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第五章 襲来に備える俺
126、怒り
しおりを挟む俺はフォグと共にようやくゲート付近まで来ていた。きっとゴロツキまではそんな遠くないだろう。
そう思って気を引き締めていると、俺を後ろから呼び止める声がした。
「マスター……俺様も一緒に行くぞ」
そこには少し落ち込んでいるレッドがいた。
先程レッドもマリーが倒れている場所にいたのだが、とてもショックを受けたせいなのかその時は一言も喋る事はなかったのだ。
「ついてきてもいいけどさ、怒りのまま奴らを殺すのはダメだからな?」
「わかった……殺さない程度に殺すぞ」
「……はぁ、全然わかってないだろ? 確かにレッドが怒るのも仕方ないけどさ、ここで死人を出すのはダメだ。『カルテットリバーサイド』の評価を、あんな奴らのせいで下げる訳にはいかないからな」
「わかった。殺さない程度に優しく殺すぞ」
「いやいや、優しくしても何も変わってないからな!」
どうやらレッドは怒りのあまりおかしくなっているのか、俺の話なんて全く聞こえていないようだった。
しかもよく聞くと、レッドは小声で「殺す、殺してやるぞ」と何度も呟き、どう見ても正気ではなかった。
「マスター、レッドにこれ以上何言ってもダメだと思うぜ? というかレッドでこの状態なら、もしかすると最悪な事になるかもな……」
「最悪な事?」
「ほら、あれだ。モンスターの暴走……」
「モンスターの暴走!? それって前にモンスター牧場でおきたのと同じような事がおこる可能性があるのか?」
以前、俺はモンスター牧場で眠るモンスターたちを驚かせてしまい、怒り状態のモンスターをダンジョンにとき放ちそうになった事がある。
その時は咄嗟に結界を張ってなんとか凌いだが、一斉にモンスターが走り出す姿にとても恐怖を感じたものだ。
「そうだぜ。それにマスターなら、モンスター達が一斉に男たちの所へと集まったらどうなるか、それぐらいわかるだろ?」
「ああ、間違いなくゴロツキたちは死ぬだろうな」
「という訳だからよ、少し急いだ方がいいかもしれねぇ。さっきモンスター牧場にマリーを連れて行ったから、そろそろモンスター達はマリーの事に気がつきはじめてると思うんだぜ」
「なんだって! じゃあマリーをモンスター牧場に連れて行ったのは間違いだったのか?」
「そんな事はねぇよ。あの場では最善の策だったと思うぜ」
「だけどこのままゴロツキ達に死なれたら情報を聞き出す事もできないんだぞ……くそ、今は敵討ちとか言ってる場合じゃないな。奴らが死ぬ前になんとか辿りつかないと……!」
せっかく俺の中でいい作戦が浮かびかけていたのに、これじゃあ全て台無しだ。
だけどこれは、逆に考えればチャンスかもしれない。モンスターの襲撃を上手く使えば奴らの口を割らせるのが簡単になるかもしれないからな。
俺がそんな事を考えている間に、どうやら目的地へとだいぶ近づいてきたのか、奴らの騒ぐ声が徐々に大きくなっていた。
「確認しておくが、今のところモンスターはまだ暴走していないんだな?」
「ああ、そうみたいだぜ。この辺りのモンスターは、まだ落ち着いてるように見えるからな」
「そうか、ならよかった」
俺はどうにか間に合った事に、ホッとため息をついてしまう。
そしてゴロツキ達が見える場所までバレないようにそっと近づいた俺は、その集団の顔ぶれを見て驚いてしまったのだ。
「あれ、アイツら全員どこかで見た事があるような……?」
確かにギルドで俺を階段から落とした二人組もそこにはいるようだけど、俺は他の奴らにも見覚えがあったのだ。
「えーっと、あれはレッドと初めて会ったときの奴らで……確か、ミラたちを陥れたクソみたいな冒険者たちだな」
「あー、確かにそう言われたら見た事があるかもしれねぇ」
「それとアレは、アンナを襲ってた奴か……?」
