる実力もあるし、俺はお前のスキルを高く評価している。この際だ、ダンジョンのことは諦めて『暁の宴』を新しい家にしないか?」

 急にそんな事を言われて困ってしまった俺は、少し考える時間が欲しいと保留にしてもらったのだった。


 その後、少し冷静になる為に俺はセシノと町に出ることにした。
 念の為、お面を付け直して町をブラブラと歩く。
 前と同様にお面のせいなのか周りからの視線が気になるが、そこは気にしないでおこう……。
 そんな俺に、ある男が声をかけてきた。

「あ、あんた。あの時のお面派仲間の!」

 振り向いた先には爆発事件の時に会った、親切なお面派の人たちがそこにはいた。

「ああ、あの時の! あのときは、ありがとうございました。おかげで助かりました」
「いや、礼を言わなきゃならないのは俺たちの方だよ」
「なんたって、アンタがお面の英雄なんだろ!?」
「……へ?」

 何でバレてるのかと、驚いた俺とセシノの前に男たちは一つの紙面を掲げる。

「『お面の英雄の正体は、この男だった……?』って、なんで俺のお面をつけた顔が載ってんだ!?」

 それじゃあ、さっきから感じる視線は……この紙面のせいだったのか!
 そう思って恥ずかしくなってきた俺の前に、突然誰かが走り寄ってくる。

「ふふん。それに情報提供したのは、私ですよ?」

 そう言いながら現れたのは、セシノと元同じギルドにいたシェイラだった。

「セシノもなんだか久しぶりね。そっちで問題があってから、なかなか手伝いに行けなかったけど……大丈夫だった?」
「シェイラさんこそ。というか、どうして『お面の英雄』の情報提供なんてしたんですか……?」
「そんなの、決まってるわ。私を救ってくれた『お面の英雄』を皆に知って欲しかったの……もしかして、バンテットさん的には迷惑でしたか?」

 どうもシェイラは、持っているスキルと同じで思い込んだら突っ走る性格らしい。だからといって、俺に迷惑をかけようと思って行動したわけじゃない事はわかっていた。

「もう既に出てる紙面について、俺は文句を言うつもりはないよ」
「それなら、よかったです。これでバンテットさんがお面派のリーダーになれば完璧ですね! 皆さんもそう思いません?」
「……いや、ちょっとまて。どうしてそんな話になるんだ?」
「だって、前のリーダーは偽者だったわけですから、それなら本物であるバンテットさんがリーダーをやるのは、至極真っ当だと思いませんか?」

 確かに前はお面の英雄の偽物がリーダーをしてはいたが、だからと言って俺がそれを引き継がないといけないわけじゃない筈だ。

「確かに、シェイラちゃんの言う通りだな!」
「本物がリーダーになれば、俺たちの仲間も増えるに違いねぇよな!」

 なんて俺とセシノを置いてけぼりにして、男たちは勝手に盛り上がっている。
 そして、その場で断る事なんて出来なかった俺はとりあえず逃げ去る様に、その場を後にしたのだった


 そんなわけで町に居づらかった俺は、一人で『暁の宴』に戻ってきていた。
 セシノはシェイラに用があったようなので、既に町で別れている。

 そして今、アンナの様子を見にきた俺はこの部屋に入った事に後悔していた。
 何故ならば、先程からすっかり元気になったアンナに付き纏われているのだから……。

「……まあ。確かに、アンタに嵌められたのはムカつくけど、コレで昔のことは全部流してくれるんでしょ?」
「ああ、さっきから何回もそうだって言ってるだろうが……」

 これで何度目の確認だろうか、俺はうんざりしながらアンナに返答する。

「おかしいわね、そんなに聞いたかしら? でも、わかったわよ……私はアンタを信じるし、もう聞かないわ」
「はは……アンナから俺を信じるなんて言葉が出るなんてな、俺の方が信じられないなぁ」
「もう、私は真面目に話してるのよ!」

 そう言って俺の服を掴んだアンナに、俺は怪訝な顔をしてしまう。
 しかしアンナは、そんな俺を見て何かを言いたいのかモジモジし始めたのだ。

「………………」
「……なんだ、他に言いたい事があるならハッキリ言えよ」
「えっと、その……」

 上手く言葉がでないからなのか、アンナの顔は徐々に赤くなっていく。

「……ねぇ、バン。アンタ今、行き場がないって聞いたけど、本当……?」
「ああ、そうだけどそれがどうした?」

 まさか俺が惨めだと蔑みたいのかコイツは……?

「だったらさ……ここから何もかも捨てて、遠いところでさ……私と、結婚しない?」
「…………!?」
「べ、別にふざけて言ってるわけじゃないわ! 私は本気で……本気でバンのことが好きだからそう言ってるのよ! ……それに今すぐ回答が欲しい訳じゃないの。だから、よく考えて返事して!!」

 アンナは恥ずかしさのあまり、俺を部屋から放り出す。
 そして完全にフリーズした俺が再び動き出せたのは、帰って来たセシノに声をかけられた後だった。



 その夜、俺はセシノに相談していた。
 ここは『暁の宴』にある俺に割り当てられた部屋であり、俺とセシノはベットを椅子代わりにして並んで座っている。

「セシノ、俺はいったいどうしたら……」
「『暁の宴』のキングに、『お面派』のリーダー、更にアンナさんの『お婿さん』ですか……バンさんは『ダンジョンマスター』ではなくなりましたが、それでも沢山の人に必要とされてる人なんですね」

 なんだか一瞬だけ棘のある言い方をされた気がしたが、そこは気にしないようにしよう。

「もう俺はダンジョンには戻れないし、復讐が終わった俺には今後何か目標がある訳じゃない……。あえて言うなら、グラシルに殺されないように生きる方法を探すのが、一番やらなきゃいけないことのような気がする」
「…………あの……バンさんは、本当にダンジョンにはもう戻れないと思っているんですか?」
「いや、だって……本当の後継者が現れたんだから、俺はお役御免だろ?」
「でもそれなら、本当に未練はないって言い切れるんですか?」

 そう言われてもなと思いながらセシノを見ると、山吹色の瞳は俺に何かを訴えているようにみえたのだ。

「私は、バンさんが本当にやりたい事であればそれを後押しするつもりです。でもそれが本当にやりたい事じゃないのなら、私はそれを応援できません」
「そんな事、言われてもな……」

 俺が一番やりたい事ってなんなんだよ……。
 確かにさ、ダンジョンの観光地化計画はは途中だったけど……あの時はマリーやセシノに他の仲間たちやマヨとかもいてさ、皆でワイワイ飾り付けとかして楽しかったよな。
 あの日々が既に懐かしく感じてしまった俺は、本当は出来る事ならまだまだ続けたかった、なんて思ってしまったのだ。

 そして俺はハッとする。
 何故ならば、俺が本当にやりたかった事が何なのかこの時に気づいてしまったのだから……。

「ああ、そうか……そうだよな」

 やっぱり俺は、あのダンジョンが好きなんだ。
 奪われたからと言って、簡単に諦めていい事じゃなかったんだ……。
 それなら、俺がやることは一つしかないよな!

 そう思った俺は、この気持ちをすぐに共有したくてセシノに話し始めたのだった。
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