ダンジョンで温泉宿とモフモフライフをはじめましょう!〜置き去りにされて8年後、復讐心で観光地計画が止まらない〜

猪鹿蝶

文字の大きさ
上 下
127 / 168
第五章 襲来に備える俺

127、暴走を味方にして

しおりを挟む

 俺の存在に気がついた男たちは赤竜の事なんてもう目に入っていないのか、俺に向けて怒りの殺気を放っていた。
 コイツらに恨まれてるのはわかっているが、何故かその姿から紫色のモヤが出ているように見える。もしかするとそれは殺気による幻覚なのか……?
 そう疑問に思いながらも、俺は奴らに向けて声を張りあげていた。

「『カルテットリバーサイド』を穢したのは貴様らだな!」
「何が穢しただ!!」
「お前のせいで俺たちがどんな目にあったと思ってんだ!」
「そうだ、お前のせいで俺たちは……」

 その先は言えないのか、悔しそうに口を噛み締める男たちを見ても、俺は何も思わなかった。
 だって、ここにいる奴らは最低な人間しかいないのだ。そんな奴らに何があったかなんて、俺は聞きたくもないし興味もない。

「それは、貴様らの自業自得だろ!」
「何だと!?」
「ふざけんな、モンスターの上なんかに乗りやがって!」
「そうだそうだ、お前をぶっ殺してやるから降りて来やがれ!」

 皆一斉に喋るせいで、男たちが何を言っているのかよく聞き取れない。
 だけど、そんな罵倒なんて聞こえなくても問題ない。今の俺は、既に見えはじめているアレの対処をしなくてはいけないのだから……。

「どうやら貴様らには『カルテットリバーサイド』を怒らせた天罰がくだるようだ。せいぜい気絶しないように耐えるが良い!」
「は、何言って……」
「いや、何だこの地鳴りなような音?」

 周りの異変にようやく気がついた男たちは、不安そうに辺りを見回し始めたのだ。
 既に地面はゴゴゴゴと音を立てはじめ、俺の目には数百体程のモンスターの群れが見えていた。
 アレが男たちを飲み込んだら生き残るのは無理だろう。不本意だがその前に結界を張らないと……。
 そう思って俺はプロテクト・ゾーンの準備をしようとした。
 それなのに突然レッドが大きく仰反ったのだ。
 俺はレッドから落ちそうになるのを、何とか踏みとどまる。

「レッド、どうした?」
「……マスター、こめん。俺、もうダメだぞ……」
「お、おい。レッド!?」

 どうやらレッドは、暴走するモンスターが放つ怒りの空気に耐えきれなくなったのか、ブレスを放つ動作に入ってしまったようなのだ。
 このままだとマズイと思った俺は、慌てて結界の準備をする。

「くそっ、結界範囲を設定『プロテクト・ゾーン』を展開!!」

 レッドがファイヤーブレスを放つのと同時に、俺は男たちへ結界を張った。
 目の前で炎の塊が、どうにか間に合った俺の結界を飲み込みながら男たちに襲いかかる。
 そして唸る炎の隙間からは、男たちの情けない声が聞こえていた。

「ひぃぃいい!!」
「助けてくれぇぇえ!!」

 ファイアーブレスのせいでどうなってるのかわからないけど、男たちの声がする限り死んではいない筈なので大丈夫だろう。
 それよりも俺は、どうしたらレッドを落ち着かせる事が出来るのかと、頭をポンポンと叩いたり声をかけたりしていた。

「レッド、落ち着け……落ち着いてくれ」

 正直言ってこの方法に効果があったのか、他のモンスターが到着したからなのかわからない。だけど炎の勢いは少しずつ収まりはじめていた。
 そして炎が完全に途切れたのを確認した俺は、男たちが生きている事に不本意だがホッとしたのだ。
 今回は気絶している奴はいないが、殆どが戦意を喪失したようでその場に崩れ落ちていた。
 そして突然目の前に現れたモンスターの大群に驚いた男たちは、今度は震えながら嘆きはじめたのだ。

「ひ、ひぃ……神よ、俺が何をしたというんだ!」
「お、俺たちはあのブレスを受けたのに生きてる訳がねぇ……ここは天国?」
「どう見ても地獄だろ! そうじゃなかったらモンスターに囲まれてる理由がわかんねぇって……」

 どうやら男たちは、自分たちはもう死んだと思い込んでいるらしい。実際は死ぬどころか傷一つ付いていないんだけどな……。
 それに男たちにはそろそろ口を割ってもららう必要がある。だから今みたいに恐怖で震えているのなら脅すのも楽な筈だ。
 そう思った俺は、混乱する男たちを黙らせる為に大声を出していた。