確かアイツらは、もう二度と俺の顔なんて見たくないと言って去っていった筈なのに……何でここに来たのだろう。
「よくわかんねぇが、これはマスターに恨みがある奴らの大集合って感じか?」
「何人かは恨まれても仕方がないと思うが、ギルドであった二人はなんだ……逆恨みか?」
「マスター、どうやらそれを考える時間はなさそうだぜ」
耳をピンと立てたフォグが、ダンジョン内の異変を察知した。
それはつまりモンスターたちにマリーの状態がバレたと言う事だろう。
「一体でも暴走すれば、それに感化されてモンスターたちは一斉に来る筈だぜ?」
「……わかった。それなら俺はここのダンジョンマスターとして、それを最大限利用させてもらうさ」
「利用?」
「上手くいけば、奴らを地獄へと陥れる事ができる筈だからな。それと今から俺はレッドに乗って奴らの前に降り立つつもりだ」
「今にも暴走しそうなレッドに乗るのか? 流石にそれは危険だぜ!」
「レッドが何をしでかすかわからないからこそ、側で見てた方がいいかと思ってな」
あれでもレッドは、元山エリアのボスなだけあってかなり強い。
こんな奴が暴れたらダンジョンが無茶苦茶になる可能性があるからな……。
「……成る程、確かにマスターが側にいた方が安心かもしれねぇ。でもそれなら俺は何をしたらいいんだぜ?」
「フォグはモンスターが雪崩れ込んできたら、レアモンスター達を率いて一旦離脱してくれ。そいつらまで暴走したら流石に大変な事になりそうだしな」
「わかったぜ。俺もその空気に飲まれないように気をつけるからよ、マスターも危険だと感じたらすぐに逃げるんだぜ?」
「わかってる、でもその前にレッドに振り落とされないように気をつけるさ」
俺はフォグから降りると、今もブツブツと「殺す、殺す」と呟いているレッドに近づく。
「レッド、元のサイズに戻って俺を乗せてもらえるか?」
「……マスター、奴らを死なない程度に殺せるなら俺は何でもするぞ」
完全に言ってる事がおかしい。
多分レッドもそれがわかっているのだろう。
よく見るとレッドは、暴走しないように自分の爪を足に突き立てていた。
そこまでしないと理性が保てないなんて、モンスターたちにとってマリーはそれ程大切な存在だと言う事なのだろう。
でもその気持ちは俺だって負けていないさ。
「レッド、それじゃあ行くぞ!」
「おう!」
俺はレッドに乗ろうとして、ハッと自分の服装を確認した。
しまった! 今の俺は耐熱の準備なんてしてないから、このままレッドに乗ると火傷するよな……?
一瞬の不安に首を振った俺は、マリーの事を考えれば少し火傷するのが何だと、徐々に大きくなるレッドの背中に勢いよく飛び乗ったのだ。
「よっと……あれ?」
覚悟してレッドに乗ったのに、思ったような痛みはやってこない。その事を不思議に思った俺はいつもと違う所があるのを思い出していた。
そういえばセシノが選んだこのフード、耐熱や耐水とか色々効果がついてるとか言ってた気がする。
だけど何もつけてない手すらも熱くないなんて、一体どうなってるんだ?
その事に驚きながら、俺はこのフードを渡してくれたセシノに心の中で盛大に感謝した。
「よし、レッド! このまま奴らを見下ろせるまで大きくなるぞ!」
「ぐるうぅぅあぁぁあぁぁ!!!」
レッドは俺に答えるように咆哮を上げる。
どんどん巨大化するレッドの上からは、男たちがよく見えていた。
そしてゴロツキたちは突然現れた赤竜にパニックをおこしたのだ。
「な、なんで突然ここに赤竜が!?」
「あれって、俺らがやられた赤竜なんじゃ……」
「お前ら落ち着け、冷静に対処すれば俺たちなら赤竜ぐらい倒せるはずだ!」
「お、おい! 見ろよ……赤竜に誰か乗って……」
「あれは……あの時と同じ」
「まさか、あれは……」
俺の存在に気がついた男たちは、一斉に声を荒げると俺をその名で呼んだのだ。
「「「「───お面の英雄!!!」」」」
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