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第五章 襲来に備える俺
133、不安
しおりを挟むフォグに助けられた俺は、必死にその手を伸ばしていた。
しかし落ちていく俺との距離は、どんどん離れていく。
そして今、俺の目にはフォグが黒色の球体を飲み込んだ姿が見えていた。
ぐるる、と唸るフォグは自分の体からモヤが抜け出そうとするのを、どうにか押さえつけているようだった。
「フォグ、やめろフォグーー!!!」
何度フォグの名前を叫んでも、その声はもう届かない。
そしてモヤに包まれるフォグの姿に暫く唖然としていた俺は、すぐそこまで地面が迫っている事にようやく気づき、ハッとした。
しかし動揺している体は、すぐに動いてはくれない。
せっかくフォグが助けてくれたのに、着地に失敗して死ぬとか馬鹿過ぎて笑えないだろ……。
本当はもう少し前から準備をしていれば、少し骨が折れるぐらいで済む予定だった。それなのに今から準備をするには、地面までの距離が近過ぎる。
でもな、俺はまだやり残した事があるんだ。
だからここで死ぬ訳にはいかないんだよ!
アンナに復讐するまで死ねないし、マリーの仇も取りたい。それに置いて来たセシノを悲しませる訳にもいかないからな。
そう思いながら、急いで残りの落下地点までの距離を目測した俺は焦っていた。
今からダンジョンリフォームを使い、俺の真下に衝撃を緩和するクッションを何重にも作る時間はないだろう。
それでもやらないよりは絶対に良い!
そう思って俺はダンジョンリフォームを展開しようとしたーーーその瞬間、燃えるような赤色が視界の端に見えたのを俺は見逃さなかった。
あの赤色は…………まさか!?
「マスターーーーーーー!!!」
そう叫びながら俺を助けに来たのは、いつのまにか元のサイズに戻っていたレッドだった。
どうやらレッドは、あのモヤを避け切って急いで駆けつけてくれたようだ。
「レッド!!!」
ボフンっとレッドの上に転げ落ちた俺は、あまり衝撃が無かった事に不思議に思い顔をあげて驚いた。
レッドは俺の為に今も減速しながら下降をし続け、更に落下の衝撃を和らげる為に一番柔らかいお腹で俺を受け止めていたのだ。
しかしそのせいでレッドは下がよく見えてないのか、木々が目前まで迫っているのに気づいていないようだった。
「レッド! このままだと木にぶつかるから、避けろ!!」
その声にすぐさま体勢を立て直したレッドは避けるよりも先に、俺が落ちないようにと背に移動させた。
そして木にぶつかりそうになるのをギリギリで避けたレッドは、再び空へと舞い上がる。
「ふん、ぐぅぬっ……!! よ、よーし、この高さまできたら流石にもう大丈夫だぞ!」
「……悪いな、レッド。あのままだったら怪我どころじゃなかったと思うから助かったよ。それにしても、俺を受け止めた腹は大丈夫だったか?」
「おう、俺様は全然平気だぞ! そんな事より、早くフォグも回収しに行かなくちゃだろ?」
「そ、そうだ! フォグを助けないと!」
慌ててフォグのもとへと向かおうとした俺は、その位置を確認する。
最後に見たフォグはモヤの渦に囲まれ宙に浮いたままだったのだが、不思議な事に今はモヤの残骸なんて全く見当たらなかったのだ。
そして俺は、すぐに落下していくフォグの姿を発見した。
「レッド、フォグはあそこだ!」
「ああ、俺様にも見えてるぞ! それにアイツ、落下してるだけで意識はあるみたいだぞ?」
確かに、フォグの顔がニヤリと笑っているのが俺にも見える。
何故不敵な笑みを浮かべているのわからないが、とりあえずフォグが気を失っていない事にホッとした俺は、すぐにその名を呼んだ。
「フォグ!!」
俺の声にピクリと反応したフォグが、ゆっくり俺の方を見る。
そしてすぐに体勢を整えたフォグは、軽く宙を蹴るとレッドの背中へと着地した。しかしそれと同時に、フォグは足から崩れ落ちてしまったのだ。
「フォグ!! 大丈夫か!?」
「っ……少しフラついただけで大袈裟だぜ。それにどう見ても、俺は大丈夫そうに見えるだろ?」
「……いやいや、何処が大丈夫なんだよ! 確かに俺を助けてくれた事は感謝してるさ……でもなぁ、なんで俺なんかを庇ったんだよ?」
「へへっ……そんなの、マスターを守るのが俺たちの役目だと思ってるからに決まってるだろ? それにしても、マスターは怪我もなさそうだし……本当、ギリギリ間に合ってよかったぜ」
フォグは俺の頭上を確認すると、安心したのかいつものようにニカリと笑っていた。
その姿に、俺はため息をついてしまう。
「……はぁ、全然よくないからな! それに、あの黒い球体はどうなったんだよ!?」
「あー、あれは俺が全部飲み込んでやったぜ」
「ぜ、全部って!? いや飲み込んだってどういう事だよ?」
恐る恐るフォグの頭上を確認した俺は、驚きのあまり目を見開いてしまう。
そこには、既に数字が浮かんでいたのだ。
ーーーくそ、俺のせいでフォグが……!
頭上の数字を触ろうとしても、まるで蜃気楼のように揺らめくだけで消える事はない。
「それ、触れないと思うぜ?」
「で、でもよ……」
「おいおい、マスター。そんな心配しなくても、これは大したモノじゃねぇから気にすんなって!」
「それなら……フォグはその数字が何なのかわかってて、あの球を飲み込んだっていうのかよ!?」
「…………ああ、そうだぜ。ほら、数字は確かに出てるがよ、俺は全然平気そうだろ? 本当に大丈夫だからマスターは気にすんな!」
気にするなと言われても、流石に無理だろ……。
確かに声だけ聞けばいつものフォグなのだけど、その弱ってる姿は全然大丈夫そうには見えない。
でも、本当にフォグが理解してあの球体を取り込んだとしたら……? それならきっとアレは、本当に死ぬようなモノじゃないのかもしれない。
それに俺はいつも『俺を庇って死ぬのはやめろ』と、約束してるし……だから今回もフォグの言う通りきっと大丈夫、なんだよな?
「……はぁ、わかったよ。気にしないってのは完全には無理だけどさ、俺はフォグを信じてるからな」
「……ああ、それでいいんだぜ」
「でも一つだけ、その上の数字についてだけは後で詳しく聞かせてもらうからな」
「それについては、帰ってから…………くっ」
「フォグ!?」
「いや、なんでもねぇから気にすんじゃねぇぜ」
そう言うフォグはやはり何処か苦しそうで、俺にはフォグが何かを誤魔化す為に笑っているようにしか見えなかった。
でもフォグは大丈夫だと言ってるし、もう少し様子を見るしかないよな……。
そう思いながら無意識にフォグのフカフカの毛に頭を突っ込んだ俺は、その毛を触る事でこの不安を一時的に払拭させるしかなかった。
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