「貴様らはまだ死んでなどない!!」
「……え?」
「あれ、まだお面の英雄がいる……って事は」
「「「俺たち、まだ生きてる!?」」」
「その通り、しかしその状況からお前らを助けられるのはこの私だけだ。それが何を示すのかわかるだろ?」

 男たちは顔を見合わせると、頭を地面に擦りつけて潔く俺に土下座をしたのだ。

「「「すみませんでした!!!」」」

 ……いや、俺が望んでいたのはそうじゃない。
 コイツらに謝られた所で、宿屋の信頼が落ちた事やマリーが傷ついた事も変わるわけじゃない。
 本当なら今すぐにでもコイツらをボコボコにしてしまいたい。でもこれは情報を得るためだと、俺は怒りを堪えながら男たちに向けて言った。

「俺は謝って欲しいとは言ってない。お前らの後ろにいる奴の情報をよこせと言っているんだ。それと何故あそこの宿屋を襲う必要があったのか、それも答えて貰おうか!!」
「わかった、話せる事は話すから助けてくれ!」
「俺たちは頼まれてやっただけなんだ!」
「そうだ、これが成功したらファミリーに正式に入れてくれるって言うから!」
「そうだそうだ、だから俺たちのせいじゃねぇ!」

 自分たちの非を認めず、その罪を他の人に押し付けるとか……これじゃあ、コイツらが謝ったのもどうせ口だけだろうな。
 それより一番問題なのは、コイツらの後ろにいるファミリーの存在だ。
 正直な話ファミリーが宿屋を襲う理由も、俺を殺そうとする理由も全くわからない。だけどあのフードの男が関わってるのは間違いないだろう。
 だから今はファミリーの名前だけでも聞き出して、どうにか対策を練らなくては……。

「ならば聞こう。そのファミリーの名はなんだ?」
「それは……」
「なんだ、言えないのか?」
「……いや、ち……ちがっ!」
「その、ふぁ……ファミリーは……!」
「………………っ!?」

 男たちは何か言おうとしてるのに、口をパクパクさせるだけで何の言葉も出てこない。
 なんか変だ……もしかしてこいつら口止めされてんのか?
 しかもさっきまで薄っすらと見えていた紫のもやが、少しずつ大きくなってるように見える。
 ……嘘だろ、あれって幻覚じゃなかったのか?
 しかも結界の中でも消えないと言う事は、あのモヤは魔力で生まれたものでもないらしい。俺は何だか嫌な予感がして、暴走してるモンスターたちに向けて叫んていた。

「お前ら、今すぐ逃げろ!!」

 しかし暴走してるモンスターたちが俺の言う事なんて聞くわけがない。
 それなのにモヤはさらに大きくなり、結界から少しずつはみ出していくのが見えていた。
 そして突然、男たちが呻き声をあげたのだ。

「……ぅぐっ……!」
「ごがぁぅ……ギギギギィガ」
「な、な……ぎがぁがガガガ……」

 奇怪な声をあげて苦しみ倒れていく男たちはモヤの中に消えてしまい、ここからではどうなったのかよくわからない。

「一体、どうなって……?」

 混乱する俺の前で、紫色のモヤは更に膨らみ大きくなっていく。それはまるで俺を飲み込もうとしているように見えたのだ。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

冥界帰りの劣等冒険者 ~冥界の女王に気に入られた僕は死神の力を手に入れました。さっそくですが僕を裏切った悪い魂を刈り取りに行きます~

日之影ソラ
ファンタジー
傷ついたフクロウを助けた心優しい冒険者ウェズ。 他人の魂が見える『霊視』というスキルしか持たず、これといった才能もないウェズは、パーティー内で雑用係を務めていた。 パーティー内では落ちこぼれと罵られ、散々な扱いを受けつつも、一人では冒険者としてやっていけないことを理解し、仲間からの罵声に耐える日々を送る。 ある日、新しく発見されたダンジョンに潜った一行は、まだ誰も見つけていない隠し通路を見つける。一気に最下層までたどり着き、お宝の山に興奮する一行だったが、宝を守る強力なモンスターに襲われ絶体絶命のピンチに陥った。 仲間に脅される形で囮になったウェズは、そのまま見捨てられ、モンスターの前に置き去りにされてしまう。 死を覚悟した彼を救ったのは、冥界から来た死神の少女イルカルラだった。 彼女に連れられ冥界にやってきたウェズは、自分に死神の才能があると知り、冥王から力を授かって死神代行となる。 罪人の魂は赤い。 赤い魂は地獄へ落ちる。 自分を裏切った彼らの魂が、赤く染まる光景を思い出したウェズ。 さて、お仕事を始めようか? 赤い罪人の魂を刈り取りにいくとしよう。 小説家になろうにて先行連載中

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

処理中です...