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第五章 襲来に備える俺
137、その前に
しおりを挟む「か、可愛い!?」
そう言われて動揺するセシノに何を当たり前な事を言っているのだと、俺は何度でも言ってやる。
「ああ、セシノはどんな顔をしてても可愛いから安心しろ」
何故ならば、セシノが優しくて良い子なうえにとても可愛い事は、誰もが知ってる事実だからだ。例え親バカのようだと言われたとしても、俺は絶対に間違った事なんて言っていない。
そう思ってレッドを見ると、同意するようにコクコクと頷いていた。
その事に満足した俺は、顔を隠したまま動かなくなってしまったセシノを不思議に思いながらも、もう一度首を傾げていた理由を聞いてみたのだ。
「えーっと、それでセシノが首を傾げてたのは俺に何か言いたい事があったからじゃないのか?」
「……はっ! あ、あの……す、すみません。なんだか幻聴が聞こえたような気がして、ぼーっとしてしまいました」
幻聴……?
もしかして、今日一日で色々な事があり過ぎてセシノも疲れているのかもしれない。
「大丈夫か? 体調が悪いなら、今日は休んでもらってもいいんだけどよ……」
「いえ、大丈夫です! あの、私が首を傾げてた理由でしたよね? それなんですけど……バンさんの話を聞いてからずっと、気になってる事があったからだと思います」
「ずっと気になってる事って……?」
「えっと、紫のモヤとかの話なんですけど……黒い球体はずっとバンさんを追いかけていたって話でしたよね。それって、宿を壊した人がバンさんだけを狙ってるって事で間違いないのですよね?」
「…………あー、多分な」
しかも俺を狙ってる理由の中に、八年前の事が関わってるのかもしれないんだよなぁ。
もしかしたらフォグの頭上のカウントがゼロになった時、あの男が再び仕掛けてくる可能性がある、なんて事はないといいんだけど……。
「バンさん……」
「そんなに心配そうな顔すんなって、俺はあの男に殺されなにように努力はするつもりだ。だけどな、その前に俺たちはやらなきゃいけない事があると思わないか?」
「やらないといけない事……?」
フォグの事については、フォグが起きるまではもうどうにも出来ないだろう。
それならば俺は、奴が仕掛けてくるまでにしなくてはならない事があった。
「それは、アンナに復讐する事だ!!」
「え、今ですか!? バンさんは命を狙われてるかも知れないのに……」
「だからこそだ。再び奴が来た時俺がどうなるかわからないだろ? だからその前に、俺はアンナと決着をつけるつもりだ」
「…………」
その発言に驚いて目を見開いたセシノは、俺から目を逸し沈黙してしまう。
そういえばセシノはアンナとだいぶ仲良くなったようだし、完全に協力はしてくれないかもな……。
そう思って協力はこっちから断ろうと思っていたのに、セシノは予想外の事を言い出したのだ。
「あの、バンさん……前にも言いましたが、私もその復讐を手伝わせてもらいます。なので私に出来る事があれば何でも言ってください!」
「いや、セシノはそれでいいのか……?」
「はい、実は私もアンナさんに少しだけ思うところがありますので……」
「え?」
もしかして、アンナと二人で会っているときに何かあったのだろうか……?
なにより以前のセシノは復讐にそこまで乗り気じゃなかった気がするのに、どうして今はこんなにもやる気に満ちているのだろうか?
そう不思議に思いながらも、とりあえず俺はすぐに準備しなくてはいけない事を紙に書いていく。
「とりあえず、今一番大事なのはこの宿屋の修繕だろうな。とはいえ、ダンジョンの効果で宿だけはすぐに元通りになる筈だ。それでもマヨにリフォームしてもらった所は、もう一度やってもらう必要はあるけどな……」
「そういえば明日、マヨさんはこちらにいらっしゃる予定でしたよね?」
「ああ、その時ついでにお願いしようかと思ってる所だ。どうせ昨日の騒ぎで客は当分こないだろうからなぁ……」
「あんな騒ぎがあった後ですし……しょうがないですよね」
確かにセシノの言う通りなのだけど、これはチャンスでもあると俺は思っていた。
「まあ、そう落ち込むなよ。そのおかげで俺はアンナ一人に集中する事が出来るからな、それは悪い事じゃないと思わないか?」
「……そう言われると、確かにそんな気がしてきました」
「そうだろ? まずはアンナの警戒心をなくす為に、最高の宿泊プランを作成してだな……それで何泊かしてもらって、その最終日に決着をつけてやろって思ってるんだけどなぁ……中々良い案が纏まらなくて行き詰まってる所だったんだ」
俺がアイツにしたい事は沢山ある。
だけどアンナを絶望させるのには、俺の案だけでは何かが足りない気がしたのだ。
「あの……バンさん。この話が役に立つのかわからないのですが、驚かないで聞いてもらえますか?」
「ん? アンナの情報なら今はなんでも欲しい所だからな、ドンとこいよ!」
「それなら……お伝えしますね。これは確信しているわけではありませんが、多分アンナさんは……ば、ばん、ば……」
「ば?」
中々言いづらいのか、どもって上手く言葉が出てこないセシノは、落ち着く為に一度深呼吸をしていた。
そして改めて俺を見つめたセシノは、突然信じられない事を言い出したのだ。
「アンナさんは、バンさんの事が好きなんです!」
「………………は?」
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