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第五章 襲来に備える俺
130、レアモンスター(フォグ視点)
しおりを挟むフォグと別れてからの話を、フォグ視点で。
長くなってしまったので3話ぐらいに分割します。
ーー▼ーー▽ーー▼ーー▽ーー▼ーー
あー、すげぇ森が殺気だってるぜ……。
そう思いながら森の様子を伺っていた俺は今、ゴロツキを逃がさない為に手配していたレアモンスターを引き連れて、このエリアを駆け抜けているところだった。
観察してわかったのは、暴走したモンスターがマリーのいる牧場から来ている数が圧倒的に多い事だろう。その為、俺たちは牧場に近づかないルートで森エリアを抜けようとしていた。
しかし避けようとしても、暴走したモンスターを完全に避けれるわけではない。そのせいで俺はその姿を見る度にマリーの事を思い出してしまい、少しずつ怒りを抑えるのが難しくなっていた。
……でもな、こうして怒りを覚えるのはマリーが俺にとっての特別だからじゃねぇ。
マリーというスライムは、全てのモンスターにとって特別な存在だった。それはアイツがこのダンジョンのモンスターを育てたから、という訳でもない。
……マリーはダンジョンボックスを作り出した初代魔王様の側にいたモンスター、その生き残りだから特別なんだ。
生き残りなんて俺はマリーにしか会った事がないが、なんでもマリーみたいな奴らが他にまだ五体程いるらしい。そんな初代様の側近たちは全員、そこにいるだけでモンスターに影響を与える事が出来るようなのだ。
それなのに当のマリーは希少な存在であるにも関わらず、「あまりにも昔のマスターじゃから全然覚えていないし、ワシもフォグもただのモンスターには変わりないのじゃ」なんて、そう抜かしやがったのを俺は今でも覚えている。
しかしマリーが覚えていなくとも、ダンジョンボックスを作った初代魔王様という人物の影響力は今もなお強く残っている。その為、俺たちモンスターはマリーの近くにいるだけで、魔王様の存在を近くに感じる事ができた。
簡単に言えば、俺たちモンスターにはマリーとマスターがほぼ同等の存在のように感じてしまうのだ。
しかも魔王やマスターの存在はダンジョンの強さに直接関わってくる為、モンスターのランクにその影響が出やすい。
つまり俺が思うに、『カルテットリバーサイド』に何年もマスターがいなくても成り立っていたのは、マリーがいたからというのが大きいのだろう。
そして今回、そのマリーが倒れたんだ。
きっとモンスターが暴走するぐらいは当たり前の事なんだろう。
だけどよ、なーんか嫌な予感が収まらねぇのは何でだぜ….?
それに、この胸騒ぎーーー。
もしかして、マスターに何かあったんじゃねぇよな……?
くそっ、何かすげぇ不安になってきたし、こんな事なら俺も近くで見守ってればよかったぜ!
そして、今からでも戻るか? と考えはじめた頃、俺の思考を遮るように何度も俺を呼ぶ声が聞こえてきたのだ。
そのせいで俺は、現実に引き戻されてしまう。
「ーーーっにき、兄貴!」
「あ?」
考えるのを中止した俺は前を走るレインを見る。
俺を兄貴と呼ぶのはコイツしかいないからな、誰が俺を呼んだのかすぐにわかるんだぜ。
因みに、レインは俺と同種であるウルフ型モンスターだ。俺の何を気に入ったのかわからないが、気がついたら勝手に俺の舎弟になっていた。
本当なら舎弟なんかいらないのだが、特に邪魔をしてくるわけではないし結構役に立つので、俺はもう好きにさせている。
「兄貴~、あまりに無視するから嫌われたのかと思ったっす!」
目があったレインは、凄く嬉しそうに青色の目を輝かせると尻尾を大きく左右に揺らしていた。
「……いや、考え事してただけだから気にすんじゃねぇよ。それで、何かあったのか?」
「いや、一応現在地について兄貴に伝えしようと思っただけっす。そろそろ森エリアの端まで来たっすからね。そんでもって少し先に見える川を抜けたら湖のエリアに出るっす! 流石にここまでこれば、暴走に巻き込まれたりしないっすかね……?」
確かに先程から暴走しているモンスターを見る数は少なくなった気がするし、だいぶ距離を離せたのだろう。
しかしだ、これだけ森が殺気だっているからな。
落ちつかねぇこの感じは湖のエリアや山エリアに辿り着いても、それ程変わらないかもしれねぇ。
「いや、湖エリアならまだ駄目だぜ。俺たちが向かうのは山エリアだ。それにこの先どうなるかわからねぇから、念のためもっと離れる必要があるんだぜ。それとだけどよ……レインはそんな事を考える暇があるなら、今は意識を持ってかれないように前だけ見て走っとけ!」
「ひゃぃっす! うぅ……やっぱり兄貴には隠せないっすね。でも俺、見捨てられないよう頑張るっすから!」
今のレインは落ち着いてるように見えるが、その走り方から無理している事はバレバレだった。
あんなにも左右にブレて走ってたらな……俺じゃなくてもわかるんじゃねぇのか?
