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第五章 襲来に備える俺

143、作戦会議

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 今日、アンナのエスコート作戦は成功したと言っていいだろう。

 あの後、宿屋に戻ってからはセシノにアンナを案内してもらい、温泉に美味しいご飯にと、色々と堪能してもらったらしい。
 そして先程、アンナは機嫌が良さそうに、鼻歌を歌いながら案内した部屋へと入っていった。


 そしてアンナが眠りについた頃ーーー

「今からアンナ陥落作戦の作戦会議を行う!!」

 ダイニングでは俺の力強い声が響いていた。

 俺は一日アンナの様子を見て、アンナが俺に惚れてる事を嫌々認めるしかなかった。
 そして今日の成功を無駄にしないため、俺はさっそく話し合いをしたいと、皆に集まってもらったのだ。
 ここには俺とセシノとレッド(いるけど俺の肩で爆睡中)だけしかいないが、現状動ける者が少ないから仕方がないだろう。

「バンさん、そんな大きな声をだしたらアンナさんが起きませんか?」
「流石にここから客室は離れてるし、普通に話しても大丈夫だと思うけどな。でも念には念をって言うし、コソコソ話してる方が作戦会議っぽいかもな」

 しかも机と椅子があるにもかかわらず、何故か俺たちは床に座って喋っている為、尚更作戦会議っぽくみえるのだ。
 そんなわけで変な納得の仕方をした俺は、小声でセシノに話しかける。

「今日の俺、セシノから見てどうだった? 俺的には良かったと思ってるんだけど」
「そうですね……。全て見ていたわけではないですが、アンナさんを自然にエスコート出来てたと思います。ですが、もっとグイグイいってもよかったかもしれませんね」
「えぇっ!?」

 嘘だろ……俺は死ぬ気で頑張ったというのに、まだまだ足りないっていうのかよ!?

「そうですね……見たところアンナさんは押しに弱いんだと思います。だから、もっとボディータッチを増やしてみてはどうでしょうか?」
「いや、流石にそこまではちょっと……」
「バンさん、そんな事を言ってる時間はないと思いますよ。確認したところ、アンナさんの滞在期間は3日間だけなんだそうです」
「まじかよ、思ったより短いな……」

 俺はアンナが宿屋に来るなら、最低1週間は滞在するだろうと思っていた。

「バンさん、腹を括ってください。明日1日で、アンナさんを骨抜きになるまで落とすんです!」
「明日1日か……」

 もし復讐の作戦を実行するなら、夜のほうが都合がいい。
 アンナが3日目に帰ってしまうなら、決行日は明日の夜しかないということだ。
 つまり明日の夜までには、アンナを陥落させなくてはならないと言うことになる。

「大丈夫です、今のバンさんなら出来ますよ。早く復讐を終わらせて、アンナさんの恋心を粉々に打ち砕いてくださいね?」
「あ、ああ。そうだな……」

 復讐するのは俺なのに、何故セシノから黒いオーラを感じるのだろうか……。
 どうみても俺よりも気合いが入ってる事に、俺は少しだけ引いてしまう。

「では作戦を実行する為に、バンさんには女性が喜ぶボディータッチについて知ってもらう必要があると思うんです」
「そうは言っても、接し方は人それぞれだと思うんだけどなぁ……」
「任せてください。……以前マリーさんに商人をする為に必要な、『人の心に付け入る100の方法』を伝授して頂きましたから」

 マリーのやつ、いつのまにセシノにそんな事を教えてたんだよ。
 しかし今はマリーに対しての怒りよりも、マリーがいなくなってからまだ2日しか経っていないという事実に、俺はあの触り心地が既に懐かしく感じてしまい寂しくなる。

「……でも、そうか。これは、ある意味困ったもんだよな。こんな調子じゃ、俺たちはいつまで経ってもマリー離れが出来なさそうだ……」
「そうですね。でもマリーさんが戻ってきたときに出来るだけ良い結果を報告して、沢山褒めてもらえるように頑張りましょう、バンさん」
「ああ、そうだな」

 セシノもマリーやフォグ、仲間たちの事を思い出してしまったのだろう。
 少しだけ目が潤んでいるを誤魔化すように、顔を背けていた。
 でもきっとこれが終われば、フォグを本格的に治す方法を探す時間も作れる筈だし、その頃にはマリーも回復してきっと全て元通りになる筈だ。
 その為には、今はアンナを落とすための心得をセシノから教わらなくてはならないだろう。

「セシノ、もう時間がないんだろう? 早く俺に、そのテクニックとやらを教えてもらってもいいか」
「はい、もちろんです」

 こうして俺たちは夜遅くまで特訓を繰り返した。
 その中でセシノを押し倒すというハプニングが起きたりしたが、これも上手く取り込んでいきましょうと顔を真っ赤にしたセシノに言われてしまった。
 正直なところ、セシノ相手なら出来そうなことでもアンナが相手だと嫌悪感は出てしまうかもしれない。
 と弱音を吐いていたら、

「そんな私情で挫けるぐらいなら、復讐なんてやめた方がいいです」

 なんて、まるでマリーが言いそうな事をセシノが言い出したのだ。
 そこから俺は恥や屈辱に嫌悪感という感情をどうにか捨てて、セシノの特訓を見事クリアしたのだった。

「後は、明日に備えてゆっくり寝るだけですね」
「ああ……」

 疲れ果てた俺たちは、ここがダイニングなのも気にせずその場でスヤスヤと寝てしまったのだ。


 俺は寝ながらも、明日の予定を夢の中でまで確認していた。

 ……ふふふふ!
 明日はアンナに温泉をじっくり堪能してもらい、そしてセシノの美味しい料理をふんだんに食べさせて、心の傷までじっくり癒してやる。
 そして俺との仲をさらに進展させ、良い雰囲気になったらデートのお誘いをして、夜には俺が8年前に10日間耐え抜いた場所へと招待する。
 そして、俺の正体をバラしてやるのだ。

 ……ふははは!
 その後、真の地獄を見せてやるから待ってろよ、アンナ!!

 こうして夢の中でアンナへと復讐をした俺は、気持ちのいい朝を迎えたのだった。
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