心配になった俺は、一応フォローの言葉を返しておく。
「そんなんで見捨てるわけがねぇだろうが……だから無理だと思ったときは、すぐに俺に言えよ?」
「あ、兄貴……!」
いや、俺を見るんじゃねぇよ、前を見ろ!
そう言ってやろうと思ったのに、俺の後ろをついて来ていたレアモンスターの一体が、俺たちのやりとりを見て突然クスクスと笑いだしたのだ。
「うふふふっ……あら、笑っちゃってごめんなさいね。相変わらず二人は仲良しで羨ましいわぁ」
「いや、なんで笑われてるのかわからねぇし、どう見てもお前らのが仲良しだろうが?」
「ふふふっ、仲良しなんて面白い事言うのね~? クロ、私たちって仲良しかしら?」
「否、戦う事が全てである我らが仲良しと言われるとは、流石に我も笑ってしまいそうだ」
そうブツクサ言いながら俺の後ろを走っているのは、レアモンスターであるスノウタイガーと、シャドータイガーの二体だ。
その見た目から二体は互いにシロ、クロと呼び合っている。だから二体の仲は良いのだと思っていたのだが、どうやら俺の勘違いだったようだ。
そして俺たちの後ろには、この二体のモンスターしかいなかった。
それは回収できたモンスターがこの二体だけだからだ。本当はレアモンスターは他にもいたのだが、途中で飽きて既に帰った後だったらしい。
流石レアモンスター、自由な奴らが多すぎるんだぜ。
因みにレアモンスターとはランク5以上のモンスターの事であり、そこまでたどり着くとモンスターはようやく自我を持ち喋れるようになる。
だけど実際にそこまで辿り着けるのは、ダンジョンの1、2割しかいない。その為コイツらは、人間からレアモンスターと言われるのだ。
しかし自我を待った結果なのか、何か変な奴らが多いのも困りもんだぜ……。
「それにしてもフォグにお願いされて来て見たら、とんだ災難に巻き込まれるところだったわねぇ、クロ」
「シロの言う通りだ。これならば、我々は追加報酬をもらっても許されると思わないか?」
「ええ、そうね。それぐらいあってもいいわよねぇ~」
今回、コイツらを無理矢理巻き込んだのは俺だ。
だからこんな事になって悪いと思っていた俺は、二体へと素直に謝っていた。
「そうだな、お前らを変な事に巻き込んで悪いとは思ってるんだぜ……。だけどよ、これが終わったら約束通り謝礼はするから、もう少しだけ付き合ってくれねぇか?」
「うーん、どうするクロ?」
「ならば、我らのランク上げに付き合って欲しいのだが……どうだろうか?」
どうやら戦闘狂のこの二体は、強くなる事しか頭にないらしい。
他のレアモンスターもそれぐらい単純なら、扱いやすくていいんだけどよ……。
「わかったぜ。ランク上げに付き合うだけで済むなら、俺とレインの二人がいくらでも付き合ってやるぜ!」
「あらぁ~、それは楽しみだわ!」
「うむ、何故だろうな。その言葉を聞いたら、我もやる気がみなぎってきた。仕方がないので今回は最後まで付き合ってやろう」
「お、おう。とりあえず山エリアまでは一緒に着いてきてくれよ」
「ならば、我らが先頭に立つ事にしよう」
「確かにレインちゃんじゃ、少し不安だものね~」
こうしてフォーメーションを変えた俺たちは、山エリアに向けて改めて走り出したのだった。
確かにこれで、俺の心配事は一つ減った。
しかし今の俺は、どうしてもマスターの事が気になってしまい、無意識にマスターのいる方向を何度も見上げてしまう。
やっぱり、レインたちと話しててもこの胸騒ぎは収まんねぇし……何よりマスターに何かあったら、俺はマリーに顔向けできねぇからな。
そう思いながら再び心配になった俺は、また同じ方角を見上げて違和感を覚えてしまう。
「ん……?」
そして先程とは全く異なるその光景を理解した俺は、つい驚きの声をあげてしまったのだ。
「おいおい、何だよあれは!?」
どう見てもマスターがいる筈の方向には、いつのまに現れたのか紫色のモヤが物凄い勢いよく広がっていた。
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